第27話:ウニーちゃんのまほーであそびます!
ウニーの魔術の素質は不均衡二属性特化型、闇水属性四つ星である。
特化型なので二つの属性の魔術しか扱うことができず、不均衡とは一つ目の属性の魔術が得意で、二つ目は少し不得手、基本的に素質の星が半分くらいという意味だ。
ウニーは闇属性に関しては四つ星、魔女の中でも極めて高い才能を有していて、水属性に関しては二つ星、平均的な魔女くらいか優秀な魔術師くらいの才能、他の魔術はほぼ使えないということとなる。
「〈闇変形〉!」
半球の形状をしていた闇がその形を変える。にょろりと伸びて、まるでとぐろを巻いた蛇のようにずるずると動く。
「ふおぉぉ……すごーい!」
マメーは感嘆の声をあげた。
ウニーは闇の形を変形させるのに集中していて、それに応えることはできない。だが彼女たちの前で巨大な蛇のようになった闇は音を立てることもなく移動していき、そしてくるくると丸まったかと思うと完全な球体になった。
さらにその球体からにょきにょきと棘が生えてくる。球は棘の生えた塊になった。
ふー、とウニーは集中を解いた。変形が終わったのだろう。
マメーが尋ねる。
「ウニーちゃんこれなあに?」
ウニーはどやあと胸を張って答える。
「ウニよ!」
「これがうにー?」
マメーはウニという生き物を見たことはなかった。そもそもここは森の中でウニはいないのである。
「ピキー!」
「ピー……」
「ピュー?」
赤いゴラピーがウニに近づこうとして黄色いのに危ないよと止められている。青いのは身体を傾けてウニの形の闇を観察しているようだ。
「ピュ」
青いゴラピーがちょん、とウニの棘の一本に手を伸ばした。もちろん、これは光が届かなくなるだけの魔法である。手はするりと闇をすり抜けた。
「ピュー?」
青いゴラピーはなんだこれと、すり抜けた自分の手を見る。
「ピキー!」
「ピー!?」
赤いゴラピーもそれを見て闇に突っ込んでいき、黄色いのもそれに引き摺られて闇の棘に突っ込み、二匹はすり抜けてころころと転ぶ。
「ピュピュー」
青いゴラピーは笑っているような声を出した。
マメーも闇の中に手を突っ込む。沢山の針に串刺しになっているように見えるのに、痛みも何も感じないのだ。
「あはー、なんかヘン!」
マメーたちが遊んでいる間に、ウニーはそっと体内の魔力を整え直し、杖を再度構える。
「〈闇・性質変化〉」
闇に身体を突っ込んでいたマメーは、自分の身体が急にずしりと重くなったのを感じた。
「ピキー!?」
「ピー!?」
「ピュー!?」
ゴラピーたちも突然の変化に悲鳴をあげる。
「ウニーちゃん、なにこれぇ」
「ふふーん、闇を沼に変化させたのよ」
沼に身体が沈んでいくように、ずぶずぶと闇に身体が沈み込んで抜けない。
マメーはウニーが友人だから傷つけるようなことはないと分かっているので、ずぶずぶと沈む身体を楽しんでいるが、ゴラピーたちはそうではない。
「ピー!」
食べられるーというような鳴き声が上がった。
ウニーはこの状態で、ウニ型の闇を魔法で操り、ころころと地面を転がした。
「あはははは!」
「ピキー!?」
「ピー!?」
「ピュー!?」
一人の笑い声と、三匹の喜んでいるのか怖がっているのか半々くらいの鳴き声があがった。
ちなみにこの性質を変化させる技術、マメーの師匠であるグラニッピナのような万能の魔術師であればあまり使わなくとも良い技術であるが、単系統や二系統に特化した魔術師にとっては極めて重要な技術である。
例えば戦いとなった時、闇で周囲を暗くできるのは確かに有利である。しかし闇をぶつけても直接的な攻撃力はないのだ。
他の系統が使えるなら炎を出しても電撃を生じても良い。しかし闇で戦うなら、形状や性質を変化させねばならないのだ。つまり尖らせて硬くするということである。
「あーおもしろかった! ありがと、ウニーちゃん!」
魔術が解除された後、地面に降り立ったマメーは満面の笑みでウニーに言った。
「どういたしまして」
ウニーは答える。
「ピキー……」
「ピー……」
「ピュー……」
地面に降り立ったゴラピーたちはじとりとした視線をウニーに向けて鳴いた。
「ごめんて」
ウニーは答える。
やはりちょっと恐ろしかったようだ。そもそも身長10cmくらいのゴラピーたちにとって直径2mくらいの闇のウニは怪物であり、ちょっと怖かったのであろう。
「ピキー……」
「ピー……」
「ピュー……」
三匹はマメーのローブの後ろに身を隠しながら、じとーっと警戒するような視線をウニーに向ける。
「えっと、罪悪感が酷いんだけど、どうすればいいんだろう」
「なかなおりすればいいとおもうよ!」
マメーは気楽なものである。
うーん、とウニーはしばし考え、マメーに尋ねた。
「ゴラピーたちって何が好きなの?」
「まほーしょくぶちゅだからー、みず、おひさま、えいよう! あとまりょく?」
「水かー」
ウニーは地面の上にしゃがみ込み、てのひらを上にして地面に手を置いた。
「ゴラピーたちごめんて。……〈水作成〉」
ウニーは水系統の基本的な魔術を使った。彼女の手のひらの上に小さな水球がシャボン玉のようにぽこぽこと生まれる。
「ピキー!」
「ピー!」
「ピュー!」
三匹のゴラピーは、わあいと鳴きながら水玉に駆け寄った。