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【書籍化】マメーとちっこいの 〜 魔女見習いの少女は鉢植えを手にとことこ歩く【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第一章:角の生えたお姫さま

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第57話:はっくしょん。

 師匠は言う。


「ま、呪いだとすりゃ〈解呪〉の術を使えばいい」

「〈解呪〉も試しはしましたが、効果がなく……」


 ランセイルの言葉に、ふむと師匠は頷いた。当然試していないはずもない。

 ただ、呪いというのは解呪する方が掛ける側よりずっと大変なのだ。


「あんた、その手の術式は得意かい?」

「そちら方面を扱う才も有しておりますが、得手とは言い難いですな」


 そう、他者のかけた術に干渉するのは高等な技法である。


「その歳で扱えるだけでも大したもんさ」


 ランセイルがウニーの師匠、ブリギットのように若返りを繰り返しているということもあるまい。外見通り30歳前後であれば、師匠から見ればまだまだひよっこといって良い年齢だ。それで〈解呪〉まで使えるなら充分に有能といって良いだろう。


「ねーねー」


 マメーがランセイルのローブの袖を引いた。


「何用か、幼き賢人マメーよ」

「えーっと、ランセイルってよんでいい?」

「ふむ、良いとも」

「ん! ランセイルのまじゅちゅのそしつはなーに?」

「これ、マメー!」


 師匠は窘めた。

 魔女同士では互いの素質を教え合うのは当然の習慣であった。それは魔女という存在が極めて少なく、基本的には魔女協会を通じて互いに支え合っているためである。つまり、相手に何ができるのか分からなければ仕事を頼むこともできないということだ。

 マメーは魔女の世界しか知らないため、そのつもりでランセイルに尋ねたのだが、彼は魔術師、それも国家に仕える魔術師である。それと情報をやりとりするということは、全く意味の違うことだ。

 だがランセイルはこう言った。


「ふむ、まあ教えても差し支えありますまい。万能系二つ星ですよ」


 その言葉にはルイスが驚いた。宮廷魔術師の魔術の素質は、国家の機密であるためだ。


「おい、ランセイル……」

「この件に関しては、協力を頼んだのはこちらなのだ。不才に何ができ、何ができないのか伝えるのは当然のことだろう」

「うーむ……」


 一理ある。

 まあ、この王女の角の治療に関する責任者はランセイルなのだ。彼がそう言うならそういうことにしておこう。ルイスは思う。

 マメーがぴょんと跳ねようとして、ソファーの上でぽよんと揺れた。


「わあ、ししょーとおそろいね!」

「そうさね」


 その言葉にはランセイルが渋面を作る。


「万象の魔女グラニッピナ殿は万能系三つ星でしょう。不才とは格が違う」


 魔術の素質の二つ星と三つ星には大きな差があるとされる。実際、一つの系統でも三つ星の才があれば魔女となれるのだ。

 ちなみに、魔術の素質の有無に関して、人間の男女でその比率にほとんど差はない。ただ、三つ星以上の才を有する者のほとんどが女性であるのだ。それ故に魔女という呼称で定着しているが、ごく僅か男性の魔女もいる。

 逆に言えばランセイルの万能系二つ星は、一般の魔術師の才としては最高峰ということになる。


「マメーはねー、じゅんしょくb……」

「ピキー!」

「ピー!」

「ピュー!」


 マメーのローブの背中から、ゴラピーたちが大きな声で鳴いて、わらわらと飛び出してきた。そして彼らのちっちゃい手でマメーの口を押さえた。

 頭上の花びらがひらひらとマメーの鼻をくすぐる。


「は……、はっくしょん!」


 マメーはくすぐったくて、大きなくしゃみをした。


「ピキー!」


 ゴラピーたちは吹き飛ばされて、卓上をごろごろごろごろと転がっていく。


「何だこれは……」

「ピュ……」


 ランセイルが手を伸ばし、青いゴラピーを摘み上げる。

 マメーが背中に隠していたもの。魔女の使い魔としてよく使われるものであり、その大きさから考えて、ネズミかトカゲか小鳥かクモあたりだろうと想像していたのである。

 こんな頭に花の生えたカラフルな人型とは誰が想像しようか。

 青いゴラピーは空中に釣られて、じたばたとちっちゃい手足を動かす。


「マメー」


 師匠はマメーに声を掛ける。


「魔女たち以外の他人の魔術の素質を尋ねちゃあいかん。それと自分の素質も教えちゃあいけないよ」

「あい!」

「ゴラピーたち、良くやったさね」


 師匠はマメーの言葉を遮ったゴラピーたちを労った。

 マメーの素質を隠そうとしてくれたのだろうと。


「ピキ」

「ピ」


 卓の上で赤と黄色のゴラピーたちが頷く。

 青いゴラピーはランセイルの手から抜け出すのを諦めたのか、首根っこを抑えられた猫のように、だらーんと力を抜いた。


「ふむ、ゴラピーと言うのか……」


 ランセイルは青いゴラピーを目の高さに持ち上げて観察する。

 見たことのない生き物である。魔法生物か妖精か、あるいは別の何かかは分からないが、頭上に花が咲いているのだ。植物に関係するものではあろう。

 ランセイルは黙考する。

 マメーが言いかけたのは準植物特化の幾つ星かということだろう。この使い魔を、師が与えたのかマメーが捕まえたのかは分からないが、植物系の使い魔を連れているのだし間違いあるまい。

 しかし万象の魔女はこのゴラピーらを労った。つまり魔術の才能が幾つ星かを隠したことについてであろう。

 つまりは三つ星ではなく四つ星であるということに違いあるまい。


「ランセイルー。ゴラピーかえしてー」


 マメーがランセイルに手を伸ばした。


「うむ、幼き賢人よ」


 ランセイルはマメーの手の上に青いゴラピーを置く。


「ピュー!」


 ゴラピーはマメーの腕をてちてちと駆け上がり、マメーの肩の辺りに逃げていった。

 ランセイルも、よもや伝説上にしか聞くことのない五つ星の才の持ち主が目の前にいるとは思わなかったし、このゴラピーたちをマメーが創造したとも思わなかったのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] マメー半端ないって( ˘ω˘ )
[一言] ランセイルさん、この手のプライドの高いインテリにしては柔軟できっちり掌を返せるのは好感が持てますなぁ…… 頭の回転が早くて色々類推が利くが故に常識外のことにちと弱いのかもしれませんねぇ……な…
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