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第69話:だめ!

 ランセイルの先導で王宮の廊下を歩く。

 師匠とマメーがその後ろに並んでてくてく歩き、その後ろをゴラピーたちが赤黄青と一列に並んでてちてちてちてちついてくる。その様子を見ながら一番後ろでルイスが微笑んで後を追った。

 ゴラピーたちは探検の続きのつもりなのか、マメーに抱き上げられることなく、周りをきょろきょろ見渡しながら廊下を進む。


「ピュ」

「おっと」


 青いゴラピーがこてんと転び、ルイスは足を止める。万一踏んでしまっては大変だ。

 それに気づいたのかマメーが振り返り、ランセイルに声をかけた。


「ランセイルー、とまってー」

「ふむ?」


 ランセイルが振り返る。彼らの視線の先で、青いのがよいちょと立ち上がって、てちてち追いついてくる。

 マメーたちはゴラピーが立ち上がるのを待って、再び歩き始めた。


「ふっ」


 ルイスは小さく笑う。ランセイルのくせに幼子への付き合いが良い。友であるルイスから見ても初めてそう思った。つまるところ彼は、有能であると自分が認めた人間には優しいのだ。

 だが、彼のその基準は高い。一般的な同年代以下の女子供がランセイルに有能さを示すことはまずできないため、貴族の子女などからは無愛想と遠巻きにされているのだ。


「かいだんはあぶないからこっちおいで」

「ピー」


 姫の部屋は城の二階に位置している。階段に差し掛かったところで、マメーはゴラピーたちを抱え上げてから一階へと降りた。

 そして再びゴラピーたちを床におろしたそのときである。


「おや、これは奇遇だな」


 男性から声がかけられたのだ。

 ルイスとランセイルが礼をとる。


「宰相閣下」

「うむ、銀翼の副団長に、ルナ王女殿下の治療を担当する魔術師であったな」


 宰相である。先日の謁見の間で師匠とマメーも顔は見たことはある。

 奇遇……のはずはない。今マメーたちがいるのは城の奥の女性たちの住まう棟から庭の裏手に出る通路だ。一国の宰相が偶然通る可能性は低かろう。ルイスやランセイルはそう考えた。

 宰相の背後には彼の部下や派閥の貴族、護衛の兵などを何名か連れている。

 男はじろりと師匠とマメーに目を向けた。


「そして治癒を依頼した魔女とその弟子か」


 師匠は鼻をふん、と鳴らしてそれに答え、マメーはぴっと手をあげた。


「マメーだよ」

「宰相のネイヴィスだ」

「さいしょーのネイヴィス」


 ルイスがふっと笑い、ネイヴィス閣下とお呼びしましょうか。と伝えた。

 マメーはこくりと頷く。


「ふん、礼儀作法もなってない者どもが王宮を闊歩するなど……」

「何だあの足元の変な生き物は……」


 などと宰相の背後で貴族たちが聞こえよがしに喋りだすが、師匠が視線をじろりとやるとそれはぴたりと止まった。魔女とはそれだけ畏れられるものである。

 宰相は問う。


「ルナ殿下のご加減はいかがかな」

「このように耳目のある場所でお答えするわけにはいきませんな」


 ランセイルは答える。王族の治療の状況を勝手に答えるわけにはいかないのである。だが背後の貴族たちがその言葉に対して不満げに喋り出した。

 宰相はランセイルの言葉や背後の貴族たちに気にした様子もなく言う。


「陛下主導でルナ殿下には隣国の王子との縁談が内々に進められているからな。瑕疵があってはならんのだよ」

「ええ、その通りです。すぐにでも治ったとの報告が閣下の元にもたらされることでしょう」


 宰相は笑みを浮かべる。


「すぐに報告がいく、とは快方に向かっているためであろうな。喜ばしいことだ」


 その笑みがにやりと深まった。


「だが、逆に言えばまだ治っていないということだ。それなのにどこに行くというのかね?」


 嫌味な言い方だなあとルイスは思う。だが、気にした様子もなくマメーは答える。


「マメーのね、まほうのおべんきょうにいくんだよ」


 宰相の背後に控えていた貴族がずいっと前に出て言う。


「はっ、随分と余裕のあることだな!」


 マメーは首を傾げた。当然、よゆーである。師匠はさいきょーだから別にお姫様がまた鹿さんになったくらいでは問題ないのだ。

 それよりも、この人はなんで挨拶もしないで話に入ってきたのだろうか。大人なのに挨拶もできないのかな。


「なんだこのひと?」


 マメーがそう言い、ぷっとルイスが吹き出した。


「ふん、生意気で礼儀知らずのガキめ!」

「マメーだよ」


 マメーはこの程度で別に腹を立てたりはしないし、悲しみもしない。そういうのは慣れているのだ。だがゴラピーたちはそうではなかった。


「ピキー!」

「ピー!」

「ピュー!」


 床の上でぷんぷんと腕を振って抗議の鳴き声を上げる。


「かように不気味な生き物を王宮に持ち込むとは! なんと嘆かわしいことか!」


 貴族の男は前に踏み出すと、ゴラピーたちを踏みつけようとしたのか蹴ろうとしたのか足を上げた。あるいは単に脅そうとしたのかもしれない。

 当然、ルイスは警戒していたため、戦闘の訓練もろくにしていない貴族の男など容易に止めることができた。師匠もランセイルも、防御のための魔術の備えはしてあった。

 だが一番反応が早かったのはマメーであった。


「だめっ!」


 マメーの制止の言葉に反応し、ゴラピーたちのちっちゃな手から朝顔やエンドウの巻ひげのような緑の蔓がにょろりと伸びた。


「ピキ!」

「ピッ!」

「ピュー!」


 伸びた蔓はするりと男の足に絡みつき、くるりと男の身体をひっくり返した。


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― 新着の感想 ―
[一言] ルイス氏おせーよ
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