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【書籍化】マメーとちっこいの 〜 魔女見習いの少女は鉢植えを手にとことこ歩く【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第二章:聖女なんていわれましても

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第137話:どんどんぴーってしたらぽんって!

「るんたったたー」

「ピッピキキー」

「ピーピピー」

「ピュピュー」


 マメーが何やら奇妙な歌を口ずさみながら、リズムに合わせてひょこひょこと歩いていくと、ゴラピーたちもご機嫌に鳴きながらてちてちと後を追う。

 その後ろを、ランセイルが神妙な顔をしてついていく。

 ルイスとランセイルが師匠の庵に着いた翌日である。

 ルイスは忙しいのか一泊し、朝食を振る舞われたところで、オースチンに乗って飛び立ってしまった。

 師匠は午前中のうちに処理しておきたい製薬の作業があるとのことで、ルイスを見送った後に自室に籠った。

 ランセイルはそれにも興味があったが、彼は錬金術や魔法薬学を詳しく学んでいるわけではない。だというのに邪魔をするのははばかられる。


「たらったるりらー」

「ピーピキキー」

「ピピーピー」

「ピュピュー」


 と言うわけで、マメーが魔女の弟子としてどういう暮らしをしているのか見せてもらうことにしたのである。ついていって良いかと尋ねたら、気軽に『いいよー』と言われたのだ。

 なので、マメーはゴラピーたちの後ろにランセイルを連れてぞろぞろと薬草園に向かっているのである。


「幼き賢人マメーよ」

「なにー?」


 ランセイルが問えば、マメーは歌を止めてくるりと振り返った。

 急な動きに赤いゴラピーが足を止め、黄色いのと青いのがぶつかって三匹はころころ転がった。

 ゴラピーたちはよいしょと立ち上がる。それを見ながらランセイルは尋ねた。


「その歌には何か意味が?」

「たのしい!」


 ゴラピーたちはピキピーピューと頷いた。


「そうか、楽しい……」


 ランセイルは神妙な顔で復唱する。マメーはうん、と頷き、尋ね返す。


「たのしいいがいに、うたにいみがあるの? まじゅちゅてきなおはなし?」

「ふむ、歌や踊りというのは太古から続く、原始的プリミティブな呪術の形ですからね」

「ぷりみちぶなじゅじゅちゅ……」


 声や音楽には世界を震わせる力がある。それは最も古い神秘の形であり、魔術の原型と言えるかもしれない。

 魔法の発動に歌や踊りを必要とするものもあれば、極めて稀ではあるが踊っているときだけ魔術が使えるという特殊な形の才能も存在する。それほどに本来、歌や踊りと魔術には親和性が高いのだ。


「魔術師はそういった原始的な魔術を軽視する傾向にありますが、魔女の方々にはそういった技術も残っているのではと思ったのです。歌の邪魔をし、失礼しました」

「いいよー、ちょうどはたけについたし」


 マメーたちは薬草園の前に着いたのである。いつもはここまでるんたった歩いてからマメーとゴラピーたちはそれぞれお仕事を始めるのだった。んー、とマメーは考える。

 ランセイルは薬草園の様子に感動を覚えた。青々と緑の草が茂っているだけであるが、薬草学には詳しくない彼から見ても最高であると分かる品質のものが並んでいた。


「そーいえば、ししょーがおはなししてくれたんだけど」

「はい」


 ランセイルは偉大な魔女の言葉を聞き漏らすまいとマメーに向き直り、居住まいを正す。


「わたしはいったことがないんだけどー、さばと?」

「はい、魔女集会サバトですね」


 魔女集会は年に数度、魔女たちが夜に集まることである。世界に点在する魔女たちの情報交換や取引の場であり、マメーがグラニッピナの正式な弟子として認められたのも魔女集会における承認があったからだった。

 ちなみにマメーが参加していない理由は簡単である。夜はおねむだからだ。


「そこではふえとたいこのおとが、たえることはないんだよーっていってた」

「おお……」


 魔女でないものには知る術もない魔女集会の様子が、僅かなりとも語られたことにランセイルは感動を覚えた。

 絶えることがない、わざわざそういう言い方をグラニッピナ師がなさるということはそれが魔術的なものであるのだろうとランセイルは考えたのだ。


「あははー、どんどんぴー」


 マメーは太鼓と笛の音を模しているのだろうか。笑いながらそう口ずさむ。


「ピキ?」


 ゴラピーたちは初めて見るマメーの様子に首を傾げる。


「どんどん」


 マメーは手を叩き、足で地面を踏む。

 ランセイルからしてみればそれは幼子の稚拙な拍子にステップにしか見えない。だが彼はそれを笑ったりすることはなく、無表情で拍子を合わせて手を叩いた。マメーは笑う。


「あははー、どんどんどん」


 ゴラピーたちはマメーの真似をするようにピキピーピューと鳴いて、てちてち足踏みを始めた。


「どんどんばーん!」


 マメーが軽く飛び跳ねて、右手の指を天に突き上げ、両足でばんと地を踏んでポーズを決める。

 ぶわり、とマメーの身体から魔力が波のように放たれた。


 ぽんぽんぽん!


「ピキ?」

「ピ」

「ピュー!」


 赤いのが首を傾げ、黄色いのが気づき、青いのが歓声をあげた。

 彼らの頭上の葉っぱが白い花になっている。芳しい香りが風に乗ってきた。薬草園の草もまた花をつけているのだった。


「わあっ」


 その様子を見てマメーは驚いた。ゴラピーたちがピキピーピューと、すごーい! と鳴いた。


「なんとまあ……」


 ランセイルも呆然としていると、大きな音がして小屋の扉が開く。


「これマメー! 何をしたさね!」


 師匠が慌ててやってきた。

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