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第52話:ししょーはすごいまじょなので!

「ピー……」


 黄色いゴラピーがマメーを見上げて鳴いた。


「んー、いいよー」

「マメー、魔力かね?」

「ん」


 ゴラピーが魔力を欲しがっていると言う話だ。

 師匠はマメーとゴラピーにちょっと待ちなと言って、ルナ王女と侍女たちの顔を見つめる。


「ちょっと先に話しておきたいんだがね。魔女の手の内が知られりゃ不利になるってのはわかるかね?」

「不利、とは……?」


 首を傾げた王女の瞳が、ふと壁際に控えるルイスを捉えた。

 ルイスは咳払いを一つして言葉を放つ。


「騎士や戦士の戦いでも、その得意な技が知られていれば敵に対策されるということです。魔術師だと火の魔術が得意と知られれば、敵が水を大量に用意しておく。こう考えればわかりやすいのではないでしょうか」

「なるほど……」

「あたしの魔法やら魔力についてはさ、もう歳だし別に広く知られてるからどうでもいいのさね」


 そう言うが、実際には彼女が全属性の魔術を使えるために、対策のされようがないというのもあるのだ。師匠は言葉を続ける。


「でもマメーは違う。わかるだろう?」

「わかりましたわ。マメーの魔法については公言しないと約束しますわ。ハンナもクーヤもいいかしら?」


 マメーの能力を公にしたくないということだ。姫は約束し、二人に声をかけた。ハンナは問う。


「断ったらどうなるのでしょう?」

「ハンナ!」

「いえ、王女殿下付きとして確認しないといけないだけです」


 師匠は肩を竦めた。


「どうもしないさね。ただ、マメーとゴラピーには菓子とお茶持って部屋に戻ってもらうだけさ」

「それはいけませんわ! ハンナ!」


 ルナ王女がハンナに強く声をかけ、二人は腰を折って約束した。

 師匠はルイスに視線をやった。彼もまた公言しないと約束し、そこで師匠はにやりと笑みを浮かべた。彼女の身体から魔力が放出され、ベランダに吹き荒れる。


「〈誓約〉」


 光が放たれ、師匠の身体と今約束した四人の身体に吸い込まれる。


「いまのは……?」


 ルイスが尋ねた。


「誓いを遵守させる魔術さね。これであんたらはマメーの魔術に関して、ここにいないものに言葉や文章で伝えることができなくなった」


 ルイスは天を仰いだ。

 国家間の条約のような重要な契約や大規模な取引では、その契約書に魔術を使うことがある。魔術師が何日もかけて紋を刻んで術をかけた羊皮紙を使うのだ。だが彼女はそれに匹敵する魔術を片手間に使ったのだ。

 王族に魔術を無許可でかけたことといい、知られたら問題になりかねない。……まあ黙っておこう。ルイスはそう観念した。

 もういいよ、と師匠が促すので、マメーはクーヤが卓上に置いた銀の器に手を伸ばす。フィンガーボウルであろう指を洗うための器に水が半分くらい満たされていた。

 マメーはそれを両手で包み込むように持った。


「ぬーん、うにゃっ!」


 マメーは奇声を上げた。師匠の目にはマメーの身体から魔力が放出され、水の中に少しだけ溶け込んでいくのが見える。

 これは魔法ではない。単に魔力を何か別のものに浸透させるという、魔女としては基礎的な技術だ。


「うぬっ! ちょやー!」

「ピキー!」

「ピー!」

「ピュー!」


 再び魔力が放出され、ゴラピーたちががんばってーとマメーを応援する。

 マメーの才能は準植物属性特化。完全特化型とは異なり、基礎的なものならば全属性の魔術を扱えるようになるはずだ。

 だが彼女が簡単に植物に魔力を通し、聞いただけの魔術を一度で使えたのに対し、他のものに魔力を通すのにはこうして苦労している。

 まあ、こういう訓練をしているのが本来の魔女見習いや魔術師見習いの姿である。奇声は上げる必要がないが。


「ふー……。これでいい?」


 マメーが汗を拭うような仕草を見せ、師匠に問うた。師匠の目には、器の水にマメーの魔力が溶け込んでいるのが感じられる。


「ああ、いいよ」

「あい! めしあがれ!」


 マメーがそう言えば、ピキピーピューと鳴きながらゴラピーたちはわあっとフィンガーボウルに群がり、よじよじとその縁をのりこえて水の中にぽちゃんと飛び込んでいった。


「ピュー……」


 満足そうな鳴き声が漏れる。


「まあまあっ!」


 ルナ王女が覗き込むように身を乗り出そうとし、ハンナに頭の角を掴まれている。


「はしたないですし、角が危険ですから落ち着いてください」

「え、ええ。ごめんなさいね。マメー、それがゴラピーたちのお食事なのかしら?」

「そだよー」


 そして彼女たちの目の前で、ゴラピーの頭上の双葉が鈍く光り、ぽん、と軽い音が鳴った。


「きょうはー、あお!」


 彼らの頭上には青い花が咲いていた。


「まあまあ! 可愛いわ!」


 再びルナ王女が身を乗り出そうとし、ハンナに頭の角を掴まれている。


「これはぜひ画家を呼んで、この素晴らしさを後世に残さねば……!」


 そう言ったところでルナ王女の動きが止まった。にやりと師匠が笑みを浮かべる。そして師匠がぱちん、と指を鳴らすとルナ王女がびくり、と身を震わせてすとんと椅子に座り直した。


「殿下?」


 ハンナが問い、師匠はこともなげに答える。


「今のが〈誓約〉の効果さね。お姫様は外部の人間を呼ぼうとしただろう。だから動きを止められたのさ。今すぐに解除してやったがね」


 彼女たちは魔女というものの恐ろしさを知った。ゴラピーたちは気にせず水の中でぱちゃぱちゃと遊んでいた。


「さ、茶でもだしておくれよ」


 師匠が促し、クーヤが慌てて紅茶を注ぎ始めたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱすげえよ師匠は( ˘ω˘ )
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