第95話:あたらしいゴラピーなのです!
「ルナちゃんこっちきてー」
マメーはルナ王女を隣に呼ぶ。ルイスが椅子を運び、マメーの隣に座らせると、マメーは土と種が入っただけの鉢植えを二人の間に置き、ふんす、と気合を込めた。
「じゃーやるね!」
「ピキー!」
「ピー!」
「ピュー!」
赤と黄色と青のゴラピーたちが、頑張って! というように小さい手をぶんぶん振りながら鳴いた。
「てをだしてー、りょうて」
「こうですか?」
マメーはルナ王女の手を取ると、植木鉢の側面に添えさせた。
「いくよー」
特に何の説明もなくマメーはそう言った。彼女の声と共にルナ王女の手がじんわりと熱くなっていく。先日、魔女のおばあさまの薬を飲んだ時にお腹が温かくなったのと似ているとルナ王女は思った。魔力が流れているのを熱として感じているのである。
マメーはうんうんと唸りながら鉢植えに魔力を注ぐ。
「ゴラピーちゃんが無事産まれてくれますように」
ルナ王女も祈った。祈りや強い思いも、また魔法の一形態である。王女の手がさらに彼女自身の魔力により熱を持つ。そして、ぽん、と双葉の芽が出た。
苗の方は茶色、というには少し色の薄い、ベージュか小麦色のような色をしていた。
「えぇっ!?」
ルナ王女が叫んだ。
「はやっ!」
「ばかなっ!」
「まあっ!」
ルイスやランセイル、侍女たちがどよめく。マメーがゴラピーを創造したとは聞いた。それだけでも驚くべきことであるが、こんなにすぐに芽が生えてくるとはさらに思っていないのである。一方の師匠とウニーはまたか、と落ち着いたもので、芽の色を見てやっぱりな、という顔をした。
鉢植えの土がぷるぷると揺れて地中から何かが飛び出してきた!
それは赤いのや黄色いのや青いのにそっくりで、色の異なる小麦色の人型だった。くりっとした目をマメーに向け、次いでルナ王女に向けて、両手をうーんと広げて伸びをするような動きを取った。
「ピャー」
それは高い鳴き声を上げる。
マメーは叫んだ。
「かわいい!」
ゴラピーたちは仲間が増えた喜びを示すかのようにぴょんぴょんとジャンプして鳴いた。
「ピキー!」
「ピー!」
「ピュー!」
小麦色のゴラピーは鉢植えの縁に立つと、きょろきょろと周囲を見渡すようなそぶりを見せてから、ぴょんと身軽に跳んで卓の上に降り立った。
マメーは卓の上に身を乗り出すようにして、小麦色のに話しかける。
「ぴょんってすごいね。マメーはマメー。わかる?」
「ピャ」
小麦色のゴラピーはこくこく頷いた。
「あなたには、ここにいるルナちゃんといっしょにいてほしいの」
「ピャ」
再び頷く。
「だいじょうぶかな?」
「問題なさそうに見えるね。魔力視の術で見ているが、そこの新しいのと姫さんの間に魔力的な繋がりが見える。他のゴラピーとマメーの間にも見えてるのがね」
師匠はそう言った。
「じゃあせいこうだ!」
マメーはばんざいと両手をあげた。ルナ王女がマメーを見ると、マメーはにこにこ笑みを浮かべて言った。
「ルナちゃんのだよ!」
ルナ王女はマメーに頷き返すと、卓上の小麦色のゴラピーを見る。ゴラピーのちっちゃなまんまるの視線がルナ王女を見上げていた。
「よろしくお願いしますね、ゴラピーちゃん」
ルナ王女は先ほどランセイルがそうしていたように、卓上の茶色いゴラピーにそっと指を差し出す。しかし茶色いゴラピーはぴゅいっとそっぽを向いた。
「ええっ!」
ルナ王女は悲しげな声をあげた。
「やはり主人が違うのはダメなのでしょうか……」
「ピュー」
青いのがそんなことないよ、というように首を横に振る。
「ゴラピーちゃん……」
人間たちやゴラピーたちがじっと茶色いのを見つめていると。茶色いゴラピーはそっぽを向いたまま手を伸ばし、ちょんとルナ王女の指に触って鳴いた。
「ピャ」
「まあ!」
「よろしく、だって」
「ふん、素直じゃないのか照れ屋なのかね」
師匠がそう言い、ルナ王女は綻ぶように笑みを浮かべて言った。
「まあまあまあ! よろしくお願いしますね!」
ほっとした雰囲気が流れ、皆が笑い合う。
「では皆さん、お茶にいたしましょうか」
ルナ王女は侍女のクーヤと頷き合った。彼女は席を外してお茶の用意を始めるよう動き出したとき、ルイスがルナ王女殿下に跪いた。
「ルナ王女殿下が、互いの名を気さくに呼び合う友を持たれたこと。ルイス・ナイアント、心より寿ぎ申し上げます」
そして寿ぎの言葉をかけたのである。
王族の人間が非公式の場では敬称をつけずに呼び合うことを許すというのは、最大級の友誼を示しているということである。
先ほどは魔術の話をしていたので控えていたが、王族に仕える騎士としては真っ先に祝福すべきことであった。
「ええ、ありがとうナイアント卿」
ルナ王女も笑みを浮かべて祝福に感謝の言葉を返す。
「マメー、ウニー。あなたたちにも感謝を」
「うん」
「わ、わたしは特に何もしてませんけど」
ルイスもルナ王女も笑みを浮かべて首を横に振る。ウニーはごにょごにょと何やら呟いて顔を隠した。
「さて、そんなルナ殿下には運動の時間を取っていただくよう調整していただかねば」
「ええっ!」
侍女のハンナが大きく頷く。
「ええ、必ずカリキュラムに組み込みましょう」
「ええっ!?」
ルナ王女の悲鳴があがった。