7 おまけのおまけ ヘレナの場合
今、私はニールと一緒にいる。
いつでもどこでもニールと一緒だ。
1年前、イヌスキー伯爵家を追い出され、愛するニールに捨てられ実家に戻ると異母弟が誕生しており、2歳になっていた。もう父にとっても私はいらない子だった。
かつて虐待などなかったのだが義母には嫌われていた。私も大っ嫌いだった。
だって義母は私のママが自死する原因になった女だ。父の浮気でママは精神を患ったのだ。
ママの死後、父は義母をすぐに家に迎え入れた、許せなかった。それでイヌスキー伯爵家を頼ったのだ。
*
9歳の頃、父の浮気でうつ状態のママは大親友のイヌスキー伯爵夫人を頼って面倒を見てもらっていた。何日も泊まって、父が迎えに来ると帰宅するのを繰り返していた。
あの日、朝早く目覚めた私はニールと遊びたくて部屋を訪ねた。するとニールが溺愛している犬のポメが出てきたのだ。
ニールが目覚めてポメがいないと驚くだろうなとイタズラを考えた私はポメを抱いて庭に出た。
居なくなればニールはどうするだろう。
別にポメが嫌いではなかったけど、ニールを独占するポメが居なくなればいいと思った。
池まで行ってポメを投げ入れたが、ポメは泳いで這い上がってきた。
フワフワした毛はペッタンコになって、その姿はまるで大きな濡れネズミのようだった。
どうしようニールに叱られる・・・そうだ、池の底に沈めばバレないかも。
もう一度池に投げ入れたがやはり泳いで沈まない、焦った私は大きな石を片手に持って・・・そのあとは夢中で・・・ポメはもう這い上がって来なかった。
怖くなって部屋に戻ると虚ろな顔のママがベッドに座っていて、私のドレスが濡れているのに気づき『何をしていたの?』と聞いてきた。
『どうしようママ。ポメとお散歩していたら池に落ちて死んでしまったの』
ママは真っ青になり『誰かに見られた?』と聞かれたので首を横に振った。朝の支度で忙しいメイド達には幸いにも見られていなかった。
『ヘレナ、誰にも言ってはダメよ。大好きなニールに嫌われてしまうわよ』
急いで支度をして私達母娘は逃げるように帰宅した。
再びニールと会ったのはその一月後で、彼はペットロスになって塞ぎ込んでいた。
『僕の不注意のせいでポメが死んだんだ』
彼はそう信じていた。だから私は心が軽くなって罪悪感も消えてしまった。
ママの死後、伯爵夫人に保護してもらってからは幸福だった。ニールはいつも一緒で何でも願いを叶えてくれて、贅沢な暮らしができた。
ニールがお見合いしても高慢な令嬢達は私が番犬になって追い払ってやった。
でもサーシャは鈍いのか嫌がらせも通じず、半年も婚約者の席を死守していた。同じ男爵令嬢なのにどうしてサーシャが伯爵夫人になって私は犬のままなのよ。
サーシャが憎かった。でもニールの傍にいる為にはサーシャを頼るしかない。
ニールと謝罪に向かい最初は上手く取り入るつもりだったのに、サーシャの弟に追い返されそうになってカッとなってしまった。おまけに白いポメラニアンまで用意してニールの溺愛を奪おうとしていた。
サーシャも犬も死んじゃえと思った。
そうよ邪魔者は消せばいい。
ニールに捨てられ、今や実家の誰もが弟を可愛がり私は邪魔者扱いで無視された。
弟が邪魔なら消せばいいんだわ、ポメみたいに。そうしたら私が一番よ。
夜に弟の部屋に忍び込んで寝ている弟の顔に枕を押し付けた。
だが伯爵夫人から追放の理由を聞いて警戒していた父と義母に気づかれてすぐに阻止されてしまった。
ポメを殺めた事実を父も把握していたのだ。
『お前は母親と同じ、精神を病んでいる』
いいえ病んでなんかいないわ。ちゃんと判断してやってるんだもの。
なのに医療施設に隔離された。
いつかニールが迎えに来てくれる。そう信じてニールに手紙を出す日々を送っていたが返事もなく虚しい日々が続き、やがて絶望した。
そうしてある日、目が覚めると私は犬になっていた。
いつ私は死んだのだろう・・・生まれ変わって、私は本当の犬になっていた。
早くに母犬と離されて、ペットショップに連れてこられた。
狭いゲージの中で外に出る日を夢見て、長い間ニールのようなご主人様に出会えるのを待っていた。
すると眠っている間に新しいご主人様が決まって、私はゲージから出されたのだ。
「よろしくね。名前はゴールがいいかな」
ああ、やっぱり迎えに来てくれた。
今度こそずっと一緒だね・・・
最後まで読んでいただいて有難うございました。