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第79話:あなたがはんにんなのです!1

 師匠はマメーに色々な勉強を指導している。魔女の師弟関係としては魔法以外の勉強まで見てやる必要は本来ないが、マメーは捨て子で教育を受けていないので仕方ない。師匠は仕方ないと思っているが、魔女に限らずたかが捨て子にそこまで面倒を見てやる者など普通はいない。

 ともあれ、師匠から見たマメーの癖として、問題を解くときにちょいとばかりせっかちである。答えがわかるとすぐにそれを口にするか、紙に書き込もうとするのだ。そしてそれができないと、そわそわと身体が動く。

 この前、ランセイルと話していた時にクッションをぽよぽよさせていたのもそれであった。今は足をぶらぶらとさせている。


「まあ、貴女、この呪いについて分かったというの!?」

「マメーちゃん、本当!?」


 王妃やルナ王女は思わず身を乗り出した。


「うん……。あい」


 マメーはもう一度足をぶらぶらさせると、身体を揺するようにして頷いた。

 師匠はわざとらしく大きな咳払いを一つ。


「王妃さん、姫さん、ちょいとお待ち。子供の言うことだし、しょせん予想にすぎない。間違っているかもしれないよ」


 師匠はマメーの言葉や思考力を信用していないわけではない。ただ、王妃たちに釘を刺しただけだ。

 王妃もそれはすぐに分かり、椅子に深く座り直した。


「ピキー!」


 ゴラピーたちはピーピーと不満の声をあげる。マメーに訳してもらわずとも、マメーの正しさを信じているという抗議だとわかる。


「だいじょぶ」


 マメーはゴラピーたちを抱きかかえた。


「言いづらいことかい? あたしが先に聞こうか?」

「いいづらくはないんだけどー、おこられちゃうかも」


 王妃は首を横に振った。


「どんな突飛なことでも怒りませんし、不敬にも問わないと約束しますわ。今はどんな些細なことでも、ヒントが欲しいのです」


 ルナ王女も肯定に頷いたので、マメーは口を開く。


「あのね、ししょーはさいきょーなの」

「……何を言い出すんだいこの子は」

「でもししょーよりうえのまじょなんてほとんどいないんでしょう?」

「まあ、そりゃあまちがいないがね」


 師匠の魔女の位階である大達人より上は被免達人の位階しかない。それと神殿長のような特殊な階級だけだ。世界中で考えても両手の数ほどにしかいない。もちろん人間以外の存在を考えれば上位魔族や古代龍種など該当するものはいくらでも増えるが、そんなものはここにはいない。


「だからふつーのまじょやまじゅちゅちではぜったいかてないの」


 相手が高位の魔女ならともかく、一介の魔術師がどんな魔道具を使ったところで敵いはしない。これはマメーの身内贔屓がないとは言わないが、客観的な事実でもあった。


「でも、呪いは姫さんの身体に残っていた。それはどう考えるのさね」

「さいしょにのろいをかけたまじゅちゅちは、たぶんつかまったひと」


 マメーはルナ王女をじっと見つめた。ルナ王女は琥珀の視線の強さにたじろいだ。


「な、なあに。マメー」


 師匠は問う。


「最初にってことは、今朝と今の二回、姫さんが鹿になったり角が生えたのは別の犯人がいるって考えてるんだね?」

「ん」


 マメーは頷く。


「それは?」


 王妃が問うた。マメーが右手を卓上に伸ばす。その指は、ルナ王女を示していた。


「わ、わたくし?」

「はんにんはルナでんか」


 師匠はふん、と鼻で息をつく。口許は笑みに歪んでいた。


「なるほど、そいつは間違っていりゃあ怒られる話さね。マメー、そう思った根拠を言いな」

「ししょーのごふをしていたでしょ」


 師匠はルナ王女につけさせた護符を取り出す。マメーはそれを受け取って、王妃に手渡した。


「さいきょーのししょーがつくった、すごいごふをルナでんかにつけてもらってたのに、ルナでんかはしかになっちゃった。ごふがまほーをとおさないのはそととうちなの」


 護符や結界は部屋の壁のようなものである。それが悪意ある魔法を弾くのは、その外側から内側に向けてであり、内側から内側なら当然素通しだ。


「それに、ししょーのごふをこわさずに、そとからのろいをかけるのはもっとむりなの」


 王妃は護符を手の内でひっくり返した。両面ともに精緻な魔法陣の描かれた円盤であり、汚れや痛みは確認できない。壁の向こうから武器を振って人を殺すことはできるかもしれない。だが、壁を壊さずにそれをすることはできないだろう。

 師匠は小さく、「なるほどねぇ」と呟いた。マメーがルナ殿下が犯人と言った段階で、ここまでのところは推測できたのだろう。


「マメー、あんたのここまでの推測には穴がない。理解できるさね。だけど、ルナ王女は魔女や魔術師じゃあないんだ。自分に呪いをかけられやしない。魔法の才能はあるのかもしれないが、少なくともそういう勉強はしちゃいないんだろう?」

「ええ」

「魔法は学んだことがありませんわ」


 王妃もルナ王女も肯定した。

 実のところ、王族は多くの国で魔力持ちが多い。レドニーツェの死霊姫などという昔話は有名である。だが、普通は魔道には進まない。それを極めるには無限の時間がかかるために。

 しかしマメーは言った。


「ししょーのくすりのせいなの」

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