第86話:ウニーちゃんがくわしいです!
食後の子供たち三人が和気藹々と話しているのを王妃は笑みを浮かべて耳を傾けていたが、マメーのふと発した言葉に驚かされた。
「ね、ね。ルナでんか」
「何かしら?」
「ルナでんかはまじょになる? それともやっぱりおひめさまがいそがしーからまじょにはならないの?」
「んん!?」
ルナ王女は突然の言葉に目を丸くさせ、王妃も思わず身を乗り出した。
「マメーちゃん? それはどういう意味かしら?」
マメーは両手の人差し指を立てて頭の横に置き、角を模した。
「ルナでんか、じぶんにつのはえさせたでしょ。だからまほーつかえるよね」
「そ、そうなの!?」
ルナ王女はあまりの驚きに口調が乱れている。王妃が尋ねた。
「マメーちゃん。もうちょっと詳しく説明してくれるかしら?」
えっとー、とマメーはなんと言えば良いのか考えているので、ウニーがマメーに問う。
「マメーちゃん、代わりに説明してもいいかしら?」
「ウニーちゃんありがとー」
ウニーは咳払いを一つ。そして本でも読み上げているかのように話しはじめた。
「魔術師は理性と知恵で魔力を制御します。基本的には魔女も同じなのですが、時に魔女は感情と感覚で魔法を使うことがあるのです」
「……わたくしが自分に鹿の角を生やしたのは婚約が嫌だという感情による。だから魔女ということ?」
ルナ王女の質問に、うーん、とウニーは唸った。
「感覚で魔術を使う、学んでもいない魔術を使うことができるというのは……その魔術の属性の高い才能が必要になります。例えば私なら水、マメーちゃんなら」
「しょくぶちゅ!」
マメーは、はいっと手をあげて答えた。
ゴラピーたちも手を振りながらピキピーピューと肯定するように鳴いた。ウニーは彼らに軽く手を振りかえしながら言葉を続ける。
「はい、マメーちゃんは植物系の才能が高いのです。ルナ殿下は角が生えたのですから……」
「どうぶちゅけーまじゅちゅ!」
「そうね、動物系か肉体を操作する系統の魔術のどちらかに適性があるのだと思います」
二人の掛け合いに、ふむふむ、と王妃と王女は頷いた。ウニーは続ける。
「とにかく、魔術の才能があるのは素晴らしいことだけど、必ずしも良いこととは限らないのです」
「そうなのですか? ……いえ、そう。そうですわね」
ルナ王女の言葉には実感が籠っていた。
自分の思いのために、頭に角が生えるというのは、決して自分の望みを叶えている訳ではなかったのだから。感情のおもむくままに魔法を使うというのは危険なことかもしれないと分かったのだ。
ウニーは口元を皮肉げに歪めた。
「そうですよ。マメーちゃんだってついこの間、自分の魔法で死にかけたんですからね」
王妃と王女がぎょっとした表情でマメーを見る。
「えへへー、失敗しちゃったの」
「ピュー……」
マメーがあっけらかんとそう言うと、青いゴラピーがしょんもりと肩を落とした。マメーが死にかけたのは自分のせいであるためだと思っているからだ。マメーはゴラピーを抱き上げて、気にすることないよとちょんちょんと顔を突いた。
「マメーちゃんの件はともかくとして、ルナ殿下は……どうなんでしょうかね? グラニッピナ師の薬の補助があってのことだから、魔女になれると言い切れるほどの魔術の才能があるのかはわからないのですが……」
「でも、まったくさいのーないってことはありえないよね」
マメーの言葉にウニーは頷く。
「そうなのよね。グラニッピナ師匠はなんか言ってた?」
えーっと、とマメーは思い出し、背中を丸めて言った。
「『ひめさんのまりょくをあんてーさせるために、ちょっとはてほどきくらいはしてやるかもしれんさねぇ』っていってた」
「物真似、にてないわよ」
「えー」
くすくすとルナ王女が笑う。王妃は尋ねた。
「マメーちゃんのお師匠様は、ルナの魔法の素質を鑑定してくれるかしら?」
「……確か魔女は王族に鑑定術を使ってはならないという誓約があるはずです。神殿に頼まれるのが良いかと」
神殿もまた鑑定の魔術を神の奇跡として扱っているのである。
「ウニーちゃんくわしいね!」
「べんきょーしてるのよ、これでも」
ふん、とウニーは小鼻を膨らませた。
「ウニーちゃん、マメーちゃん。色々と教えてくれてありがとう。でもこんなに話してしまって大丈夫なのかしら? 怒られたりしない?」
魔女や魔術師とは秘密主義の集団である。勿体ぶって知識を語らないような者が大半なのだ。秘密を語って、師に怒られたりしないかという問いかけであるが、ウニーは肩をすくめた。
「私程度の見習いの知識をちょっと語ったところで、師匠たちは何も怒ったりしませんよ。もちろん嘘や間違いを言えば怒られはしますけどね」
ルナ王女が頭を下げる。
「ウニーちゃん、マメーちゃん。ありがとう」
「感謝もいらないですよ。だって、ルナ殿下は私たちの仲間となるかもしれないのですから」
「うん!」
その言葉にマメーも頷いた。
魔女というのは変わり者で捻くれ者ばかりの集まりではあるが、数少ない仲間を大切にする者もまた多いのであった。








