第33話:ピュー!?ピキー!ピー!
時間は少しさかのぼり、小屋の前に伸びる小径の上である。
「ピキッ」
「ピッ」
「ピュッ」
三匹のゴラピーたちはおのおのが庭の違う方向を指差し、頷きあった。
自分たちがどちらに向かうかを決めたのた。
三匹はピキピピューと鳴きながら手を振って別れ、小径や草むらをてちてち、がさがさと歩き出す。手分けしてマメーにあげる実を探すのだ。
「ピュ~」
さて、そのうちの一匹、青いゴラピーは薬草園の方へと向かった。このあたりに植えられているマメーの育てている草にはマメーの魔力がこもっている。
ゴラピーには心地よく感じられるが、探しているのはそれではない。
てちてち、てちてち。
やがて薬草園の端っこにある沼へと辿り着いた。
「ピュピュピュー、ピュピュピュ~」
ゴラピーはご機嫌な鳴き声をあげながら歩く。
「ピュ?」
何か見つけたのかしゃがみ込んだ。拾い上げたのは植物の種である。
「ピュー……」
しばしじっと見つめていたが、お気に召さなかったのか沼の中にぽいと捨てた。
「ピュピュピュー」
そして再び歩き出す。
それを見ていたものがいるのである。
水面の揺れを感じたためか、沼からぎょろりとした目が覗いた。沼に棲むでっかいヒキガエルであった。
彼の目には青くてちっこい生き物がご機嫌そうな鳴き声を上げながら沼の周りをてちてちてちてちと歩いているのが見える。ときおりきょろきょろと周囲を見渡したりしているが、警戒のためというより何かを探している動きであった。
「げこげこ」
彼は小さく鳴くが、青いのはとくにそれを警戒する様子も見えない。
このあたりの沼に棲むカエルやらヘビやらの中でも、でっかい沼の主のようなのは師匠の使い魔である。彼らは普段、小屋の周囲で侵入者を警戒しているのだ。
使い魔ゆえに普通の動物よりずっと知恵がある。
師匠と師匠の弟子であるマメーのことをちゃんと認識しているし、以前そのマメーが『ゴラピーってゆー、わたしのおともだちができたんだけどー、それはたべないでね!』と言っていたのだって覚えている。
「ピュピュー」
ゴラピーを紹介されてはいないが、その日からマメーと共にいるようになった二匹の気配は判るし、マメーが薬草園の水やりをしているときに遠目に見ている。
その二匹とはちっちゃい赤いのと黄色いのである。すぐに似たような大きさの青いのが増えたが、それはマメーがそう言ったのよりも後になって増えた生き物だ。
つまりこの青いのはゴラピーではないから食べていいはず。ヒキガエルはそう判断した。
「げこげこ」
あーん。
彼は大きく口を開くと、ピンク色の舌が矢のような速さで伸びて青いゴラピーの体にくっついた。
「ピュー!?」
青いゴラピーは悲鳴を上げた。
舌は同じ速度で引き戻される。
ぱくり。
「ピー!?」
黄色いゴラピーは少し離れた草むらの中で、引っ張っていた木の実から思わず手を離し、その勢いで転んだ。
手を離したのは、青いのの悲鳴が聞こえた気がしたからだ。
ゴラピーたちは離れていても、なんとなく互いの様子や考えていることがわかるのである。
「ピキー!」
赤いゴラピーが黄色いのの横を全速力でてちてちと薬草園の方に向けて走っていく。
青いのの元へ向かっているのだ。
自分がすべきことは……。
「ピー!」
マメーを呼びに行くことだ。黄色いゴラピーはそう考えた。
黄色いのはてちてちと走って、小屋の扉の隙間から中へと入れば、顔を白くしたマメーが立ちあがっていた。マメーにもまたゴラピーの危機が伝わっているのだ。
「ゴラピー!」
「ピー!」
マメーはかがんで黄色いゴラピーを掬いあげると、そのまま外へと走り出す。
「ちょっとマメーちゃん!?」
ウニーも慌ててその後を追った。
「どっち!?」
「ピー!」
ゴラピーが指さした方向は薬草園の奥である。
マメーがとことこ走っていくと、クレソンの植えられている沼の中ほどで、赤いゴラピーが暴れているのが見えた。
「ピキーピキー!」
頭上のもさもさ葉っぱを勢いよく振りながら、べちべちと叩きつけるような動きをしている。
叩きつけているのは沼の水面ではなく、灰色のヒキガエルだ。ゴラピーよりずっと大きいが、特に抵抗することはなく、だが迷惑そうに顔を背けようとしている。
「ピキー!」
べちべち。
ヒキガエルが赤いゴラピーを攻撃していないのはマメーにそう言われているからだ。
とはいえゴラピーは青いのを返せというようなことを言っているのだが、彼らの言葉までは理解できていないのだった。
「ゴラピー!」
マメーは走る。
そして赤いゴラピーが叩くカエルの口から見覚えのあるもさもさ葉っぱがはみ出しているのを見た。
「かえるさん、ゴラピーかえして!」
マメーはそう叫びながら、走る勢いそのままで沼にざぶんと飛び込んだのであった。