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【書籍化】マメーとちっこいの 〜 魔女見習いの少女は鉢植えを手にとことこ歩く【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第二章:聖女なんていわれましても

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第169話:ルナ王女は神殿に向かう。2

「ルナよ」


 国王、ドーネット9世が娘を呼び止めた。


「はい、お父様」


 彼は、椅子の上で、心を落ち着かせるように指でとんとんと、肘掛けを叩いた。そして父子としてではなく、国王としての口調で王女に告げる。


「お主は魔女グラニッピナ殿に恩を感じ、その弟子マメーにも恩と親しみを感じているな」

「ええ、もちろんですわ」

「無論、余も、お主の母も兄姉もみなそうである」


 母たる王妃はそれに頷いた。ルイスもまた頷きを返す。国王は続ける。


「だがその上で言おう。神殿に完全に敵対してはならない。それが分からぬのであれば、ルナよ。お主を行かせるわけにはいかぬ」


 ルナ王女は鼻白んだ。だが、ちらりと視線を横にやれば、母もまた僅かに頷いてみせる。


「むー……」


 ルナ王女は言葉の意味を考えた。国家と宗教が完全に敵対するのは良くないことだ。国民の多くが神殿の信徒であるのだから。そしてそもそも、国の方針を動かすようなことは自分のような娘が決めて良いことではない。当たり前のことであるが、それは王や宰相、官僚たちの仕事である。


「……陛下は、わたくしが神殿に向かうのを反対されますか?」

「いや、そうではないぞ。それはむしろ妙手だと思っておる」


 つまり、国王自らが神殿に向かったり逆に枢機卿を呼び出したりすれば、『何かあった』ことが誰から見ても明らかである。マメーが攫われたことは秘すべきであるから、役人などを向かわせるにも向かない。しかしルナ王女であれば、先日の〈鑑定〉の謝礼の為などということもできよう。そのようなことをドーネット王は説明した。

 ルナ王女はそれに頷き、理解を示す。そしてちらりとブリギットの方に視線をやった。彼女は話にはあまり興味がない様子で紅茶を口にしている。


「マメーちゃんを攫った神殿に対して強く抗議しないことは、魔女様方のご不興を買うことになりませんか?」

「……魔女殿たちは賢き方々であるから、国家の立場というものをご理解いただけるであろう」


 王もまたブリギットに視線を走らせる。


「むろん、水面下では余からしっかり圧力をかけるとも」

「王様も、王女ちゃんも、そんなに気を使わなくても大丈夫よぅ」


 くすくすとブリギットは笑いながら言う。


「魔女、それも達人階級以上の魔女ってのはね。本当にすごい力を持ってるのよ。あなたたちを侮っている気はないけど、それこそ個人でも国を落とせるようなね」


 突然の話にルナ王女はきょとんとするが、国王はうむ、と頷いて言葉を返す。


「ブリギットという魔女について調べさせていただいたが」

「あら」

「ブリギット"山崩し"」


 王の言葉にブリギットは顔をしかめた。


「古い言い方ね。若い頃の二つ名よ。ま、今も若いですけどー」

「山、崩し?」


 ルナ王女が尋ね、王が答える。


「徒弟時代に魔術で山を一つ吹き飛ばした故の名だそうだ。してブリギット殿は、それだけの力があるから助力は不要と?」

「いいえ。どれだけの力があっても、できないことなんていくらでもあるわ。魔女は国を倒す力があっても、国を運営する力は持ちえないの」


 それは魔女が国家と距離を置いている理由の一つでもある。国家が運用するには危険すぎる力であり、また彼女たちの力は政には向かない。そして何より組織を運用するには魔女の数が少なすぎるのだ。サポロニアン王国に魔女は現在、片手で数えられる程しかいないのである。

 ブリギットは続ける。


「魔術の力でなんでもできるわけじゃないけど、魔女ってのはその力の責任を自分で負わなきゃいけない。それが魔女のルールなのよ」

「自己責任……」


 ルナ王女の呟きにブリギットは頷く。それは師匠がマメーに、ブリギットがウニーにいつも教えていることでもある。言葉で、そして行動で。彼女たちもまたいつかは独り立ちすることになるのだから。


「でも責任と言っても……マメーはまだ幼い子供ですわ」

「そ。だから責任は師匠である大達人グラニッピナが負うことになるのさ」


 だからこそグラニッピナは自らの手でマメーを取り戻そうとする。それによってどれだけ神殿と敵対することになろうともだ。それが彼女なりの責任の取り方であり、取らせ方なのだろう。


「ブリギット様」

「なんだい?」

「でもそれなら、マメーちゃんが攫われたことをわたくしたちに伝える必要もない。違いますか? 魔女は手助けを求めない。それでも、わたくしたちが手を差し伸べることは拒みはしないでしょう?」


 ブリギットが笑みを浮かべた。

 グラニッピナが独自に解決しようとすれば、それは彼女か神殿のどちらか一方が滅びるまで戦うことになるだろう。そしてそこまでは彼女だって求めてはいないはずである。

 つまりサポロニアン王国が組織として圧力をかけることと、どこで手打ちにするか介入して欲しいという気持ちはあるはずなのだ。


「お父様、改めて。わたくしは神殿に行ってまいりますわ」

「うむ」


 今度こそ王はそれをとどめなかった。


「陛下、私も王女殿下の護衛として帯同することをお許しください」

「不才も、汚名を雪ぐ機会を……」


 ルイスとランセイルも頭を下げる。


「ピャ!」

「ええっ」

「ピャ! ピャー!」


 そして小麦色のゴラピーもまた、籠の中で一緒に行くと言い張ったのであった。

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― 新着の感想 ―
うおおお、いっけえええ!!!!
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