第150話:あかいのがつれてかれちゃいました。
「むむむー」
マメーは唸る。
馬車に揺られながらマメーは考えているのである。とりあえずドロテアに関してはちょっとでもマメーに対する感謝の気持ちがあって、攻撃してこないというのならば気にする必要はなさそうだ。
ともあれ、さっきの転移が血縁の元に跳ぶ魔術というのであれば、神殿はドロテアを放り出したりはしないと考えられる。マメーが逃げ出した時に、ドロテアを利用することでマメーの元に転移できるためだ。
つまり、マメーがミウリーや神殿の者たちの隙をついて、逃げ出しても無駄ということになる。マメーはそこまで考え、ぽつりと言葉が漏れた。
「こまる……」
「ピュ〜」
マメーはしょんもりし、背中でゴラピーが慰めるように鳴いた。
じっとドロテアの琥珀の瞳がマメーに向けられている。マメーが同じ色の瞳で見返すと、ふっと鼻で笑うような仕草と共に視線が逸らされる。
「司祭様? 少々宜しいですか?」
そしてミウリーに呼びかけた。彼は消費していた魔力を回復させるべく、黙って目を閉じて身体を休めていたので、億劫そうに口を開く。
「何かね?」
「エミリアは使い魔を有していますが取り上げなくて大丈夫ですか?」
「ねーちゃ、ひどい!」
感謝の気持ちがあると言いながらこれである。マメーはぷんすこと頬を膨らませた。
「ふむ?」
ミウリーは身を起こした。
彼は高位魔術を行使するために意識がそちらに割かれていたために、あまりマメーを注視していなかったが、言われてみれば彼女も魔女見習いなのである。
彼女自身の使い魔や、あるいは師であるグラニッピナに使い魔を忍ばされていては不都合であった。
「……〈魔力探知〉」
ミウリーには彼女自身の魔力に加え、彼女の着ている茶色いローブからも魔力を感じた。これはローブに何らかの守護の魔術が付与されているためであろう。そしてそのローブのフードから小さな魔力を確かに感じる。
そういえば先ほど森の中で、彼女がジョンを植物の蔦で拘束していたが、あれはローブのフードから発せられていなかったか。
「その背中に隠しているものを出したまえ」
むむー、とマメーが唸っていると、赤いゴラピーがよじよじとフードから這い出してきてマメーの肩の上に立った。
「ピキ!」
そして元気良く鳴いた。
ドロテアが、うへぇと顔をしかめる。そう言えば前回、王都から戻ってきた時、ドロテアの言葉に怒って姿を現したのも赤いのだった。
「ふむ、見たことない生き物だな」
ミウリーが手を伸ばした。マメーがのけぞる。
だが赤いゴラピーは逆にマメーの肩から前に向かおうとし、マメーは慌ててそれを下から手で支えた。ちょうどゴラピーをミウリーに差し出すような形となる。
ミウリーの太い指がゴラピーを摘み上げた。
「ひどいことしちゃ、めーよ」
ミウリーは視線の高さにゴラピーを持ち上げてじっとそれを見る。赤いにんじんにちっちゃな手足が生えたようような、妙な生き物である。
「ピキー」
じたばたして何やら鳴き声をあげているが……。
「さきほどジョンを拘束した蔦はこの使い魔によるものか?」
その言葉を聞いて、ドロテアはびくりと身体を震わせ、マメーを睨んだ。彼女はそれを見ていないのだ。
「とーちゃがいきなりマメーのうでをつかんだから、ゴラピーがたすけてくれようとしたの。そう、このこはゴラピー。マメーのつかいま」
「植物……だな?」
じたばた動いているし、目も手足もあるし鳴き声もあげているが、頭からは二枚の葉っぱが飛び出ている。蔦を伸ばしたのもこの使い魔であるというなら、動く植物なのだろう。
植物の魔物といえば、樹人とも言われるトレントや、妖花アルラウネなどが有名であるが、これは見たことも聞いたこともない。
とはいえ、魔物の種類などは膨大であり、またその全てを人類が知っているというわけでもあるまい。辺境にはこのような魔物も出没するのかもしれないとミウリーは思った。
「そーだよ、しょくぶつのつかいま」
ミウリーはマメーが植物の魔物を手懐けて使い魔としているのだろうと考えた。
「これは……あずかっておく」
「ピキー!」
つまり、人質である。
「……まいにちマメーがまりょくをあげないといけないの」
「会わせる時間は取らせよう」
「ピキ! ピキー!」
赤いゴラピーが抵抗するように鳴く。
だが、それはゴラピーの演技なのだ。マメーにはちゃんとわかっている。
聖女の能力として豊穣がある。つまりゴラピーはその能力の一端なのだ。神殿はそれを粗略に扱うことができない。
「ぜったい、まいにちあわせてね」
マメーもしょんもりしてみせるように言った。
赤いゴラピーが自分から前に出ていった理由。彼は自分が前に出ることで、マメーを、そして黄色いのと青いのを守ろうとしているのだ。そして黄色いのと青いのはマメーにこっそりくっついていることでマメーを守ろうとしている。だから今、マメーの背中で黄色いのと青いのは動かず、魔力も発さないようひっそりと隠れていて、赤いのが鳴いて自分に注目を集めさせているのだ。
「約束しよう」
こうして、移動すること半日。馬車はどこか知らない町につき、そこの立派な神殿の前でマメーたちはおろされたのだった。
150話ってことはおおむね30万字ですよ。
やばーい。
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