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【書籍化】マメーとちっこいの 〜 魔女見習いの少女は鉢植えを手にとことこ歩く【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第二章:聖女なんていわれましても

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第186話:ししょーままー!

 師匠は呟く。


「悪くない、悪くないさ。いい覚悟さね」


 師匠は魔女であり、ひねているところもある。それゆえか、自分をただ敬い、言うことに諾とだけ言う人間を好ましいと思わない。

 イングレッシオが魔女グラニッピナに忖度して、ただミウリーとハンケを処刑し、自分を許すと言ったのであれば、それはそれとして受け入れた上で、神殿を見限っていただろう。だが彼は師匠を許した上で、神殿の長としての譲れぬところを提示してきた。

 魔術では決して勝てぬと分かっていてである。それが矜持というものだろう。

 良い。なればこそ、賭け金を釣り上げてやらねばなるまい。

 師匠が杖を突いたところから、魔力のさざなみが聖堂に広がっていく。


「なにが……」


 ルイスがそう呟こうとし、その声が空気を震わせていないことに気づいた。

 異常に慌てそうになるが、ブリギットがちょいと脇腹をつついてきた。

 そちらを見れば、ブリギットもウニーも落ち着いた様子である。

 なるほど、グラニッピナ師の魔術であり、慌てるようなことではないのだろう。ルイスはブリギットに感謝の頭を下げた。

 一方、その術に驚いているイングレッシオに対し、グラニッピナは厳かに宣言する。


「我、大達人階梯グラニッピナは自らと弟子の秘したる名を以てこの〈誓約〉に臨まんとす」


 杖でもう一度床を叩く。先ほどの数倍する魔力が溢れ、その奔流が師匠自身とマメーとイングレッシオの魂を縛った。強力な〈誓約〉の魔術である。


「我グラニッピナ・オプスは弟子たる通名マメー、真名マメニピアナ・シアリーズを我が子として遇し、慈しむことをここに誓う」


 師匠は真の名を開示して誓いの言葉を述べたのだった。〈静寂〉を使ったのは他の者にそれを聞かせぬためである。


「なんと……」


 イングレッシオは思わず驚愕の言葉を漏らす。真の名を開示しての魔術はその効果が倍加する。だが、その名を知られることは魔女にとっての弱点を曝け出すにも等しいのだ。もちろんそれを知られたくらいでイングレッシオがグラニッピナに勝るようなことはないが、それにしても考えられない行動であった。

 師匠はそれには構わず、マメーをちらりと見た。

 マメーは似たような儀式をしたことがあるのを思い出して、師匠にこくりと頷いた。マメーが師匠の弟子になった時、エミリアからマメーになった時のことだ。だから胸に手を当てて、その儀式で覚えさせられた言葉を紡いだ。


「われエミリアはそのふるきなをすて、いまやマメニピアナ・シアリーズである。ただし、しんなるまじょとしてのもん(ポータル)をくぐるそのひまで、マメーとなのる」


 そして息を一つ吸って、誓いの言葉を続けた。


「そして、しであるグラニッピナ・オプスを、ははとしてあいすることをちかう」


 イングレッシオは震える声でそれに続ける。


「我、イングレッシオはその誓いを聞きとどけたり。そして新たなる家族の誕生をここに言祝ことほがん」


 そうしてイングレッシオが祈りを捧げると、比喩ではなく大気が、世界が揺れた。魔女の真名による魔術が世界を揺るがしているのである。そして三人の身体に誓いの魔力が吸い込まれていく。


「ふん、まあこんなとこかい」


 師匠はこともなげにそう言った。マメーは笑みを浮かべる。


「すごかった!」

「ピキー……」

「ピー……」

「ピュー……」


 マメーの肩の上で、ゴラピーたちがびっくりあぜんとした表情を浮かべていた。あまりにも膨大な魔力を間近で受けたからだろう。彼らの頭の上に、虹色の花がぽんぽんぽんと咲いていた。


「これでししょーとマメーはかぞく?」

「元から家族だろうよ」

「ん! ししょーおかーさん!」


 マメーは師匠の身体に抱きついた。師匠は憮然とした表情を浮かべる。


「しまったね、祖母って言っときゃよかった」

「ししょーままー!」


 抱きついて黒いローブに頬擦りしているマメーを適当にあしらいながら、イングレッシオに師匠は言う。


「この名が露見したら……。分かってるね?」

「はい。しかと心に刻みましょう」


 イングレッシオは頷く。自分の命だけでは済むまい。神殿という組織が失われることまであり得るだろう。死んでも公言できない誓いである。

 つまり、これが賭け金を上げるということであった。以前、師匠がルナ王女らにかけた軽い〈誓約〉とはその重みが全く違うものである。それを師匠は自分を含めてかけたのであった。逆に師匠がマメーを愛さなければ、師匠自身の命が消し飛ぶであろう。

 イングレッシオは心を落ち着かせるように数度息をつき、そしてやせ我慢するように笑みを浮かべて言った。


「それにしても、よく似たお名前なのですね」


 グラニッピナとマメニピアナという名の事である。マメーはちょっと唇を尖らせる。


「マメーはマメニッピナがいいっていったのにー、ししょーがちょっとはかえろっていったの」

「それじゃあんまりにも同じすぎだろうに。まあこれで終わりさね」


 師匠は鼻を鳴らしてそう言うと、杖で床を叩いて〈静寂〉の魔術を解除したのだった。

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― 新着の感想 ―
ままーーー!!!!(ブワッ)
ブランチのおにぎりを齧りながらえぐえぐ泣いてしまいました。おっしょ様だいすきすぐる。マメーって長いお名前を縮めた通称だったんですね。「グラニッピナ」のグラニには、麦とかコメとか穀粒のニュアンスが含まれ…
ここ何話か感動の涙が出っぱなしです。 今回も胸の奥がふるえました。 マメニッピナはかわいくて、マメーがかわいくて、 最後は笑顔にさせてもらいました!
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