5 本編完結
婚約が解消されてちょっと気分はブルー。
ニールの頭が正常に戻って、きっと私より素敵な方と婚約するんだろうなと思うと・・・ロナンには非難されそうですが伯爵夫人になって素敵なドレスを新調してみたかった・・・などと馬鹿な事を日々考えていました。
ブルーな私をロナンとリリが慰めてくれます。
「元気出してよ。結局あの二人って何だったんだろうね?」
「お互い依存し合ってたんじゃないかしら。知らないけど」
モフモフのリリを抱きしめれば心が癒されて、ニールの気持ちも分かる気がします。
「もう忘れなよ。もっといい人が現れるからさ」
「結婚だけが人生ではないと思うの。トリマーになろうかしら」
「不器用な姉さんがなれるの? 専門の学校に通って資格も取らないといけないんだよ」
「んーー」
ロナンと話しているとハインツが差し入れを届けに来てくれました。
「今日は奮発してイチゴケーキだ」
「わぁ!姉さんにお礼を言っておいてね」
「おぅ、義母さんも心配してたから婚約が解消されて安心してたぞ」
生意気だけど、姉を義母と認めて慕っているハインツは可愛いヤツ。
「ハインツみたいな息子の父親なら、私も後妻になってもいいかもね」
「はぁ? お前みたいな母親はお断りだ」
やっぱり可愛くない。
お茶の用意をしていると「父さんが次の婚約者候補を決めたみたいだよ」とロナンがニコニコしながら教えてくれました。
「もう? 早いわね。次は猫を飼ってるとか・・・まともな人なら後妻でも歓迎よ」
「いや、年下らしいよ」
「未成年なの?」
「年下はダメなのか? なんでだ? お前は年上がいいのか?」
「ダメじゃないけど・・・」
「姉さん、次も結構イケメンだよ。黒い髪に黒い瞳。ちょっと口は悪いけどいつも小遣いで差し入れを届けてくれるんだ」
「小遣いで差し入れ・・・?」
「そのイチゴケーキもハインツがサーシャ姉さんに買ってきたお土産だよ。3回に1回はハインツの差し入れだったんだよ。ハインツは姉さんのことが・・・」
「ロナン!」
ハインツは慌ててロナンの口を抑え込みました。
「遊びに来るなら手ぶらでいいのに」
「ほらね鈍いんだからさ」
「俺は全然男として見られてないよな・・・」
「黒髪のイケメン・・・うぇ? まさか次の候補ってハインツなの?」
「そうだ、文句あるか?」
弟の親友よ? 義理とはいえケイト姉さんの息子よ? 私の甥っ子よ?
「ないわ~ 考えられないわ」
「でも男爵は俺を認めてくれたぞ」
子爵令息でうちより遥かにお金持ちだものね。ケイト姉さんが姑になるからそこは素敵。
「ハインツはお口が悪すぎるのよ。私を『お前』呼ばわりする人はお断りよ」
「直す! もう言わない」
あらあら本気みたいだわ。どうしましょう。彼を好きか嫌いかと問われたら、好きだけど。
「今回は慎重に考えるわ。ハインツが成人したら考えます」
「それでいい。でも一応婚約はしておこう。他から申し込みが来たら困るからな」
「だから婚約はまだ先にって・・・」
「僕も賛成。ハインツが義兄になるなんて嬉しいよ。これからも宜しくね」
「おぅ、宜しくな弟」
私を置いてどんどん婚約話が進められていきます。特にロナンと姉のケイトが乗り気で即日婚約が決定しました。
14歳の婚約者・・・先はまだ長いけど、どんな風にハインツとの関係が変化していくんだろう。
それからもハインツは差し入れを持って度々私に会いに来ます。
「手ぶらでいいのに。あら、リリもお菓子が欲しいの?」
「ワン!」
「ごめんねリリ、お菓子は食べちゃだめなのよ」
「リリ用の肉を持ってきた。キッチンにおいてある」
相変わらずぶっきらぼうなハインツですが、元婚約者とは違って彼の好意は感じます。
***
────ハインツと婚約してから平平凡凡に1年が過ぎていきました。
リリもお見合いをして3匹のポメちゃんのママになりました。ハインツも背が伸びて大人っぽくなり、時々私をドキドキさせます。
今日はリリと子犬たちを連れて、昼下がりの秋の王立公園をハインツと散歩デートです。
色づく並木道を歩いていると、偶然ニールに出会いました。
彼は大きなゴールデンレトリバーを散歩させている最中で、私を見つけると手を振って駆け寄ってきました。
「久しぶりだね、その節は申し訳なかったね」
「いえ、お気になさらず。ワンちゃんを飼ったのですか?」
「うん、ポメとの過去を引きずらないで、この子と新しい思い出を作っていこうと思ってね」
「良い事だと思います」
「君と出会ったおかげだよ。有難う。長い間、僕は悪夢を見ていたみたいだ」
それからニールはハインツの方を向いて「弟さんだったかな?」と言ったのです。彼はロナンのことなんかすっかり忘れていました。
「いいえ、私の婚約者です」
「キャラサーブ子爵家のハインツです。サーシャと婚約を解消して頂いて有難うございました」
ちょっと、何を余計な事を言ってるのよ!
「そうか、婚約おめでとう。サーシャ嬢お幸せにね」
「有難うございます」
ゴールデンレトリバーと共に駆けていくニールの背を見送って、お互い過去の人なんだと実感しました。
「何を見惚れてるんだよ・・・嬉しそうに」
「だって、あの顔面は国宝級よ」
「今更後悔してるとか?」
「まさか、あ・・・リリ達が!」
全員そろってウンチングポーーーズ!
「早く紙を出せ・・・チビ達は俺がやる」
「うん、お願いね」
「げっ! ウンチが手に付いた」
「やーねもう」
スッキリしたリリ達と再び歩き出すと「なぁサーシャ・・・次はリリ達は留守番で、二人でデートしないか。リード持ってると手も繋げない」とハインツが小さな声で言いました。
ハインツったら私と手を繋ぎたかったのね。
「そうね、いいわよ」
「じゃぁ、どこに行きたい?」
「冬が来る前に大池でボートに乗って、後でお気に入りのお店で温かいココアを飲みたいわ」
「分かった、行こう」
嬉しそうな顔。
「私、貴方が好きだわ」
「うっ、俺もずっと前から好きだ」
照れながら応えてくれた彼に愛おしさが込み上げてきます。
いつかリリ達を連れてハインツの元にお嫁入りする日が待ち遠しいです。
読んで頂いて有難うございました。続くおまけも読んで頂けると嬉しいです。




