マメーとおりょーり:後
マメーは目玉焼きをゆっくりと口に運ぶ。もぐもぐしているうちに、マメーの顔に笑みが浮かんだ。
「おいしい!」
「どれ」
師匠はナイフでマメーの目玉焼きを少し切って口に運んだ。
「……ふん、初めてにしちゃあ上手くできたじゃあないか」
「やったぁ!」
マメーはもう一口、目玉焼きを口に運ぶ。
「おいしい! でも、いつものししょーのとちがう……。ししょーのがおいしい!」
「何が違うか言ってみな」
ふん、と師匠は鼻で笑ってそう言った。
こうやって観察力を磨かせるのである。マメーはちょっと考えて、はっと気づいた。
「これはとろっとしてないたまごだ! パンにはさむやつ!」
「そうさね。これは両面焼きの固焼きってやつさ。マメーのこれは固焼きとしてはちゃんと成功してるよ」
パンに卵を挟んで食べる、特に森の中で薬草などを採取するため、おそとに持っていって食べるときはこういう固焼きの卵をパンに挟んでいた。
ふむふむ、とマメーは頷く。実際、マメーの卵はちゃんと美味しかった。師匠が成功というのも分かる。
「ししょーのめだまやきはー?」
「片面焼きか、両面焼きでも生焼けにしてるのさ。とろっと、ってのはそのせいさね」
師匠の目玉焼きはまんまる黄色がきれいに真ん中にあるのだ。そして黄身がとろっとしている。かわいくておいしい。なるほどー、と納得したマメーであるが、師匠は言葉を続けた。
「マメーがやるときゃ、今みたいに固焼きにするんだよ」
マメーはこてんと首を傾げた。師匠のやり方のが美味しいのに!
「なんで?」
「卵ってのは、中に腹に悪さするのが住んでいることがあってね。火を通さないとひどく腹を壊すことがあるのさ」
「おなかごろごろ?」
「そうさね」
つまりはサルモネラ菌のことである。細菌学は世の中では失われた知識であるが、魔女にはそのような事柄についての知識も伝承されているのであった。
むむむ……とマメーは唸った。それなのに師匠は生焼けの、とろっとした卵を出すのだ。つまりどう言うことかというと……。
「ししょーがめだまやきやるときは、まほーつかってる?」
師匠はにやりと笑みを浮かべて肯定した。つまり、半なまの卵を食べるためだけに〈浄化〉の類の魔術を使っているということになる。
当然、普通はそんなことはしない。師匠がいかに日常的に魔術を使っているかということである。
「ピュー!」
むうん、とマメーが師匠の目玉焼きについて考えていると、青いのが鳴いてぶんぶん手を振った。師匠とマメーの視線がそこに集まる。
「こいつは何だって?」
「たまごをひとつかしてーって」
師匠はふむ? と鼻を鳴らして卓の上に生卵を一つおく。するとゴラピーたちはよじよじと籠から降りて、てちてち卵の周りに近づき、ぐるぐるぺたぺたと触り始める。
ぺちぺち、ぺちぺち、ぺちぺち。
「何してんだい」
ゴラピーたちはしばらく卵をぺちぺちしていたかと思うと、三匹揃って、ふう、と額の汗を拭うような仕草を見せた。
マメーは言う。
「〈じょーか〉おわったよって。ゴラピーすごーい!」
マメーがぱちぱち手を叩けば、ゴラピーたちはどやあと胸を張った。
「なんじゃそりゃあ!」
師匠は叫ぶ。
以前、ゴラピーたちがその身を土などで汚さないことから、〈浄化〉の力を秘めていると看破したのは師匠自身である。だがこんな能動的かつ簡単に使えるものなのか。師匠は〈鑑定〉魔術まで使って、卵が浄化済みであることを確認すると、がくりと背もたれに身を預けた。
「……なんか疲れたよあたしゃ」
「だいじょーぶ?」
「まあいいさね。料理に使えることは間違いない」
マメーはこてんと首を傾げた。
「たまごを〈じょーか〉できたなら、マメーもめだまやきをさにーさいどあっぷにしてもいい?」
「……ゴラピーがいるときならね」
「やったぁ!」
マメーは両手をあげてばんざいし、ゴラピーたちもピキピーピューと鳴いて手を叩く。
「ま、とりあえず今日の料理は終わりだよ」
師匠がそう言うとマメーは立ち上がった。
「てってってーてってってってー」
「ピキー!」
赤いのがばんざいする。
「とんとこてんてんとことことん」
「ピー!」
黄色いのがばんざいする。
「てってってってーとんとことっとっとん!」
「ピュー?」
青いのはなんだかよくわからないが両手をあげた。
師匠はため息をつく。
「……なにさね」
「おりょーりおしまいのうた」
「毎回やんなくていいからね」
ξ˚⊿˚)ξはい、というわけで『マメーとちっこいの』本日2/20発売です!
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私も秋葉原にでも行って本が並んでるの覗いてきます。
また2/17にコミカライズも連載開始していますので、こちらもご高覧よろしくお願いいたします!
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