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【書籍化】マメーとちっこいの 〜 魔女見習いの少女は鉢植えを手にとことこ歩く【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第二章:聖女なんていわれましても

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第130話:おえかきもまほーのべんきょーなのです!

 魔術に疎いルイスから見て、これはどう見てもお絵描きの類である。確かに円や多角形が多用されているところはグラニッピナ師の使っていた魔法陣のような規則性が見えるが……。


「そこは魔法陣なのかい?」


 絵の中央の丸を指差した。丸の中には三角が重ねられ、周囲には良くわからない歪んだ図形が見える。


「うん!」

「当たり前だろう。魔術の最も重要な図案である五芒星だって見えるではないか」


 ランセイルはそう言うが、星の一筆書きは子供のお絵描きに良く出てくる絵でもある。


「じゃあ、ランセイルはこの絵を見てマメーが何の魔術の勉強をしているかわかるというのか?」

「無論だ」


 ランセイルはその場に膝をつき、マメーと視線を合わせた。


「幼き賢人よ」

「あい」

「あなたは植物属性の素晴らしき才を有しているが、慢心することなくさらに他属性の魔術も学ぼうという向上心をお持ちだ」

「えへへ、なんかてれちゃう」

「マメー、あなたが学んでいるのは光属性魔術ですね」


 マメーはびっくり、目をまんまるに開いた。


「すごーい! なんでわかったの!」

「ピキー!」

「ピー!」

「ピュー!」


 ゴラピーたちも正解と、ぱちぱち手を叩く。

 ランセイルは当然、とばかりに頷き、ルイスが驚愕を顔に浮かべた。


「おいおい、ランセイル凄いんだな……」

「当たり前だ。お前だって、素人の子供が棒を振っているのと、騎士の従者見習いが棒を振っていればその違いはわかるだろう。同じことだ」

「……確かに。つまりなんだ、その私たちで言えばその流派的なものがこの落書き……紋様には見えるのか」


 ランセイルは立ち上がって頷きを返す。


「うむ、お前たち魔術師でない者たちは、我らが単に〈火炎〉と唱えるだけで火を生み出すように思って、やれ楽な仕事だの見下す傾向にあるが……」

「おいおい、私はそんなこと思ってないぞ」


 ルイスはそう言うが、騎士たちと魔導士たちは同じ国や貴族に仕えていても、派閥を作り互いに見下すような姿勢の者が多いのは分かっている。

 ランセイルは足元のマメーの絵を指差した。


「実際にはこうやって魔法陣や魔術の象徴を書物で何度も読んだり、こうやって描くことで頭に焼き付けねばならんのだ」

「ううむ」


 ルイスとランセイルは友人である。ランセイルの部屋で酒を酌み交わした時など、彼の魔導書を覗き込んでそこに描かれた記号など見たことがあるが……。

 マメーの絵を見る。

 なんというか、随分と雰囲気が違うが良いのだろうか。そう思って尋ねてみる。


「だが、この絵の太陽、顔描いてあるぞ」

「何を言っているんだ。太陽に顔が描かれるのは、それに神格を与えるためだ。魔術・信仰において洋の東西を問わず遥か古代からの伝統的な技法だぞ」

「そうなんだが……」


 太陽に顔が描かれた意匠は騎士や国家の紋章でも見たことがある。確かにそうだ。だが、マメーの太陽の顔は三本の線で描かれて、にっこにこである。神格? とルイスは首を傾げた。


「じゃああの女の子はなんなんだ」

「あれは秘儀の神々が一柱、"太陽"アマテラウスだ。太陽の象徴たる鏡をその手に持っているだろう」


 ……ボール持ってるんじゃなかったのか。とルイスは思った。ランセイルは続ける。


「光・闇属性の魔術の基本は、かの女神に乞うて魔力を光に変換するところから始まるのだ。つまり、マメー殿は光属性魔術を学び始めたところであり、使おうとしている魔術は〈光〉だろう」


 ランセイルがそう言いながら魔力を僅かに放出すると、彼の指先にろうそくほどの光が灯った。


「ピー!」


 黄色いゴラピーがすごーいと喜んでぴょんと跳んだ。

 マメーもぱちぱち拍手した。ルイスも釣られて手を叩く。


「いえいえ、不才もこうしてマメー殿が弛まぬ努力を続けて、それも楽しんで続けている様を見られて感心しております」

「ふふーん」


 マメーは喜んだ。これでも彼女は植物以外の魔術は覚えるの時間かかるなあと思っているのである。ちょっと詰まっているところで褒められると嬉しい。

 だが、普通はそんなことを魔術師に言えば、そもそもそんなに簡単に魔術を使えている方がおかしいとかずるいという反応になるであろう。


「ところでルイスとランセイルはなにしにきたのー?」


 マメーは尋ねた。もちろん、マメーのお絵描きを賞賛しに来たわけでも、魔術の勉強の話をしにきたはずはないのである。

 ルイスが言う。


「私はランセイルを送りに来ただけなのですよ」


 そう言ってランセイルの肩を叩く。ランセイルは改めてぐるりと周囲を見渡し感慨深げに頷くと、マメーの琥珀の瞳を見つめた。


「不才が偉大なる魔女殿の森に、この庵に参ったのは他でもありません。マメー、貴女の身を案じてのこと」

「わたしのみー?」

「ええ、神殿があなたの身柄を確保しようとしていると。それを伝えに来たのです。幸い、どうやら間に合ったようだ」


 ランセイルは安堵のため息をついた。しかしマメーはこてんと首を傾げる。


「しんでんもうきたよ!」

「なんですと?」

「しんでんのひときたけどー、かえってっちゃった」


 ゴラピーたちもピキピーピューと頷いた。

ξ˚⊿˚)ξちょっとこの週末は別の書かなきゃならんので、二日ほど連載を休みます。


10月1日の昼に連載再開予定ということにしますね。

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― 新着の感想 ―
ああ、魔法陣、バリバリの理数系の幾何学模様のイメージだったけど、壁画が正しいのか。そりゃ知識がなけりゃ落書きにしか見えないな……分かるランセイルは現代でいう考古学者って感じ(イメージ)か。
[良い点] さすがは“解説の”ランセイル。一部の隙もない理論展開です。 いいキャラだなぁ……欲しい。
[一言] アマテラウスキターーー!!!!(大歓喜)
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