第194話:おっしろのおっにわーです!
「おっしろのおっにわー」
お城のお庭は当然ながら綺麗である。
庭園の正面側は威厳を感じられるような直線的なつくりに、裏手は薬草園など実用のためのつくりとなっているが、王妃や王女のための一角であるこのあたりは優美で可愛らしく花々が咲き、木々が刈り込まれていた。
「わあい、ばらさんこんにちは!」
マメーはてってこ小走りにその中の一本に近づいていき挨拶をした。
「ひさしぶりー、げんきだった?」
前回お城にきたとき、師匠とお庭に出て話をした木だ! とマメーはすぐにわかるのである。
マメーはバラの葉っぱを撫でながら、へー、ふーん、ほー、と何やら相槌のようなものを打っている。
「……マメーちゃん?」
「しー」
ルナ王女が何をしているのか尋ねようとしたが、ウニーはそっとそれを止めた。
マメーは魔術を唱えていないし、魔力だって使っているのかどうかすらわからないが、彼女は植物と会話している。これはおそらくマメーにしかない魔術の形なのだ。邪魔をするべきではない。
そしてウニーはふと思う。そもそもグラニッピナ師匠がマメーの発音を矯正していかないのは、もしかしたらこのあたりに理由があるのかもしれないと。
「あははー、ルナちゃんすぐつかれちゃうのかー」
「ちょっとマメーちゃん!?」
さすがにルナ王女も声を大きくした。マメーは振り返ってえへっと笑う。
「ルナちゃんがんばってまほーつかってるよーって。でもすぐにへたっちゃうねーっていってた!」
「ぐぬぬ……」
間違っていないので、ルナ王女も反論はできない。ぐぬぬと唸り、ため息をつく。
「これでも〈体力向上〉の魔術は覚えて使っているのですけどね」
「うーん、あれは熟練しないと効果は気休め程度と聞いたわね」
「実際そうなのですよねぇ」
〈体力向上〉はその名の通り、体力や持久力を一時的に向上させる魔術である。ただ、魔法によって体内の魔力を使うことも、その魔術に熟練していなければ疲労するものである。
疲労して体力を向上させるのでは、効果は薄いのだ。だが、ルナ王女の場合、魔力を使うことそのものが目的でもあるからそれには効率が良いのだった。
マメーが頭の両脇に指をぴょんぴょんと立てて尋ねる。鹿の角を模しているようだ。
「〈へんしん〉とか〈じゅーか〉はー? ルナちゃん、そっちのがそしつあるってきいたよ?」
以前、ランセイルがルナ王女の〈鑑定〉の結果を報告してくれたが、王女は肉体操作系二つ星、限定特化:変身系三つ星以上ということであった。また、ルナ王女は自身の魔力を身体の外に出せないために、自分の身体を強化する魔術が使え、その中でも身体を別のものに変化させる術が得意ということになる。
「〈変身〉に〈獣化〉ですか。以前、それが暴走して角が生えたのですし、そもそも少々危険な魔術であると先生は仰っていました。家族とも相談の上、少なくともしばらくは使わないことにしましたわ」
「そっかー」
マメーとしてはちょっともったいないなぁと思うところでもある。
得意な魔術を使わないとは、マメーで言えば植物の魔術を使わないということだからだ。それは嫌だなあと思う。でもルナちゃんのそばには師匠がいないからなぁ。しょうがないかなあとも思うのだった。
「うん」
「何よ?」
マメーが納得したように頷いたので、ウニーは尋ねる。
「ししょーはすごい」
「それはそうだけど」
相変わらず良くわからない子でもあるのだった。
「ピキー?」
「なにかしら?」
赤いのがちょんちょんとマメーのローブの裾を引いた。ちなみに今も着ているのは師匠の替えのローブである。
黄色いのは庭の生垣の向こう側を指差した。
「ピー」
「あっちいっていいかーって? きょーもおたからさがし?」
「ピュー」
青いのが頷いた。ルナ王女が尋ねる。
「まあ、マメーちゃん。お宝って何かしら?」
「えーっとね、ま……!」
はっとマメーは気がついた。
「ま、ま、ま」
「ま?」
「まーままーまーまー」
「どうしたの?」
突然歌い出したマメーにルナ王女はくすくす笑うが、ウニーはヒヤヒヤである。
よりによって王城で魔力の実と言いかけたのだ。ゴラピーが魔力の実を探して持ってくるなどと知られたらひどい問題になるだろう。前に師匠に怒られたのをすんでのところで思い出したのか、言わなかっただけマシとすべきだろうか。
ウニーは助け舟を出した。
「今日はせっかくだし、みんなでお散歩するのはどうかな?」
「そ、そうしよう!」
ゴラピーたちもピキピーピューピャーと頷いたので、三人と四匹は、庭の生垣のあいだをぐるぐると散歩したのである。ときおり、ルナ王女が自分に魔術を使ったり、マメーが植物と話したり、ウニーが〈闇〉の魔術をぐねぐね動かすのをゴラピーたちが逃げ回ったりしながら。半分は魔術の練習であり、半分は遊びのようなものであった。
そして一刻ほどが過ぎた頃である。
「ルナ殿下、みなさん。お茶が入りましたよ!」
「すってん!」
ハンナとクーヤがお茶と菓子を持ってきて、四阿でお茶会になったのだ。師匠が戻ってきたのは、マメーたちがケーゼトルテのシュニッテンに舌鼓を打っている頃であった。
「ほい、邪魔するよ」








