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第47話:おーさま……じゃなくてへーかとおはなしです!

 サポロニアン王国国王、ドーネット9世は正面の大扉から、銀翼騎士団のナイアントと小柄な老婆、そしてさらに小さな少女が謁見の間に入場してくるのを玉座の上から見た。

 この老婆こそ万象の魔女にして魔法薬の大家、グラニッピナに相違ないだろう。そして、ナイアントが手を繋いでいる少女は報告にあった万象の魔女の弟子であろう。

 ずいぶんと幼い子を弟子としているものだ、と王は思った。おそらくは自分の末の娘であり、奇病に冒されているルナよりも歳下であろう。あれで魔女の弟子が務まるのであろうか、それとも魔女の血縁者であるのかとも考える。

 その時である。


「おーさま、こんにちは!」


 幼女はルイスと繋いでいるのとは逆の手を上げて、元気よく王に挨拶した。

 ルイスが片手で顔を覆い、老婆は肩を揺らして笑う。


「無礼な!」


 王の側に立つ宰相が声を荒らげ、謁見の間の貴族たちも騒めく。


「静まれと」


 王は隣に控える近侍にそう告げた。彼は頷く。


「至尊なる国王陛下が仰せである! 静まれ!」


 朗々たる声が謁見の間に響き、貴族らは口を閉じた。幼女はまだ距離が遠いが、驚いたような表情を見せているように思えた。


「ふむ……」


 王はしばし考える。

 なるほど、無礼、礼が無いと言えばその通りだろう。

 礼法であればまずは跪くものであるし、こちらから声をかけて初めて面を上げるものだ。それだって王の顔を真正面から見て良いわけではなく、目は伏せるものである。

 そして何より問題なのは王への直接の言葉だ。本来は今のように近侍を介して話すものである。


「だが……」


 かようなことを言っても仕方あるまい。

 王は腹に力を入れ、久々に大きな声を発する。


「直答を許そう」


 貴族たちが再び騒めくが、王は片手を上げて近侍に合図した。


「静まれ!」


 改めて静かになった広間に、王の声が響く。


「騒々しくしたな。余はドーネット9世と言う」

「よー?」


 マメーは首を傾げた。ルイスが思わず吹き出す。

 魔女は王国の地位や礼法が及ばぬ存在である。それ故に彼女たちが王に礼を払う必要はないのだ。さもなくばルイスがここにくるまでに礼儀作法を多少なりとも伝えておくべきである。


「私という意味だ」

「おーさまはドーネットきゅーせーさん?」


 マメーの言葉に宰相が肩を怒らせた。


「陛下! あまりにも無礼です! これを許しては……」


 王は片手を上げて宰相の言葉を留める。


「余が許しているのだ。構わぬ」


 そもそも、幼子に礼儀を求めてどうするというのだ。王の前に来られるのはデビュタントを迎えてからであり、概ね15歳前後からだ。さすがにその歳なら礼儀作法が求められるが、彼女はその半分であろう。

 王はマメーに向けて言う。


「うむ、だが名前ではなく陛下と呼んでほしい」

「へーか」


 間の抜けたやり取りに師匠も肩を揺らす。


「して、少女よ。汝の名はなんと?」

「わたしはマメー!」


 マメーは元気よく答えた。


「そうか、マメー。汝は万象の魔女殿の弟子かね?」

「うん、マメーはししょーのでし!」


 マメーは肯定する。王は隣の老婆を見た。


「貴殿が万象の魔女殿に相違ないか?」

「そうだよ、陛下。あたしが万象の魔女グラニッピナで、そこのマメーの師匠さ。あたしのこともグラニッピナか、ばばあとでも呼んでおくれ」


 王は顎を引くように頷いた。

 そして広間の貴族たちを見渡して言い放つ。


「良いか! 彼女らは高名なる魔女とその弟子である! 第二次大同盟において、魔女の地位は王権や王国法の外に置かれているのは諸侯も存じている通りだ! 不敬を咎めてはならぬ! 危害を加えてもならぬ!」


 大同盟とは各国の王や、人間以外のエルフや獣人といった各種族の首長らが結んだ国際的な条約である。そこに魔女について、国家に敵対しないことや王権に従わないことなども記載されているのだ。

 王がわざわざ謁見の間に貴族らを集めたのは、魔女に手出しをしてはならぬと示す意味がある。想定外なのは幼い弟子もいたということだが。


「御意にございます……」


 宰相が頭を下げ、貴族たちもそれに倣った。

 王は師匠に向かって言う。


「本来、娘の病を治してもらうことを頼む立場である、余が頭を下げるべきなのだがな。魔女殿、立場ゆえここから頼むことを許されよ」


 王は軽々に頭を下げてはならないものである。

 師匠は肩を竦めて言った。


「王冠がずれちゃあ困るからね」

「きらきらおとしちゃダメ」


 マメーが言う。マメーの背中からピキー! という声も聞こえた。

 王冠がきらきらと輝いているのが気に入ったのだろうか。

 師匠が王冠がずれるといったのは、王が頭を下げれば地位が揺らぐという意味であるが、マメーはそのままの意味で取ったのだろう。


「そうさね。あんたは随分と話のわかる王様だ。依頼はしかと承ろうじゃないか」

「うむ、かたじけない。余の末娘、ルナは療養している。そのそばに魔女殿の滞在する部屋も用意した。ナイアントに案内させよう」


 こうして謁見は終わり、マメーたちはルナ王女の元へと向かったのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] ルイスさん後から怒られますね、ネチネチと宰相辺りから。 この小説を読むときいつも「あゝやんなっちゃった」の歌詞が全部マメになってエンドレスになるのです。
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