第122話:みずぞくせいたんとうだよ
マメーが最初のゴラピーを創造したマンドラゴラの苗が赤いゴラピーになった時、なぜ赤いのか師匠に問われてマメーは『はちうえがあかいからだとおもう』と言っていた。
そして今まで生まれてきた四匹のゴラピーは全て、体色が植木鉢の色と同じであった。だから師匠としても、なんだかよくわからないがそういうものか、としか考えていなかったのである。というか、前例や類似の例が無さすぎて考えようが無かったというのがより正確であろう。
だが、どうやらそれだけではなかったようだった。
「青い植木鉢から青いゴラピーが生まれた。ゴラピーが青いから水属性の魔術が使える……いや、こいつが使ってるんじゃなくて、マメーの魔術を発動する媒体……?」
師匠は青いゴラピーを摘み上げてぶつぶつ呟いた。
「ピュー?」
青いのは師匠に摘み上げられても特に抵抗する様子もなく、だらーんと脱力しながら師匠を見上げていた。
「マメー、それと青いのよ」
「なあに?」
「ピュ?」
「ちょっとこいつに〈鑑定〉かけていいかい?」
卓に降ろされた青いゴラピーとマメーは顔を見合わせる。そして師匠の方に向き直り、揃ってうんと頷いた。
師匠は壁に立てかけてある杖を取ると、先端の宝玉を青いのに向けた。
「〈鑑定〉!」
虹色の魔力の光が青いのに向かって飛んでいった。青いのは驚くような様子もなく、自分の身体に吸い込まれていく光を見ている。
「なになに……『ウニーちゃんの色の鉢植えから生まれた青いゴラピー、水属性担当だよ』……マジか、クソったれめ」
師匠は悪態をついた。
「ししょーおくちわるい」
「ああ、すまないね。だがこいつは酷い話だ」
「みずぞくせいだめ?」
師匠は頭を振った。師匠は内心の怒りを押し殺す。マメーには何の責任もないのだから。
「いや、あんたもゴラピーも何も悪くない。まあ、訳の分からん現象であるのは変わらんが、マメーの水属性の魔術の発動をこの青いのが担当しているのが分かった」
「へー、すごいの?」
「見たことがないことをすごいと言うならすごいんだろうねぇ」
やったあ、とマメーと青いゴラピーはばんざいした。
「マメー、青いと水だと思うかい?」
「うん」
師匠は考える。魔術の属性の中でも基本となるものには対応・象徴する色や形がある。
西方の古典魔術で言えば地水火風の四大元素、東方思想なら木火土金水の五大元素だ。西方では水は青、東方では水は黒である。マメーは水が青と言ったからには西方古典魔術の系統であろう。まあ、当然、師匠は東方思想まで教えてはいないので当然そうなるだろうが。
だが赤は火に対応するとして、黄色はなんなのか。西方の属性で黄色が象徴するものはない。東方なら黄色は土に対応するのだが。
「うーむ」
「ピキー?」
「ピー?」
師匠は赤と黄色のゴラピーを見て唸った。師匠はマメーたちに断りを入れて彼らも鑑定したが、何属性担当と表示されることはなかった。直接尋ねてみることにする。
「赤いのと黄色いのは何か魔術ができるのかい?」
マメーたちは頭を寄せ合ってもしょもしょ相談する。
「まだわかんないって」
「……まだ水属性しか教えてないからね、これからってことか」
まあ、わからなくはない。少なくとも、マメーに火属性魔術を教えれば赤いのが火を放つようになるだろうという気がした。
「なんだかあたしゃ疲れたよ」
「ししょーだいじょーぶ?」
「うむ、まあちと休む。とりあえず青いゴラピーがいりゃ〈水探知〉ができるとは認めるさね」
「やったぁ!」
「それじゃあね」
そう言って師匠は立ち上がる。マメーとゴラピーたちがばいばいと手を振っているのを後にし、ぱたん、と扉を閉めると師匠の表情が険しくなった。
「協会の馬鹿どもめ……」
師匠はマメーに魔女見習いのメダルを渡してから今までに何度か魔女教会に手紙を送っている。つい先日もサポロニアンからこの森の庵に戻ってきた時にも報告をふくろうで送ったところだ。
だが、その手紙が全く無視されているか、協会が全く仕事をしていないと言うのがわかったのだ。
別にこちらの要請、例えば植物系の魔女を派遣するようにとかそういうのが却下されるのは仕方ないことだ。それはあくまでも協会の判断だし、魔女というのはそもそも少人数だから、派遣要請の類は断られることが多いのもわかっている。
だが、そもそも全く仕事をしていないとなると話は別だ。
「ウニーの色の鉢植えから生まれたゴラピーだと……?」
先ほどの魔術による鑑定結果である。
師匠はゴラピーにマンドラゴラ・オフィシナルム・ゴラピーと学名の申請をしているが、〈鑑定〉の魔術で学名が表示されなかったということは、協会が仮登録すらしていないということを意味するのだ。
そもそも新種だというのに確認に来たり呼び出したりしようとする連絡すらない。
「ちっ、こいつは不味いことになるねえ」
師匠は舌打ちした。
ルナ王女が神殿で鑑定の儀が行われることを思い出したのである。そこで彼女に預けられているゴラピーが学名ではなくこういった表記がされれば、それは新種であり必要以上に注目を集めるだろうし、これが魔女として既に実績のある自分ではなく、まだ幼い弟子のものと判明するだろう。
ルナ王女には〈誓約〉をかけてマメーの能力を口外しないようにしているが、相手の機転によってはすぐにでも分かるだろうとも。
「……ま、なるようにしかならんか」
師匠はマメーに困難が訪れることを避けない。
マメーは五つ星なのである。彼女が魔女としての生を歩むのであれば、どうあっても注目を集めるし無数の困難が立ち塞がることをわかっているからだ。
例えば困難を避けるならルナ王女という他人に対し、ゴラピーをつけて助けてやるというのは、師匠として却下してしまえば済むことであった。だが、マメーがそう言った以上、それから発生する責任は全てマメーが負うべきなのだ。
老いた師匠としては、自分が隣にいるうちにそれを経験させてやるべきであると思っている。だが、今回の件は恐らく、協会の馬鹿どものせいで自分が考えているより大事になる、そんな気がした。
はぁ、とため息をついて師匠は揺り椅子に身を投げ出したのだった。
昼に予約投稿してたら日付間違えててされてなかったよ。手動で投稿し直しです。
んでまあ、先日言った通りここで連載はちょっと一週間弱くらい小休止しますわー。








