第140話:きいろいのがピーっとなきました。
ξ˚⊿˚)ξお疲れ様です。『朱太后秘録』発売されました。読んでいただけましたでしょうか!
この連休のおともにぜひー。
さて、マメーの更新ですが、ちと今週末ですね。
ちょっと書籍やらコミカライズやらの関連で作業するので執筆の時間があまり取れなそうなんですね。
なので、12・13と更新はお休みします。次回は14日の昼に更新予定です。
よろしくお願いいたします。
「ピキ」
赤いゴラピーが抱っこをせがむようにマメーに向けて両手を広げて鳴いた。
「んー? はい」
マメーが抱き上げると、赤いのはそのままマメーの胸から肩へとよじ登り、そしてフードの中に入る。
そしてなにやらごそごそしていたかと思うと、再び出てきてマメーのローブを掴んでよじよじと降り始めた。
「なになに、どうしたの?」
マメーのローブをつたって地面に降りた赤いゴラピーは、その手に羽根を持っていた。ルイスの乗騎、オースチンの風切羽である。
「ピキー!」
赤いのは剣を掲げるように、羽根を天に突き上げてふりふりと振った。
「ピュー!」
青いのは葉っぱを頭にのせてくるりと回った。
「ピー……」
黄色いのはしょぼんとした。黄色いゴラピーだけ何かもらってないのだ。
「ピーッ!」
黄色いゴラピーがマメーの脚に抱きついてきた。
「あらあら」
「ピー! ピー!」
がくがくとマメーのブーツを揺する。
「ええっと……ゴラピーがもらったオパール、マメーがあずかってるけど、あなたがもつ?」
前に花の蜜の対価として、ゴラピーたちが師匠から貰ったオパールのことである。ゴラピーたちはそれをマメーに渡したが、ゴラピーが持つかと言ったのだ。だが黄色いのは首をぶんぶんと横に振った。
「ピ〜〜!」
「……そっか、ダメかぁ」
ゴラピーたちはマメーにあげたのだから、それをゴラピーに返すのはダメだと言うのである。
「ピキー……」
「ピュー……」
赤いのと青いのは自分の身体の後ろに羽根と葉っぱを隠した。そしてどこか気まずそうに鳴く。黄色いゴラピーに悪いことをしたと思っているのかもしれない。
黄色いのはマメーに抱きついたまま、悲しそうな声でピーと鳴いた。自分一人だけなにか素敵なものを貰っていないのと、自分だけ魔術もまだだと言ったのだった。マメーは黄色いのを持ち上げると、胸に抱きかかえた。
「ししょー、きいろいゴラピーがね……」
「なにさね」
師匠から何か黄色いのに渡してもらうというのも考えたが、それも何かが違う気がする。多分ランセイルに頼んだってそうだ。マメーが頼んであげたのでは、きっと黄色いのは納得しないとマメーは思った。
マメーは黄色いのを撫でながら見下ろして、今度はランセイルを見上げた。
「なんでしょう?」
「ランセイル、ひみつね」
マメーは真面目な顔をして、しーっ、と人差し指を唇に当てた。
「ふむ? まあ賢人殿がそう仰るのであれば」
ランセイルも表情は変えることなく唇に指を置いた。マメーはそれに頷きを返すと、改めて師匠の方を向く。
「ししょー、きいろいゴラピーがね。ぼくも、まほーつかいたいって」
げふ、とランセイルが咳き込んだ。
はぁ、と師匠はため息をつく。杖でこつこつと地面を何度か叩き、何を言うかしばし考えてから口を開いた。
「マメー、それが秘密であると自分で気づけたのは良いことさね」
「うん」
この前は秘密にすべき魔力の実のことをついぽろりと言ってしまったのだ。今回はちゃんと言って良いか考えてから言っているのだ。それは進歩であるから評価してやらねばと師匠は思った。
「ランセイルに口止めしようとしたことも良いさ。だがね、もう少し慎重にすべきことだろう。あたしゃこいつが帰るまで、あんたに新しい魔術を使わせる気はなかったんだがね」
マメーの魔術、あるいは才能は遅かれ早かれ世に知られることとなる。だがそれは少しでも遅く、限られた範囲の中であれば良いと師匠は思っているのである。
例えば師匠とマメーが魔女の界隈とも俗世との繋がりも完全に絶って、森の中に籠るなら話は別かもしれない。だがそこにマメーの幸せがあるとも思えないのだ。
マメーはランセイルを見上げる。琥珀色の瞳が真っ直ぐにランセイルを見つめた。
「ランセイルならだいじょーぶ」
「幼き賢人マメーよ。あまり人を無条件に信用すべきでは……」
マメーは首を振った。
「むじょーけんちがう。ランセイルならだいじょぶ。……それともひみついっちゃう?」
「いえ、言いませんとも」
「ならいい」
師匠とランセイルは揃ってため息をついた。
まあ、マメーは元の家族との間の関係が悪かったし、人を疑うことを知らないという訳でもない。だが、好意的に接してくる人間に対して、警戒が緩すぎるねぇと師匠は思った。
ランセイルが問う。
「グラニッピナ師よ」
「何さね」
「赤いゴラピーと青いゴラピーは既に魔術の使用が可能であり、黄色いゴラピーはまだである。そういう認識で宜しいでしょうか?」
ここまでの会話からランセイルはそう推察した。だが師匠とマメーはそれを否定した。
「いや、違う」
「あのね、マメーのまほーがゴラピーからでるの」
「は?」
ランセイルが固まった。師匠はマメーの尻をぼすんと叩き、踵を返して小屋へと向かう。
「仕方ない、とっととやるよ!」
「はーい!」
マメーはとてとてとそれを追う。黄色いのはその胸の中だ。赤いのと青いのはマメーの後をてちてち着いて行く。呆然としていたランセイルは慌てて彼らの後を追うのであった。








