第193話:おにわにいきます!
師匠はお仕事に行っちゃったので、マメーとルナ王女は遅れて起きてきたウニーと三人で朝食をとる。そして朝食を食べ終えてすぐ、小麦色のゴラピーが立ち上がって鳴いたのである。
「ピャー」
「どうしたの、ゴラピーちゃん」
「おべんきょーは? って」
マメーが答えた。
「今日はランセイル先生もいらっしゃらないわ」
ルナ王女はそう返す。ブリギット師匠もルイスもランセイルも、大人たちは国王や神殿との話に行ってしまっているのだ。
「ピャ、ピャ」
小麦色のは卓上でルナ王女の手をてちてち叩く。マメーは言った。
「おそとにいくよって」
マメーの言葉に小麦色のはこくこく頷いた。食事の水にまだつかっていた赤黄青のゴラピーたちも、お外と聞いてそそくさと水から出てくる。
「先生もおりませんし、マメーちゃんも助かったばかりでお疲れでしょうから、今日は魔術の勉強や運動はお休みでも良いのではなくて?」
ルナ王女としてはせっかくお友達もいるし、お茶会などして遊びたいのである。ついでに運動だって休みたいのだ。
「ピャ!」
ぺちぺちぺちぺち。
だが小麦色のゴラピーはルナ王女を叩き続ける。
「マメーはげんきだよっ!」
「そうね、ルナちゃんの魔術を見せてもらいたいわ」
「ピキー!」
「ピー!」
「ピュー!」
だがマメーとウニー、そしてゴラピーたちは外に行かせたいのであった。
食事の後ろに控えていたクーヤがくすくす笑うので、ルナ王女はじとりとした視線をそちらに向ける。
「良いではないですか、殿下。お庭で遊んでいる間に四阿にお茶を用意しておきますよ」
「そう、そうね」
「動いた方がお菓子も美味しいものですよ」
そう言ってマメーの方を見て笑みを浮かべる。
「もっとも、マメーさんのお師匠様ほどの味ではないかもしれませんけども」
「おしろのおかしもおいしーよ!」
マメーはばんざいする。
「それは良うございます」
「きょーは、なにすってん?」
「すってん?」
ウニーが聞き返す。クーヤは笑いながら答えた。
「ケーゼトルテのシュニッテンですね、チーズを使ったものですよ」
チーズタルトを短冊状にカットしたものをおやつに出すと言っているのである。
「チーズのすってん!」
「……すってん」
マメーの滑舌の悪さは幼少期の会話経験の少なさによるものだとウニーも理解しているが、それにしてもこれはどうなのか。魔術儀式には複雑な呪文を正確に詠唱することを求められるものもあるのだ。問題ではないのかなあと思うところである。
「マメー、シュニッテンよシュニッテン」
「すってん」
クーヤが笑う。
「なんでそう短くなるのよ、しゅーにーってーん」
「すーってんてん」
ルナ王女も笑い出し、ウニーも思わず吹き出した。
「マメーはもうそれでいいわ。行きましょ」
「うん! さんぽー、さ、ん、ぽー」
「ピキキー」
「ピーピピー」
「ピュピュー」
マメーと赤黄青のゴラピーたちはご機嫌で両手と葉っぱを振りながら部屋の外へと向かう。そして小麦色のゴラピーの方をじっと見る。
「ピャピャー?」
「ん!」
小麦色のは三匹に手を引かれたりもみくちゃになってころころ転がりながら歩いていく。小麦色のはもともとルナ王女のために生まれてはいるが、ひさしぶりに四匹そろうのは嬉しいのである。
「あ、そうだ!」
マメーがぴょんと小さく跳ねた。
「ルナちゃんもウニーちゃんもありがとね!」
マメーは改めて礼を言う。ルナ王女は軽くお辞儀をし、ウニーはちょっと目を逸らした。
「ええ、どういたしまして」
「私は特に何もしてないけどね……」
ウニーからしてみれば、ブリギット師匠やグラニッピナ師匠の箒の後ろにくっついていただけというだけであり、特にマメーのために役に立てたというつもりはない。
だが、マメーはウニーの手を取った。
「そんなことないよ、ししょーについてってくれたんでしょ」
「グラニッピナ師匠に、私なんかがいてもいなくても手伝いにはならないわよ……」
「ししょーさいきょーだからね! ……そうじゃなくて、それでもいっしょにいてくれたのよかったの!」
マメーからしても、植物の世話に関してはともかく、他のことで師匠の役に立つことなんて無理だと思っている。師匠はなんだって一人でできちゃうのだ。
でも、だからといって一人でやることが、一人でいることが良い訳ではない。そう確信している。実際のところ、ウニーと合流してから師匠は神殿の者たちを殺したり、直接傷つけてはいないのだ。彼女が一緒にいなければ、もっと犠牲者が増えていたかもしれない。
「ピキー!」
「ほら、ひとりはさびしいっていってるよ」
赤いゴラピーは捕まってマメーと離されていたのだ。一人はよくないと、うんうん頷いた。
「そうかしら……いえ、そうよね」
「だからウニーちゃんにもありがとうなの!」
「はいはい、どういたしまして」
「ゴラピーたちもありがとねー」
ゴラピーたちはピキピーピューピャーと鳴いて、わあいと両手をあげたのだった。








