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【書籍化】マメーとちっこいの 〜 魔女見習いの少女は鉢植えを手にとことこ歩く【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第二章:聖女なんていわれましても

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第153話:ローブはとってもおたかいのです。

「お屋敷が建っちゃうんですか!」

「たっちゃうの」

「……え、ご冗談ですよね?」

「マメーうそつかないよー」


 ナンディアが驚愕し、マメーは浴槽の中で、身体をあわあわにしながら答えた。

 高位貴族の令嬢が着るドレスは確かに服一着で屋敷が立つようなものがあるのは事実である。だがそれは服に宝石を縫いつけたり、遠い異国の布や鮮やかな鳥の羽根といった素材を使うことがあるためである。

 このローブは確かに丈夫そうではあるし、良くみれば縫製も非常にしっかりしているし、葉っぱのような紋様など刺繍も施されている。だが枯葉や土を思わせるような色合いの、地味なローブにそれほどまでの価値があるとはナンディアには思えなかった。


「まじょのローブってのはそれだけのかちがあるんだよーって、ブリギットししょーがいってた」


 実のところこの世界における最高の服とは魔女の手によるものなのだ。そもそも百年前に西方の魔女によって立ち上げられた、スペンサー社が織るシルクスパイダーの布が最も美しく、最も魔力を通しやすい生地だからである。

 そこに魔女たちが布に幾重にも付与魔術をかけていくのである。例えばマメーのこのローブ、火にくべても燃えず、剣で斬りつけられても裂けることはない。


「わ、わかりました。こちらはハンガーにかけておきますね」

「んー」


 ナンディアはローブを抱えてぱたぱたと浴室から出ていった。

 彼女はそのようなものを子供用のローブにするなんてと思っている。このローブにはマメーが成長した時のために折り返しが多めに取られているし、サイズ調整の魔術も付与されている。

 だが、それだって限度はあり、成人まで着られるほどではない。

 ちなみにこのローブをマメーが師匠からもらったのは、拾われてから二年が経った頃だった。その時、師匠はいつものようにこう言ったのだ。


「ほれ、寒くなってきたし、今日からこれでも羽織ってな」

「はーい。わ、ししょーみたいなローブ! おそろい?」


 そのやりとりを見ていたブリギットは笑い転げて言ったのだった。


「ちょっと、お婆ちゃん? まだ七歳の子にスペンサー・ローブあげちゃうの!?」

「うるさいねえ、布が余ってただけさね」


 ちなみにブリギットの弟子のウニーには既にローブを与えているし、それも上等な品ではあるがここまでのものではない。見習いを卒業、独り立ちする時に渡すためにスペンサー・ローブの生地は確保しているのだが。

 大金を積んでも手に入らないような逸品が余っていると言えるのは、まさにグラニッピナならではの台詞であった。恐らくは貴重な魔法薬作成の対価として渡されたものであろう。

 だからと言って、それをその価値を説明することすらなく拾い子にあげるとは! 姉弟子がどれだけマメーを気に入っているのだという話であり、それ故にブリギットは笑い転げたのだった。


「……むうん」


 マメーはその時のことを思い出して浴室で唸った。

 身体をお湯の中に沈め、ふーっと泡を吹き飛ばす。虹色の膜のかかった、白い雲が飛んでいった。

 結局、あの時はブリギット師匠がそのローブの価値を説明してくれたのだ。そしてローブを与える意味、マメーを魔女の弟子として師匠が認めた証であるとも。

 マメーは師匠に抱きついたが、師匠はふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いただけだった。ブリギット師匠はそれを見て、また笑い転げたのだった。


「なつかしい」


 マメーは呟く。


「ししょーどーしてるだろー……」


 その師匠が神殿騎士二名を黒魔術で殺害し、そのまま死と破壊を撒き散らしながらマメーを追おうとしたのを、ランセイルが止めた。それをマメーが知ることはない。

 師匠のことを思うと涙が出そうになるが、マメーはばしゃばしゃと顔を洗って、泣いてないことにした。


「てきちで、よわみをみせちゃだめ」


 師匠が言っていたのだ。敵の多い魔女ならではの教えであった。

 マメーはざばりとお湯から出て、泡を落とした。ナンディアが柔らかい布でマメーの身体を拭ってくれ、そして着替えさせられたのであるが……。


「……しろい」

「ええ」

「なんかきらきらしてる」

「銀糸が縫い込まれてますので」


 マメーが着せられたのは純白に銀糸で縁取りされた、子供サイズの法衣であった。


「ミウリーみたい」


 ぷっとナンディアが吹き出した。


「ミウリー司祭」

「ミウリーしさい」

「マメーさんは聖女候補ですので、銀の法衣を着ていただきます」

「うー」


 着心地は決して悪くはないが、なぜか非常に落ち着かない。

 マメーはばさばさと法衣の裾を蹴り上げたが、ナンディアにぽんぽんと優しく叩かれて落ち着かされた。


「さあ、お食事にいたしましょうね」

「……ゴラピーは?」

「ゴラピーとはなんでしょう?」

「マメーのつかいまだけど、ミウリーにつれてかれちゃった」


 マメーはしょんもりする。


「ミウリー司祭」

「ミウリーしさい」

「ではお食事中に聞いてまいりますね」

「はぁい」


 テーブルには別の修道女により食事が準備されていて、マメーが椅子に座るとナンディアは一礼して部屋から出ていった。

 扉がぱたんと閉まったところでマメーは椅子から降りてベッドの前で膝をつき、顔を床につけて呼ぶ。


「ゴラピー!」

「ピー!」

「ピュー!」


 黄色いのと青いのがてちてちベッドの下から出てきた。

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― 新着の感想 ―
ミウリーは呼び捨てでいいよ!
スペンサー社キターーー!!!!(大歓喜)
こういうときに使わずして何のための権力だーーー そもそも聖女バレしたのは協会の怠慢と王女の嫁入りストライキのせいでしょーにーーー
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