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【書籍化】マメーとちっこいの 〜 魔女見習いの少女は鉢植えを手にとことこ歩く【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第二章:聖女なんていわれましても

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第183話:ししょー!

「交渉ですか……」


 ウニーは呟いた。今のは良くて恫喝、下手すれば殺人未遂である。だが師匠はそれを鼻で笑う。


「あんたの師匠だってつい先日、魔女協会吹き飛ばしただろ? 同じことさ」


 まあ確かにノックすると言いながら砦一つ吹き飛ばしていたのだ。挨拶がわりに即死魔法とか打ってもおかしくはないのかもしれ……やっぱりおかしくない?

 ウニーは頷きかけて首を傾げた。


「魔女ってのはさ。数が少ないんだよ。それなのに個人主義で、魔女同士だってみんな仲良しってわけじゃあない。だからこそ、その力を、技術を搾取されないようにするには舐められないこと、あるいはきっちり報復することが重要なのさ」


 魔女協会はグラニッピナの報告に対し舐めた対応をしたし、神殿は彼女の弟子を攫うという禁忌を犯した。その報いはしっかり受けさせる必要があるのだ。

 イングレッシオは懐から一枚の羊皮紙を取り出す。それは魔法で保護されていて、戸籍からマメーの一家について記されところを抜き出したものであった。


「なんだい、持っていたのか。準備がいいじゃないか」

「いえ……」


 そもそもがイングレッシオはすぐに渡すつもりだったのである。彼がそれを師匠に手渡すと、彼女はそれにざっと目を通した。そこにはジョン一家の者たちの名が並び、末尾に『ジョンとサリーの子、エミリア。大同盟暦241年、草の露、白く光る頃の生まれ』とあった。


「……そうかい、あの子は秋の生まれだったんだねぇ」


 季節がもう少し巡れば、九つになるということだ。

 師匠はそう呟きながら紙に魔力を通す。インクが床にこぼれ落ち、聖堂のタイルを汚した。

 もはや意味もなくなった紙をイングレッシオに渡す。


「ついでに、マメーがあたしの養子であると記しておいてくれるかい?」

「畏まりました。それと改めて、今回の件は申し訳ありませんでした。愚僧はサポロニアン王国における神殿の責任者として謝罪いたします」


 イングレッシオは頭を下げる。師匠はひらひらと手を振った。


「ま、謝罪は受けようじゃないか。あんたが指示したのでもなきゃ犯人でもないってことは聞いているからね」


 グラニッピナ師匠はどこからそれを聞いたのだろう? とウニーは思うが、ブリギット師匠との間でなんらかの情報をやりとりしていたのだろうと思い至る。使い魔を預けていたのか〈精神感応〉の類の魔術を使っていたのか。だがそれなら。


「それならいきなり攻撃する必要はなかったんじゃ?」


 イングレッシオも全くその通りだと思う。危うく死にかけたのだ。


「いいかい、ウニー」


 師匠は杖の先でイングレッシオの純白の髪を指し示した。


「マメーなんかもそうだが、独特の色を有した術者がいたら決して油断しちゃあいけないよ。ありゃあ四つ星はある」

「っ……!」


 イングレッシオは容易く見抜かれたことに驚愕する。彼も幼い頃に魔女協会から勧誘を受けたこともある。神殿に属していたのでそれは断ったのだが。


「だからまあ、即死魔術の一発くらいぶつけたってなんとかするだろうし、少しは消耗させとかないとね。そこから話に入る方が、相手が素直になって楽なのさ」


 結局のところ師匠の話はそこに戻るのであった。


「ちょっと、うちの弟子に変なこと教えないでくれる?」


 聖堂の外から女性の声が響いた。そしてただちに風が巻き起こり、局所的な豪雨が王都聖堂の屋根を叩いた。聖堂の入り口でグラニッピナが起こした爆発による火が鎮火すると風雨は止み、箒に乗った魔女が滑るように聖堂の中に入ってきた。


「あ、師匠」

「はぁい」


 ブリギットである。彼女はウニーの横まで箒をつけると、するりと床に降り立った。

 そしてまだ煙の燻る地面に、ばさりと一頭のグリフィンが舞い降りる。もちろんそれはオースチンとルイスであり、そして……。


「ししょー!」

「ピキー!」

「ピー!」

「ピュー!」


 マメーとゴラピーたちであった。グリフィンの上からぶんぶんと手を振っている。ゴラピーを抱えたマメーがルイスの手によりグリフィンから地面に降ろされると、焼け落ちた門をくぐり、聖堂の長く荘厳な身廊をとことこと走ってくる。


「ししょーししょー!」


 マメーは師匠の名を連呼しながら走る。

 ウニーとイングレッシオは、師匠の纏う雰囲気が、あるいは魔力が一気に柔らかくなるのを感じた。マメーが師匠の前にたどり着く。


「ししょー!」

「ふん、元気そうだね」


 師匠は鼻を鳴らす。


「ししょー、あのね、あのね……!」


 マメーはゴラピーを片手で抱えてもう片方の手をぶんぶんと振りながら、この数日に何があったのか説明しようとするが、それは言葉にならなかった。

 マメーの頭に、師匠は片手を置いた。緑色の髪を、乾いた手がゆっくりと優しく撫でる。


「よしよし、よう頑張った」


 マメーの琥珀色の瞳が揺れ、涙に盛り上がる。


「じじょー! うぇーん!」


 マメーは師匠に抱きつき、わんわんと大きな泣き声をあげるのだった。

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― 新着の感想 ―
追いついたー! 楽しく読ませていただいています!! マメーちゃん、師匠に会えてよかった!!
師匠に会うまでずっと我慢してたんですねえ
よかったよかった! やっとおっしょさんと再会できてよかったよ~ぅ♪
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