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第98話:なまこだねー

「お土産に毎回なまこはいらないんですよ、なまこは」

「あら、偉大なる神の力の一端なのに」

「はいはい」


 ウニーは師匠の妄言には取り合わず、なまこをぺいっと卓上に置いた。大海と蒼天の魔女たるブリギットの仕事は海に関するものが多いが、彼女はしばしばなまこなどのあまり見た目が良くない海産物を持って帰ってはウニーに渡しているのだ。

 ブリギットはわざとらしく嘆く声をあげる。


「ああ、反応がスレてしまって悲しいわ」

「そうさせたのは師匠でしょうに、まったく」


 かつてはなまこを持たされて泣いていたこともあったが、流石に何度もやられれば慣れるものである。

 ちなみにマメーも一度渡されたことがあった。一方でなまこを初めて見るものたちがいる。ゴラピーたちだ。


「ピキー?」

「ピー?」


 胡桃材の卓の上でうねうねと緩慢に動くなまこを、ゴラピーたちはなんだろうと首を傾げて見つめていた。


「なまこだねー」

「ピュー」


 マメーの言葉に青いのが触ろうとして、赤と黄色がピピピと鳴きながら身体を後ろに引っ張って止めた。海水、つまり塩水に濡れているためだろう。

 ウニーは問う。


「それで、トゥ・ガルーの王子の調査はいかがでしたか?」

「ああ、ダメねー。真っ黒だったわ」


 ブリギットはひらひらと手を横に振りながら答える。

 真っ黒、つまり浮気の噂は真実であったということだ。


「学園で、男爵令嬢だかなんかとよろしくやってる感じですか」

「そうね。トゥ・ガルーの王族って開祖のあたりが南方大陸の獣人の血を引いてるんだけど、獣人系って一夫多妻なんかへの忌避感薄いの多かったりするのよね。あれ完全にそのタイプ」


 ウニーはうへぇ、という表情を浮かべた。配偶システムの中で一夫多妻のシステムを有する動物は多い。もちろんそれは野生の中で理があることではあるが。


「別に国家の中ではどんな婚姻のシステムでも構いはしないのよ。でも異国の人間の姫と結婚するってのなら配慮はいるわよねー」

「獣人系だと特定の番〈つがい〉に執着するパターンもあるじゃないですか。それではない?」


 番とは獣人固有の強烈な一目惚れのようなものである。特定の異性に執着することであり、これは人間社会の恋愛物語においても身分違いの恋や敵味方での恋などとして扱われて人気があった。

 ウニーはトゥ・ガルーの王子にとってその男爵令嬢が番であるという可能性を指摘したのだ。

 しかしブリギット師匠は手をひらひらと振って否定した。


「ないない」

「そうですか……」

「だって、あたしが学生に変装して近づいたら王子、鼻の下伸ばしてたからね!」


 ブリギットは自慢げに胸を張り、ウニーはがくりと崩れ落ちた。


「師匠、いくら年齢サバ読むって言っても年齢が6倍違うのはいかがなものかと」

「ろ、6倍はいかないわよ! 5倍ちょっとよ!」

「たいしてかわりませんよ……」


 ブリギットは御歳86である。魔法で、正確にはグラニッピナの魔法薬で若さを保っているのでその外見は若々しい。外見年齢としては二十代後半程度であろう。

 教師のふりをして近づくならともかく、なぜ学生に変装しようとしたのかは謎である。ともあれウニーは言った。


「まあ、その王子が好色で警戒心もないというのは分かりましたよ」

「そこはあたしの若さと変装を称えるところじゃなーい?」

「ブリギットししょーすごーい」

「まー、マメーちゃんはいい子ねー!」


 あははー、とマメーは笑った。

 師匠とウニーは揃って深いため息をつく。


「ま、いいさね。ブリギットも戻ってきたんだ。そろそろここをお暇しようかね」


 師匠の言葉にブリギットは意外そうに言う。


「あら、あたし来たばっかなのに」

「王様から褒美はふんだくらにゃならんし、もうちょっとは城にいなきゃならんけどね」

「もう帰っちゃうの?」


 マメーはしょんぼり尋ねた。

 マメーは森が大好きである。それでも寂しがるという理由は一つだ。


「姫さんと別れるの寂しいかい?」

「ん」


 マメーはこくりと頷いた。


「別にずっと離れてるってわけじゃあないさ」

「ん、いもーとでしだから。またあう」

「そうさね、姫さんは姫さんで頑張るだろうから、マメーはマメーで頑張んな。次に会った時に立派な魔術を見せてやるといい」

「そーする!」


 マメーはふんす、と両手を握った。

 師匠としてもルナ王女の魔術の進捗は気になることでもある。年に一度や二度は様子を見てやりたいし、マメーにもそのくらいの頻度で森の外に出かけるようにさせたいねえなどと考えていたのだ。

 その再会がもっと早く訪れることになるとは師匠もマメーも想像していない。


「そういえばマメーちゃん! その姫サマにゴラピーあげたんだって?」

「うん」


 ブリギットの問いにマメーは頷く。


「ちょっとー、あたしにもちょーだいよー!」

「あははー、だめー」

「もー」


 二人の魔女と二人の魔女見習いの笑い声が部屋に響く。

 彼女たちがサポロニアンのお城を去る日は近づいていた。

そろそろ第一部完って感じですね(98話という数字から目を逸らしつつ)。


ちなみに第二部は考えてますが、一部完結後にしばし更新はあけます。

溜め込んでる感想返しとかもそこでします。

第二部は必ず執筆します。三部以降については書く日が来るのかはまだ未定で。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 毎回ナマコ…どうしろと(;´Д`) [一言] ウニーちゃん…がんばれw
[良い点] 獣人は一夫多妻! そういや鹿もハーレム作りますわな。 そんな鹿の角が生えるなんて皮肉ですな! 上手い!
[一言] 毎回なまこ土産…それはスレもしますわ。
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