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【書籍化】マメーとちっこいの 〜 魔女見習いの少女は鉢植えを手にとことこ歩く【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第二章:聖女なんていわれましても

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第159話:師匠は二年前を思い起こす②

 森の魔女は抱えた幼子に〈浄化〉と〈体力賦活〉の魔術だけをかけた。

 おそらく、栄養失調とそれからくる病の類を得ているだろう。着ているぼろをめくれば、肌には折檻されたであろう痕が残っていた。

 〈治癒〉や〈病気治療〉の魔術をかけようとすると、あれは術をかけられた側が肉体を変化させられるため、多少なりとも体力を消耗するのである。今のこの娘にはそれが耐えられるかわからなかったため、それだけかけて自分の小屋に連れて行き、居間にベッドを運んでそこに放り込んだのだった。


『あんたら、お手柄だったね』

『バウ』

『ワフ』


 魔女は使い魔の狼たちを撫でる。狼たちは尻尾を振りながら小さく吠えた。寝ている少女に遠慮したのかもしれない。


『肉でも食うかい?』


 尻尾の振り方が大きくなった。狼たちは魔女の主の出した肉に食らいつき、平らげると森の中に戻って行った。

 意識を失ったかのように身動きひとつしなかった少女は、狼たちもいなくなったその数時間後にううんと声を漏らした。


『目を覚ましたか』


 少女は自分の体の上にある布団を訝しげに見て、ふわふわと叩いた。そして鼻をすぴすぴと動かした。

 良い香りが部屋には漂っている。


『身体は起こせるかね? 飲みな』


 魔女は少女の背中を支えて起こすと、ぽかぽかと湯気の立つ液体の入った木製のマグカップを手渡した。グロッグである。はちみつとレモンをラム酒に入れてホットミルクで割ったものだ。もちろん、アルコールは完全にとばしてある。そこにポーションを一滴。


『あーたか』

『ああ、温かいうちにね』


 少女はふうふうしながらゆっくりと大切そうにグロッグを舐めるように飲む。


『まぃ』

『ああ、甘くしてあるさね。飲みやすいだろう?』


 少女はこくこくと頭を縦に振った。

 魔女は一度キッチンに向かう。美味しそうな匂いが少女の食欲をそそった。どうやら調理をしているらしい魔女は、戻ってくると少女の手の中のグロッグがもう残っていないのを確認し、何気なく手を伸ばした。

 しかしその動きに少女は過敏に反応した。


『ひっ』


 からり、と床に木のカップが落ちて音を立てた。

 少女は頭を、緑の髪を隠すように頭を両の手で隠していた。魔女はそっとため息をつくと、少女を刺激しないようにゆっくりと手を戻す。


『すまなかったね』


 魔女は二歩後ろに下がり、揺り椅子に腰を下ろした。

 目の高さに手があるのを恐れるのは、家族などに日常的に叩かれていたからだ。髪を隠したのは、間違いなくそれが忌み嫌われていたからだ。


『……ごめっ』

『謝るこたぁない。綺麗な緑の髪じゃあないか』


 少女の瞳に不安と疑問があらわれる。

 そりゃあそんなことを言われたのは初めてだろうね。と魔女は思う。人間は異質な物を嫌い、恐れる。彼女がこの色の髪で生まれたとして、何があったか想像することは難くない。

 だが、その髪の色は、特異であることは魔女としては最上の資質なのだ。

 魔女は自分の白髪を摘んで言った。


『あたしだってね。若い頃は虹色の髪をしていたものさ。今じゃ確かめようもないがね』


 少女の瞳が驚きに丸くなる。


『あんたどうするね。とりあえず拾っちまったからね。治るまではここにいて良いが、その後さ』


 少女は答えない。答えようもないと言うべきか。魔女は続けた。


『元いた場所に送り返してやってもいいし、どこか別の場所に連れて行ってやってもいい』


 少女はその最初の言葉を聞いただけで、強く拒絶の反応を示して頭をぶんぶんと振った。


『それか、ここで魔女の弟子になるかだ』


 ぴたりと、動きが止まる。


『まょのし……まぉなぃ』

『魔法を使えないって? はっ、そりゃ勉強もしないで魔術が使えるもんかね』


 魔女はそう言いながら手の中でどんぐりを転がした。先ほど落ちてきたものだ。

 そうは言ったが、この少女は間違いなく既に使える。大地か植物に関する強い適性があるのだろうと思う。彼女は村で何らかの魔術的な効果を発現させ、それもあって気味が悪いと思われ捨てられたのかもしれない。


『っえぅよー、なぅ?』

『そりゃなるさ。あたしゃこう見えてもちったぁ名の知れた魔女だからね』

『ぇみりゃ』

『……名前か。エミリアね。だが、魔女の弟子になるってことは、今までの家族も、名前も、過去を全部を捨てなきゃならないんだよ』


 そう魔女が言った時、エミリアという少女は顔を輝かせた。つまり彼女は過去に良かったことが無いといっているのだ。


『まょ……なぅ!』

『そうかい、じゃあこれからあたしのことは師匠って呼びな』

『ししょー!』

『よし、じゃあ師匠命令さね。まずは今から出す食事をしっかり食べな』

『たべぅ!』


 その時出したのはパンケーキだった。病人用に、柔らかくて薄い味にしたやつだったが、それをぼろぼろと泣きながら美味いと言って必死に頬張っていた。そんなことを師匠は思いだしたのだった。


「なあ、ジョンよ。サリーよ。あるいはその子供たちよ。お前たちはマメー、エミリアの好物を知っているか?」


 ジョンとサリーは魔女の突然の言葉に顔を見合わせた。


「知るはずもないさねぇ?」


 ダン、と師匠は杖を床について一喝した。


「そんなのが、あの子の親だなんてね! おこがましいんだよ!」

ξ˚⊿˚)ξ明日は更新お休みします。今週は火曜日休んじゃったから、その分日曜日はUPしますね。


来週も火曜日、12日は更新を休むかもです。

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― 新着の感想 ―
うぉぉぉししょー!ししょーかっけえ!!! マメーちゃん、思った以上に酷い扱い受けてた(´;ω;`) どの口で親だと?これはもうギルティもギルティですわ そんなんが村長とか、もうこの村潰れてまえー
おっしょさま、だいすき~! 「ししょー」だけはちゃんと発音できるマメーに滂沱。
やっぱり最初のご飯はパンケーキでしたか…。 落ちてきたどんぐりに何か効能はあったんでしょうか。
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