第189話:あ、あれほしい、あれ。
今回の師匠の話は第133話ですね。
杖は166話で使ってたやつです。
「そうさね」
師匠は頷いた。
「ちょっと、魔女のおばあさま、どういうことですの!?」
それに対し、ルナ王女は憤りを見せる。マメーは王女を落ち着かせるように袖をきゅっきゅっと引いて話し出した。
「えっとねー……」
つまりマメーがルナ王女にゴラピーをあげたことである。新種の魔法生物であるゴラピーを渡すということは良くも悪くも注目を集めることであり、それにより発生した神殿の勧誘を突っぱねる力がマメーになかったところまでマメーの責任なのだと。
「ふん、よく覚えてるもんだね」
「マメーはししょーがいったこと、ちゃんとおぼえてるもん」
これは師匠がマメーに教えたことである。そしてマメーは師匠の言葉は忘れないのだ。ちゃんと行動できるかはまた別としても。
ピキピーピューと鳴いて、そうだそうだと赤黄青のゴラピーたちは頷く。
「ピャー?」
一方で小麦色のはその場にいなかったためか、首を傾げるような仕草を見せた。ルナ王女はむむむ、と考える。その考えは厳しすぎるのではないかと思い、はっと気づいた。
「ですが、それを言ったらそもそもわたくしに角が生えたのが悪いのでは?」
「いや、それ言ったら呪いをかけた……のせいだし、そもそもの原因は……のせいでしょ」
ルナ王女の言葉にウニーが思わずつっこみを入れる。宰相やトゥ・ガルーの王子という言葉を濁したのは、イングレッシオや王女の護衛たちがいるからであろう。
師匠は笑う。
「そういうこったね。魔女としてはマメーの反省したことが最も大事なんだよ。だが、姫さんやウニーの言うのも正しいし、今回に関しては魔女協会の不手際もある」
「協会はちゃんと吹っ飛ばしてきたわよ」
「ああ、ありがとうよ」
そう、それ故に、ブリギットは協会を吹き飛ばして反省を促してきたのだ。
師匠はイングレッシオに向き直る。
「だからあんたの言葉は不用意であったが、きっかけではない。いや、きっかけの一つでしかないのさ」
「では愚僧の罪は」
「一つだけかねえ」
「……部下の監督不行届きですね」
師匠は頷いた。組織の長であれば部下が問題を起こした時に何らかの責任を取る必要があるのだ。ただ、先ほどの師匠の言からすれば、辞任や降格ではなく金銭や物品の譲渡、奉仕という形にはなる。
「だからしっかり二人をとっ捕まえるのと、後はそれに応じた程度のものを形にしな。マメー!」
「なあに?」
「なんか欲しいのあるかい」
マメーは、んーと……と考えた。
「ミントさん! ねずみさん! あと、おいも!」
「……何を言ってるんだかわかりゃしないが、もうちょっと金目のものはないのかね。大体そのミントなんざあんたが育てたんだろうに」
攫われたのはマメーなのだから詫びはマメーに払われるべきだという師匠の考えである。だが、そんなもの貰っても詫びにもなんにもならないのでは意味がない。
マメーはむむむーと考え、ぽんと手を打った。
「あ、しろくてながいつえ! あれつかいやすかった! まっすぐでー、さきっぽがとーめーのやつ!」
イングレッシオは悲痛な表情を浮かべて天を仰いだ。
「あいつら、聖遺物まで持ち出して……!」
かつての聖女が扱っていた杖なのであるのだから、当然、聖遺物なのである。神殿の数多ある秘宝の一つとも言えた。
イングレッシオはマメーに頭を下げる。
「申し訳ない。即答はしかねるのですが、検討させていただきます……」
「いーよー」
師匠はまじまじとマメーを見た。
「あんた、そんなもん使って魔術を行使したのかい?」
「つかったよー」
師匠がマメーに杖を渡していないのは、魔力が失敗して暴発した時に、杖により効果が拡大したりするとより危険だからである。
それもおそらくマメーが使ったというのは最上位の杖だ。
「何をした」
「どんどんぴー」
歌って踊ることで植物を成長させたやつである。
「……どうだった?」
「おいもさん、めっちゃげんきになったよ!」
なるほど、芋なんぞ欲しがったのはそれかと師匠は得心する。確かに、なんなら全て買い上げた方が良いかも知れないとも思った。
「まあ、杖の件はともかく、その芋は回収しよう」
「ん」
「じゃあそろそろ行くとするかい」
マメーはこてんと首を傾げた。
「もりにかえるのー?」
「違うさね。城に寄ってく。さすがに色々報告せねばまずかろう?」
ルイスは力強く頷いた。
「是非に」
喜色を浮かべたのはルナ王女とランセイルである。
「まあまあ、マメーちゃん、ゴラピーちゃん。お城に来てくれるの! もちろんウニーちゃんも来てくださいますよね?」
ウニーは自分の師匠に振り返る。ブリギットはゆっくり頷いた。
「お邪魔しようかしらね」
「まあ、素敵だわ。急いで準備させませんと!」
ルナ王女は騎士の一人を呼びつけると、先触れのため城に急ぎ戻らせる。
最後にイングレッシオが改めて師匠に頭を下げた。
「ハンケ司教とミウリー司祭の件、進捗ありましたら王城に報告に向かいます」
「ああ、頼んだよ」
そうして、マメーたち一行はサポロニアンのお城に滞在することになるのであった。








