第46話:おしろにとーちゃくです!
オースチンは羽をばさりと斜め前に打ち付けるようにして広げる。ふわっとマメーの身体は浮かび上がった。グリフィンが減速したのだ。
「きゃー!」
マメーは歓声と悲鳴の中間のような声をあげた。
「ピキー!」
「ピー!」
「ピュー!」
ゴラピーたちはばんざいのように両手をあげ、どこか楽しそうである。ゴラピーたちの下半身はしっかりとグリフィンの頭にくっついている。
マメーの浮き上がった身体には、しっかりとルイスの腕が回された。マメーはルイスの腕をぎゅっと掴む。しっかりと根を張った大樹のような安心感だ。
「あははー」
マメーは笑う。落ちる心配がなければ高いところも怖くはない。
ルイスは城壁に立つ兵士たちに向けてぐるりと腕を回して合図をする。向こうからは旗が振りかえされた。マメーも片手を上げて城壁に向けて振った。
良く見れば城の庭や窓際から多くの人がこちらを見上げている。マメーは楽しくなって色々なところに手を振った。
「グラニッピナ師! 裏手の広場に降ります!」
ルイスが前方を指し示しながら、師匠に着陸地点を示す。師匠はとんがり帽子に手をやって指を振った。魔女の肯定の合図だ。
城壁を抜けたところと城の間には、対称的に刈り込まれた木や、色とりどりの花の植えられた庭園が広がっていた。
ルイスはマメーにその様子を見せるためグリフィンを傾けて滑空してみせた。
「わーい!」
そして城の裏手へと向かう。騎士団の詰め所や馬小屋などの施設が見える。そのそばに空き地があった。空き地の周囲には多くの人影が見える。
どうやらそこにグリフィンが着陸するようだ。ばさり、ばさりとオースチンは羽ばたき一つごとに減速と下降をし、ゆっくりと地面に降り立つ。
それでもずん、と衝撃と共に砂埃が舞った。
師匠はすいっと音もなく着地する。
「ついた?」
「ええ、お城に到着です」
ルイスはそう言うとひらりとオースチンの背から飛び降りて言った。
「ルイス・ナイアントだ! 帰らずの森の魔女殿とそのお弟子殿をお連れした!」
おお、とどよめきのような声が返る。
「ナイアント卿ご到着!」
伝令がそう大きな声を出して城へと駆け出した。城内の国王らに連絡が行くのだろう。
「ピキー」
「ピー」
「ピュー」
ゴラピーたちがオースチンの頭上でじたばたしながらルイスの方に向いて鳴く。オースチンが迷惑そうに頭をしぴぴと振った。
ルイスはマメーに尋ねる。
「彼らはなんと?」
「えっとねー、ぼくたちのなまえがよばれなかったーってルイスにぷんぷんしてる」
「おやこれは失礼しました」
ルイスはゴラピーたちに頭を下げる。
「ひひひ、こういう時に使い魔は呼ばれんものさね」
師匠が近づいてきながらそう言った。
「隠れてマメーを守ってやんな。ほれ、〈固着〉解除だ」
ピキピーピュー! とゴラピーたちは師匠に返事しながら、とてて、とグリフィンの頭を駆け下りて嘴の先で跳び、マメーの胸に飛びついていく。
そしてごそごそとローブを登り、背中のフードの中に収まった。フードの中から葉っぱだけが三つ並んでぴょんと覗いている。
ルイスは笑った。
「グラニッピナ師、小さき方たちの扱いがお上手ですね」
「ふん、単純なだけさね」
グラニッピナは口が悪いが、マメーやゴラピーに好かれているところを見るに、面倒見の良い人物には違いあるまい。ルイスは思う。
そもそも、そうでなければ姫を治しにこんなところまで来てはくれないだろうが。
「グラニッピナ師がお優しいのですよ」
「ししょーやさしー」
マメーは同意する。
ふん、と師匠は鼻を鳴らして箒をしまい、代わりに虚空から長い杖を取り出した。
「さっさと行くよ」
そう言って杖をついて城に向かって歩き出した。
「ええ、行きましょう。陛下も首を長くしてお待ちでしょう」
ルイスはオースチンの手綱を従者の少年に預けると、マメーに手を差し出した。
「に?」
「エスコートです。お嬢様、お手をどうぞ」
「あい!」
マメーはルイスと手を繋いで、お城に向かって歩き始めた。
サポロニアンの城は大国の宮殿のように贅を尽くしたものではない。戦のために兵舎や防壁も兼ね備えたものであるが、それでも一国の王の住まう居城である。
「うわぁ!」
マメーが見たこともない豪奢な内装と大きさであった。
きらきらとした燭台や、ふかふかのじゅうたん、飾られた絵に、ぴかぴかの鎧を着てぴしっと並ぶ兵士たち。
マメーはきょろきょろしながら廊下を進む。ルイスの手を取ってなかったら、ふらふらどこかへ行ってしまったことであろう。
そして三人は大きな扉の前に立った。謁見の間である。
「ナイアント卿! 万象の魔女殿! そのお弟子殿ご到着!」
門の前の兵士が中に向けて大声で呼びかけた。
中から返答があり、別の兵士がマメーたちに向かって言う。
「お入りください」
そして扉がゆっくりと開かれる。ルイスが言う。
「行きましょう」
三人は広間の中に入った。そこには多くの貴族たちがマメーたちを迎えるように並んでいる。
そして奥には金の王冠を被った壮年の男性が、一段高いところに置かれた椅子に座っていた。
マメーはぴっとルイスに取られたのとは反対の手をあげる。
「おーさま、こんにちは!」
そして元気よく挨拶した。








