第141話:ひかりのまじゅちゅをつかいます!
マメーたちは小屋に戻り、卓に着いた。ゴラピーたちはいつも通り卓の上にのせられる。黄色いのはしばらくマメーにひっついていたが、ゆっくりと離れていく。
「ピキ」
「ピュ」
赤いのと青いのは黄色いのに謝罪するように鳴き、黄色いのは大丈夫というように頷いた。
師匠は手を組んで、ランセイルを見つめた。
「なんでしょうか」
ランセイルが身じろぎし、師匠ははぁとため息をついた。
「いや、マメーの秘密を知らせるのはどうしたものかなと思ってな」
「席を外すべきでしょうか?」
師匠はなんとかしてこの魔術師に〈誓約〉をかけて口外できないようにさせるべきではないかと考えていたのだが、まあいいか、と諦めた。
「今更さね。マメーが秘密を開示することを選んだのだから、ばばあがとやかく言うことでもあるまいか。……マメー、まずはこれを飲みな」
師匠は卓上に小さな瓶を置いた。マメーはうへっと顔をしかめる。
「ぽーよん……なんで?」
魔力ポーションである。飲めば魔力を回復する飲み薬であった。
「あんた今、外ででかい魔力使ったばかりだろう。その状態で新しい魔術なんぞ覚えさせるものかね」
師匠の薬は超効く。だが全然美味しくない。魔法薬の勉強で色々舐めさせられたことがあるから知っているのだ。
飲みたくないなー、これなら魔力が自然に回復するのを待って、明日やれば良くないかなーとマメーは思う。だが、卓上で不安げにこちらを見上げている黄色いゴラピーが視界に入った。
マメーはゴラピーに向けて笑みを浮かべると、蓋をあけて一気に薬を呷る。マメーの顔がきゅっとした。
「しぶーい……」
だが効果はすぐに現れ、マメーのお腹のあたりがぽかぽかして魔力が身体に満ちてくるのが分かった。
「口ゆすいどいで。ついでに窓を閉めてきな」
「はーい」
とてとてとマメーがキッチンに走り、くちゅくちゅと口をすすぐ。そして戻りに窓の木板を閉めていって、部屋は暗がりに包まれた。もちろん真っ暗ではない。キッチンの小窓からは光が入ってくるし、扉や板の隙間からも光が漏れている。
「ピュー?」
ゴラピーたちはなんで暗くしちゃうの? とでも言うように首を傾げた。
「これから〈光〉の魔術を指導するからね。まあ暗い方が魔術がちゃんと発動してるかわかりやすかろ」
「ピッ!」
黄色いのが手をあげて元気よく鳴いた。
「はいはい」
師匠がそう返し、マメーがくすくす笑いながら席に戻る。
「ししょーがゴラピーたちとおはなししてるみたいでおもしろかった。『よろしくおねがいします!』だって」
ふん、と師匠は鼻を鳴らす。ゴラピーたちの鳴き声の意味はわからないが、ジェスチャーや声のトーンで、なんとなく言いたいことが師匠にも感じられるようになっているのである。
「んで? マメーあんた〈光〉の術の使い方は覚えたんだろうね?」
「んー……、たぶん」
「先日、外でマメー殿が術式の自習をされているのを見かけましたが、要点は掴んでいるように感じられました」
マメーが地面に描いていたものを思い出し、ランセイルが口を挟んだ。
「そうかい。……〈光〉よ」
師匠は指先に小さな黄色い光を灯してふわふわと宙に浮かせた。
マメーたちの顔が照らされ、ゴラピーたちもそれを見上げる。師匠はマメーに彼女の短杖を差し出した。
「やってみな」
「ん」
師匠がそう言い、マメーは特に気負うこともなくそれを受け取る。
「ゴラピー、いくよ」
「ピ!」
黄色いのが答える。むしろこちらの方が緊張しているようにも見えた。
「〈ひかーりー〉!」
マメーは杖を前に振りながら元気よく魔術を唱える。〈光〉は今師匠が見せたように、基本的には指先や手のひらの上、杖の先などに光を灯し、それを宙に浮かせる魔術である。
詠唱は何の問題もなく、魔力を感知している師匠もランセイルもマメーの身体でしっかり魔力が練られて杖の先に集まるのを知覚した。普通ならここで点灯する。そう思ったところで、その魔力が杖の先から黄色いゴラピーに吸い込まれてゆくことも。
「……ピッ?」
黄色いのが首を傾げる。そして一拍遅れて、その頭上に咲いている白い花が、それと同じ白い光を優しく放った。
「ひかったよ!」
「ピー!」
わあいと黄色いのが両手を広げて飛び跳ね、赤いのと青いのがそれに抱きつきにいった。
「ピキー!」
「ピュー!」
三匹は卓上でわちゃわちゃとひとかたまりになり、マメーは杖を下ろしてえへへと笑って言った。
「よかったねえ」
師匠は流石にもう慣れたのか、諦観をにじませて頷いた。
「はいよ、これで〈光〉は成功さね。後は何度か練習して確実につけたり消したりできるようにすりゃ定着したと言えるだろうね」
「うん!」
「ピー!」
「ゴラピーもししょーありがとうって」
「はいはい」
師匠とマメーは会話する。その横でランセイルは唖然と呟いた。
「何だこれ……」








