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【書籍化】マメーとちっこいの 〜 魔女見習いの少女は鉢植えを手にとことこ歩く【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第二章:聖女なんていわれましても

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第136話:ブリギットししょーがおへんじかかせた。

「ちょっと待ちな」


 協会長のカンディラは〈虚空庫〉より筒状に巻かれた布を取り出す。そしてそれをばさりと広げた。

 鮮やかな色で精緻で幾何学的な文様が描かれたそれは絨毯であり、絨毯は重力に従わず、広げられたままに空中にふわりと浮く。

 カレンディラはその空飛ぶ絨毯の上に、よいしょと腰掛けた。そしてブリギットに手を差し出して手紙を受け取ると封を破って目を通し始める。


「ふむ……」


 ブリギットはひょいとウニーを抱き上げると、軽く地面を蹴って空を飛び、絨毯に腰掛けた。


「失礼します……」


 ウニーがそう言って絨毯に腰を下ろしたところで、協会長は手紙を畳んだ。


「まずはグラニッピナの応援要請を二度断ったことか。あれは確かに私の指示だね」


 マメーに魔術を指導できる植物系に長けた魔女の派遣、それとルナ王女の呪いの〈解呪〉に失敗した時である。

 協会長はとんとんと絨毯を指で叩きながら言う。


「だがまあ、実際応援はいらなかっただろう。大達人グラニッピナは新参者マメーをしっかり導いていて、サポロニアンの王女に掛けられた呪いも無事解かれた」

「結果的にはそうね」

「それで十分なのさ。最近のグラニッピナは特に真面目ちゃんだから問題が起きる前に報告してくるけどね。そんなのどうだっていいのさ」

「最近の……?」


 ウニーが首を傾げる。ブリギットが笑った。


「ふっ、二年前からね」

「マメーが来たから?」

「グラニッピナお婆ちゃんはね、あれでマメーにずぼらなとこ見せないよう頑張ってるのさ。お婆ちゃんにはヒミツよ?」


 カンディラも笑う。


「あなたの師匠、徒弟時代に山一つ吹き飛ばしたのは知ってる?」

「ええ、何十年前の話……あいたぁ!」


 ブリギットはぽかりとウニーの頭をはたいた。


「グラニッピナはその姉弟子よ。もっとイカれてるに決まってるでしょう。薬の腕前は抜群で、全属性使える万能の魔女よ。なんなら協会長の椅子にぴったりだわ」

「……確かに」


 ウニーはなるほどと頷いた。


「それを私が協会長やってるんだから分かるわよね。あいつがどれだけ偏屈の引きこもりか。それが幼い弟子一人拾ってきたらしっかりするようになって、こっちがびっくりだわよ」


 カンディラの言葉は大袈裟であるとウニーは感じる。でもそれも真実の一側面でもあるのだろうとは思った。


「普通の魔女なら王女の呪いが解けなきゃ別の術、別の術と使っていって『結局化け物にしちゃいました。それで王家と敵対して結局全員殺しちゃいましたけどどうしましょう?』そんな連絡送ってくるものよ」

「それでいいんですか?」


 思わずウニーは尋ねる。ブリギットもまあありそうだなと頷いた。


「魔女ってのはね、基本的に独立志向が強いのよ。悪く言や自分勝手ってことだけどね。直系の師弟関係や、あたしとお婆ちゃんみたいな姉妹関係は強いけど、それ以上はよほどのことがないと動かないの」

「なるほど」


 ブリギットはそこで咳払いを一つ。真面目な声音で言った。


「でもね、協会長。派遣を断るのは分かるし、姉弟子もそこは別に問題にしてないの」

「……うちの職員の怠慢かい」

「ええ、それが『よほどのこと』に繋がりかねないわ」


 カンディラは瓦礫に視線をやった。途方に暮れたような職員が呆然と瓦礫に突っ立ってこちらを見ている。

 確かに少しの能力不足は感じていた。だが怠慢となるとまた別の話だ。

 彼女は職員たちを呼び寄せた。


「なあ、あんたたち」


 はい、と力のない返事がいくつか返る。


「グラニッピナのとこから新種発見の報告があったろう。あれ登録しなかったのかい?」


 職員たちが顔を見合わせ、一人がおずおずと手をあげた。


「協会長が対処しなくて良いと仰ったので……」


 協会長はため息をついた。


「そりゃ魔女の派遣については対処せんで良いと言ったがね。よもや魔女協会の最重要業務をサボるとは思っちゃいなかったよ」

「すみません……」


 口ではそう言って頭を下げるが、どうにも不満げな様子である。協会長は続ける。


「まあ、私も悪かった。いずれグラニッピナには謝罪をする。続けるが、なんであなたたちは、私たちの本拠地が壊されたってのに、その下手人を捕らえようとも、建物の再建もしようとしていないんだい?」

「え? 協会長、下手人って達人ブリギット師ですよね」


 ブリギットが頷く。


「そうよぅ」

「誰だろうと関係ないでしょうに」

「でも、協会長もそのどちらもされていないのでは?」


 職員の言葉に、ふん、とウニーが鼻で笑った。

 彼らの怠慢のせいでマメーに面倒があるというのだ。心証は悪い、一方で馬鹿にされたように感じた職員は気分を害したようだった。


「何よ」

「いえ、大人なのに分からないんだなって」

「何がさ」


 ウニーは協会長に向き直って尋ねる。


「協会長、大魔法の発動準備されてますよね?」


 彼女は笑みを浮かべてぱちん、と指を鳴らした。彼女の身体から膨大な魔力が発せられ、大地が揺れる。そしてまるで時を巻き戻していくかのように瓦礫が浮かび上がり、それはひとりでに組み上がり、砦の塔の部分が再建された。


「ウニー、あなたは良い魔女になれるわ。職員たちは新参者より魔力感知の精度が低いようじゃ話にならないね。徒弟からやり直しておいで」


 がくり、と職員たちが肩を落とす。

 けらけらとブリギットが笑う。姉弟子への良い土産話ができたと。

 協会長はするりと絨毯から降りると、二人に言った。


「さて、執務室で手紙を書くわ。お茶くらい出すから待ってて」

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― 新着の感想 ―
[一言] 協会長の言い方も悪いと思われ…
[一言] ……神殿これにケンカ売ってんの……?
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