第38話:おでかけするんだって!
ξ˚⊿˚)ξ昨日は体調崩して寝てましたわー。スマヌ。
食事時である。普段の昼は簡単に作り置きのシチューにパンの食事が多いが、ルイスという若く体格の良い男がいるためか、若鶏の照り焼きがメインディッシュにされていた。ごちそうである。
もうすっかり元気なマメーはぶすり、とフォークを鶏肉に突き刺して口に運びご満悦であった。
「マメーは治癒魔術に適性があるのですか?」
食べながらルイスが問うた。
師匠たちはぴたりと動きを止める。マメーだけもしょもしょ食事を続け、皆が見ているのに気づいて動きを止めた。
「なあに?」
治癒の魔術が使えるものは希少だ。厳密に言えば、使える魔術師や魔女はそれなりにいるのだが、需要に全く追いついていないというべきだろうか。
先ほどゴラピーを癒したのを見て、ルイスが尋ねたのも当然といえた。
「多少はな」
師匠は言う。
「マメーは植物への適性がとても高いのさね」
「ははぁ……」
普通なら魔女は手の内を晒すような真似はしない。だが、治癒魔術に長けていると思われる方がより面倒なのであった。
つまり、どの国家や組織も欲しがるということだ。
マメーは頷いた。
「マメーしょくぶちゅとくい」
「それは素晴らしいですね」
食事が再開される。
「そういえば先ほどのゴラピーの頭の花ですが」
師匠たちは再びぴたりと動きを止めた。
「ピキ?」
「ピ?」
「ピュ?」
水を張った鍋に身をひたしていたゴラピーたちが首をかしげる。
「あんたにはどう見えたね?」
「彼らが頭上の花から蜜を垂らしたらマメーが治癒したように見えました」
ふむ、と師匠は唸った。
「マメーがぶっ倒れていたのは魔力と体力・生命力の枯渇さね。生命力の方はあたしが治癒魔法で何とかした。あんたの体力も使わせてもらったね」
「ええ」
師匠は赤いゴラピーの頭上の花を指で弾く。
「ピキッ」
蜜を出したからか少し萎れたようになっていた。
「こいつらの花の蜜は魔力を回復させる効果があるらしい。特に主人であるマメーの魔力とは親和性が高いんだろうね。あんたが思っているように治癒の効果があるわけじゃあないよ」
「なるほど」
とはいえ、無価値であるようかの言い方もまた何か隠しているように思われるだろう。師匠は付け加える。
「あんたの国の魔術師がこれを知ったら、血相変えて欲しがるだろうけどね」
「それほどですか」
「魔術師や魔女にとって魔力ポーションは最も価値ある資源だからね」
「まりょくぽーよん!」
確かに少量で変化は劇的だった。それだけの効果ある魔力回復薬であれば宮廷魔術師らもこぞって求めるだろう。
「ま、できればこれは秘密にしといてくれ」
「騎士として誓いましょうか?」
「別に大袈裟にするこたないさ」
師匠はひらひらと手を振って断った。
秘密を漏らすようであれば、遠方に移り住んでしまえば良いのだ。魔女にとってそれは容易いことなのだから。
「さて、それよりあんたのとこの姫様の病気の件だね」
「はい」
ルイスは居住まいを正した。師匠はブリギットを指し示す。
「そこにいるのが面倒な調薬をあたしに依頼してた奴でね」
ブリギットはわざとらしく驚いたような表情を見せる。
「あら、待たせちゃったかしら? ごめんなさいね」
「だがまあ、それもちょうど終わったところさね。あんたの国へ向かうとしよう」
「ありがとうございます!」
ルイスは頭を下げた。
「おでかけ!?」
マメーは尋ねた。
「そうさね、マメーも一緒に行くよ」
「やったあ!」
マメーはばんざいした。
ピキピーピューとゴラピーたちも歓声のような鳴き声を上げる。
「準備もある、明日の朝に出発するでいいね」
「もちろんです」
「じゃあアタシたちもその時に帰ろうかしら」
ブリギットは言った。
「ブリギットししょーとウニーちゃんかえっちゃうの?」
マメーはしょんもりした。
「お仕事があるのよ。サポロニアンでしょう? 都合ついたら遊びに行くわ」
ブリギットは言う。
「ん」
食事中、うつむきがちで話に参加していなかったウニーが顔を上げた。彼女はマメーの手を取る。
「マメーちゃん」
「なあにウニーちゃん」
ウニーは真っ直ぐマメーの顔を見る。オレンジの瞳にはある種の決意が見て取れた。
「マメーちゃん。わたし、魔法の勉強頑張るから」
「ウニーちゃんはがんばっているよ?」
ウニーは首を横に振る。
「ううん、もっと。次はもう失敗しないから。約束」
「やくそく」
魔女は人を騙す。決して誠実でもない。だが、言葉に魔力がこめられる魔女たちは、約束や誓いというものをことさらに大切にするのだ。
ウニーという少女は魔術の才能は豊かであったが、魔術を極めようとかそういった勤勉さ、探究心とは無縁であった。今回の失敗はウニーに心境の変化を与えたようだ。
あるいは彼女は今、はじめて真の意味で魔女の見習いとしての道を歩み始めたのかも知れなかった。
「うん! ウニーちゃんならできるよ!」
「ピキー!」
「ピー!」
「ピュー!」
マメーはウニーを応援し、ゴラピーたちも激励するように鳴いた。
グラニッピナとブリギットは笑みを浮かべ、ルイスは胸に手を当てて頭を下げた。
「ウニー殿の誓いに祝福あらんことを」
「ちょっと……やめてよ、恥ずかしいんだけど……」
ウニーはローブのフードを被って顔を隠したのだった。








