第76話:ししょーはたんてーとかしないっていいながらそういうのすきそうです
ξ˚⊿˚)ξすいません、週末ふらっと小旅行に行っていて執筆できませんでした。連載再開です。
「まあまあ、可愛らしいお客さんね」
王妃殿下は足元のゴラピーたちを見て笑みを浮かべた。その存在を話には聞いているのだろう。驚いた様子はなかった。
「ピキー」
「ピー」
「ピュー」
三匹は口々に鳴いて挨拶に手を振る。赤いのは手にしたオースチンの羽根を掲げてふりふりと振った。
「あら、お揃いかしら」
王妃は自分のドレスについていた羽根飾りを振った。お揃いと言うが、こちらは孔雀か、または別の南国の鳥の羽根であろう。白い羽の先端に青い模様があり、それは振られると光の加減で虹色に色を変える。
ゴラピーたちはすごーいと手をぱちぱちと叩くような仕草を見せた。
王妃は羽飾りを元に戻すと、師匠とマメーに卓を指し示す。
「では席へどうぞ。ルナも、魔女様たちも」
師匠とマメーに自分たちと同じ卓に着くよう促したのだが、師匠はさっさと部屋の隅へと移動した。
「あたしたちはここでいいさね」
「魔女のおばあさま、マメーちゃん……」
ルナ王女が呼びかけるが、師匠は首を横に振る。
「今日は親子水入らずで話しなよ。あたしたちが同席するのは角が完全に治ったときにでもすりゃあいい」
王妃が病み上がりというのもあり、久しぶりの親子の対面でもあるという。それを慮った言葉でもあった。
マメーもわかっているのかいないのか、うんうんと頷いた。
王妃は顎を引いて謝意を示した。王妃とルナ王女が卓につくと、師匠とマメーの前にも使用人たちによって素早く卓が用意される。そして茶会の準備がなされた。マメーはゴラピーを抱え上げると卓上に座らせた。
メイドたちがてきぱきと動き、卓の中央に三段重ねのスタンドを置く。銀製のつる薔薇のようなスタンドに載せられた瀟洒な紋様の皿。各段にはサンドイッチとスコーンにケーキが品よく並んでいる。
それに紅茶という組み合わせは茶会の定番であり、先日のルナ王女が供した組み合わせと変わらない。サンドイッチの具やケーキの種類、紅茶の茶葉はもちろん変わってくるのだが。
「本日のケーキはカーディナルシュニッテンです」
王妃付きのメイドが言う。
「かーどなるすってん」
マメーが復唱するように呟き、それが耳に入ったルナ王女やメイドは笑みを浮かべた。
メレンゲ、卵白と卵黄の生地を絞って交互に重ねたケーキで、それをシュニッテン、細長い四角にカットしたものである。
「いただきまーす。……おいしい!」
マメーはもぐもぐとサンドイッチから順に頬張っていく。
王妃とルナ王女は使用人や護衛を下げさせて話し始めた。音楽家もおらず、四人ぽっちでは王妃の茶会にしては寂しいが、積もる話もたくさんあるのだ。
「おいしいね、ししょー」
「そうかね、そりゃなによりだ」
師匠はサンドイッチは手に取らず、スコーンから口に運んだ。師匠は顔をしかめる。
確かに美味い。美味いが、スコーンにつけたジャムは自分の作ったものだった。なるほど、マメーが育てた果実から魔女の作ったジャムはこの国で最も美味いだろう。自分たちは食べ慣れたものであるが。
師匠はマメーと話しながらも、王妃たちの話に耳を傾けている。笑い合うような声、互いに心配していたという声色。まあ、仲が悪かったりするわけではないようで何よりだねと思う。
「ところで魔女さま」
王妃が顔を師匠らの方に向け、声をかけた。
「なにさね」
「ルナの隣国の王族との婚姻に関して、その反対派の仕業であるやもという話を聞きました」
王妃の言葉にルナ王女も師匠の方に視線をやる。
「あたしゃそのへんの推理にきた訳じゃあない。その上でだが、その可能性はあるかもねと言ったね」
師匠は思う。ふむ、あたしが姫やランセイルらに話していた情報は共有されているようだと。
「犯人に見当がついていらっしゃるのでは?」
だが、流石に宰相が犯人であろうとは、つい先ほどルイスとランセイルに伝えたことだ。王妃や姫にまでその話が回っていようはずもない。
「そうなのですか!?」
ルナ王女も驚いた様子だ。師匠は問う。
「なんでそう思ったさね?」
王妃は頷く。
「さきほど魔女さま方がこちらにいらしたとき、ナイアント卿を伴っていませんでしたわ。わたくしも王族ですから、近衛や騎士というものを存じています。彼が護衛対象の隣から離れるはずがないのです。たとえ魔女さまがどんな強者であろうとも」
ふん、と師匠は鼻を鳴らした。
「彼が魔女さまから離れるほどのこととは何かと考えれば、それは陛下に緊急の報告に行くことしか考えられません。そしてその内容が何かと想像し、ルナの身に何かあったのではないとなれば、おのずと答えは絞られますわ」
師匠はにやりと笑みを浮かべる。
「賢い女は好きだよ」
そして実質的な肯定の言葉を放った。
王妃がそれは誰なのかを問おうとしたところで、使用人が来客を告げたのだ。
「ご歓談中、失礼します」
「何ですか、騒々しい」
王妃は気分を害したというように、閉じた扇子を持ち上げて僅かに開き、口元を隠す仕草をとった。だが、おそらくはそれに関わることだろうと思い直し、扇を置いた。