第29話:みんなゴラピーとなかよくなりたいんだって!
「ピキキキキ……」
「ピピピピピ……」
「ピピュピュ……」
ゴラピーたちがウニーの手の上に浮かぶ水の玉をピキピキごくごくと飲み干していく。
口でちゅるちゅる吸っているようであり、顔や体全体で吸収しているようでもある。そもそもマンドラゴラであるなら身体が植物の根であるのだから、そいうことなのだろう。とウニーは思った。
「ピキー!」
「ピー!」
「ピュー!」
ゴラピーたちは水を飲み終えると満足したのか顔を上げ、その場でぴょんと飛び跳ねながらウニーに向けて鳴いた。
「なんて言ってるの?」
「ありがとー、おみずおいしかったーって」
実のところ〈水作成〉の魔術で作った水であるから、ごく微量であるがウニーの魔力が水の中に溶けているのである。
昨晩のように花が増えるほどではない。主人であるマメーの魔力でも植物系の魔術でもないし、水に含まれる魔力は僅かだ。だが、人間風に言えば好みの味であると感じるようなものだったのだ。
「ま、気に入って貰えたなら良かったわ」
ウニーは照れ隠しかそっぽを向いて、手についた水滴を払った。彼女はぽそりと呟く。
「なかなおりできたかしら?」
「うん!」
マメーは力強く頷き、ゴラピーたちに問いかける。
「ねー?」
「ピキー!」
「ピー!」
「ピュー!」
三匹のゴラピーがぴょんぴょんぴょんと順番にウニーに飛びかかった。
「わっ……ちょっ……きゃあ!」
赤いゴラピーを抱えるように捕まえ、次の黄色いゴラピーを落としかけて慌てて拾い、バランスを崩したところに青いゴラピーが飛びかかってきた。
しゃがみ込んでいたウニーは尻餅をついてころんと転がった。
「あはははは!」
愉快そうなマメーの笑い声が聞こえる。
「もー……」
寝転がって青い空を見上げる形となったウニーの顔を、三匹が不思議そうに覗き込んだ。
ぷっとウニーも吹き出す。結局マメーもウニーの隣に寝てごろごろと草むらの上を転がり、髪を草まみれにしたのだった。
その時だった。ばん、と音を立てて小屋の扉が開いた。美しき魔女が力強くそこに立っている。
「あ、ブリギットししょー」
身を起こしたマメーとウニーは、まるで嵐を前にしているかのような威圧を感じた。ブリギットの身から溢れんばかりの魔力を感じたからだ。
だが、その表情はなにか真剣で緊張のようなものも感じるが、怒っているわけではなさそうである。
「えっと……師匠? どうされました?」
「ピキ?」
「ピ?」
「ピュー?」
ウニーが尋ね、どうしたのかとゴラピーたちも首を傾げる。
ブリギットはびしりとウニーに指を突きつけて言った。
「ウニーばかりゴラピーと仲良くなってずるいわ!」
「いやずるいって」
ブリギットは師匠からゴラピーの蜜が純粋な魔力溶液に近いということを聞いたのである。
そしてこれは単純に魔力回復ポーションとして高性能なだけではなく、製薬においても極めて高い価値があることも。それこそブリギットが注文している美容の薬、それには若返りの効果も含まれるが、その効果も高まる可能性があると。
「アタシも仲良くするわ!」
「わあい!」
「えぇ……」
そして師匠から少し渡されたゴラピーの蜜を舐めたことで、魔力が回復したのを実感しているところでもあった。
ずいっとブリギットが外に出てくる。
「ウニー!」
「ひゃい!」
「どうやって仲良くなったのかしら?」
「えっと、魔法で水を作って……」
先ほどブリギットも魔法で室内から見ていた光景である。
「それならアタシの水はどうかしら!」
ブリギットはぱんと手を叩いた。
彼女を囲うように、無数の水球が出現する。
それは魔術のキーワードも破棄した完全な無詠唱であり、その数も制御も見事な魔術であった。
「ピキー?」
「ピー?」
「ピュー?」
ゴラピーたちはマメーを見上げて首を傾げた。
マメーは言う。
「ブリギットししょーがゴラピーとなかよくなりたいって。おみずあげるって」
彼らは頷くと、わあいと鳴きながらブリギットの水球に駆け寄っていき……。
「ピキー!?」
「ピー!?」
「ピュー!?」
そして散り散りに逃げ出した。
「ええっ何で!」
ブリギットが叫び、ウニーがあっと何かに気づいた表情を浮かべた。
マメーは鼻がむずむずして、くちゅん、とくしゃみをした。
「あ」
マメーも気づいた。においである。
「師匠」
「……何かしら? ウニー」
「植物は海水を嫌うのでは?」
マメーも頷く。
「しょくぶちゅにしおみずはめーよ」
ブリギットはがくりと膝をついた。
大海と蒼天の魔女ブリギット。その二つ名の通り、彼女が魔力で生じるのは海水なのであった。
こうしてばたばたと一日は過ぎ去り、夜である。
マメーは自分のベッドの横に、三つの植木鉢を並べた。
ゴラピーたちが自分の色の鉢にぴょんぴょんぴょんと入る。
「おやすみ、ゴラピー」
「ピキ」
「ピ」
「ピュ」
彼らは土を被ってただの芽が出ているだけの鉢植えのようになった。
「おやすみ、ウニーちゃん」
「おやすみ、マメーちゃん」
ベッドが二つ並んでいる。今日からしばらく一緒におやすみできるのだ。
マメーはむふーと満足そうに笑みを浮かべると、部屋の明かりを落としてベッドの中に潜り込んだのだった。
ξ˚⊿˚)ξ第二章というか二日目って感じですが第二章完です!
もうすぐ六万字になるっていうのにやっと二日目終わったとこらしいっすよ。
さすがにちょっと時間飛ばしていきますが。
キリの良いところなのでまた数日おやすみして、三章はじまったらまた連続更新ってかんじにしようと思います。
ご高覧いただいている皆様に感謝を。
章の終わりなので、感想とかブックマークとか評価くれると作者がとても喜びます!
ありがとうございます!(お礼先払いシステム)








