第121話:なんじゃそりゃでたー!
「これ!」
とマメーはゴラピーが指差す箱を自信満々に指差した。合ってはいるが……。
師匠は青いゴラピーを摘み上げる。
「ピュ〜?」
「あんた、こっそり見てたんじゃないだろうね」
「ピュピュ」
青いのはぶんぶんと首を横に振った。
「みてないよーって」
マメーの言葉に師匠はため息をついて青いゴラピーを卓に下ろすと、青いのはピューっと鳴きながらマメーの元に戻る。師匠は箱を開けた。そこには水の入ったカップがある。
「やったぁ!」
マメーは正答に喜び、赤いのと黄色いのもぱちぱちと手を叩くような仕草を見せた。
「もう一回だ。ゴラピーを本の後ろかなんかに隠しな」
マメーは赤いのと黄色いのが座っている本を立てかけると、三匹をその後ろに隠して師匠の方が見えないようにし、自らも顔を卓にぺたりとつけた。
「いいよー」
師匠はカップをあげたりさげたりしてわざと音を立てたりしながら、結局さっきと同じ左にカップを置いた。
「はいよ、もう一回だ」
マメーは顔を上げると、もう一度杖を振って高らかに魔術を唱える。
「〈みずたんちー〉!」
青いゴラピーがひょいと本の後ろから顔を覗かせた。そしててちてち卓の上を横切って、再び左の箱の前に行き、ぺちぺち箱を叩く。
「ピュ、ピュ」
「それー」
師匠は思わず叫んだ。
「なんじゃそりゃあ!」
「やったあ、なんじゃそりゃでたー!」
マメーはわあいと両手をあげた。
「ね、ししょー。あってる? あってる?」
師匠がため息をつきながら箱をどかすと、そこにはカップに入った水があった。
マメーは喜んで、卓の上に指を出し、戻ってきた青いゴラピーとちょんとタッチする。赤いのと黄色いのも両手をあげて、わあいと青いのと順にハイタッチした。
「まあ待ちな、マメー。〈水探知〉の魔術を使ったのはあんただ、なぜゴラピーが答える? あんた自身はどうなんだ?」
「わかんない。でもゴラピーがこれだよーっていうと、あー、それなんだーって。なんかなっとくするかんじする」
「ふむ?」
師匠は考える。青いゴラピーが何らかの知覚能力があってマメーに水のありかを教えているのかとも思ったが、納得する感じというのは探知系の魔術を使った時に魔術師が感じるものだ。知らないはずの事柄に対し、確信したり納得したり当然であるように感じる。
マメーの魔術はいつも舌ったらずな発音の甘さがあるが間違ってはおらず、魔力もしっかり流れて放出されている。魔術の発動条件は十分満たしているように思えるのだ。
「ちょっと、つぎはゴラピー使わずにやってみな」
「ゴラピーおいで」
マメーはゴラピーを卓からおろし、膝の上に置いた。そしてもう一度同じことを繰り返す。
「〈みずたんちー〉!」
マメーは答えられなかった。どの箱もおんなじに見える。
「むー……」
マメーが唸っていると、膝の上をよちよちもぞもぞ動く感触があった。
青いゴラピーがマメーの服をよじよじ登ってきて、卓の縁から葉っぱをぴょんと出した。
「ピュ」
ゴラピーの葉っぱは真ん中の箱を向いている。
「それー」
マメーは真ん中の箱を指差した。はあ、と師匠はため息をつく。
「もういいよ、ゴラピー上げな」
「あい」
ゴラピーたちはわらわらと卓の上に自力でよじ登ってきた。師匠はもう一度箱を用意する。
「ゴラピーたちよ」
ゴラピーたちは師匠を見上げて、なあに? と言うようにピキピーピューと鳴いた。
「あんたら、この中のどこに水があるかわかるかね?」
ゴラピーたちは首を振った。頭の葉っぱがふるふると否定を示して横に揺れる。
「マメー、魔術使いな」
マメーが〈水探知〉の魔術を唱えると、やはり青いのがとことこ前に出て、箱の一つをぺちぺち叩いた。
師匠が箱を開けると、そこにはカップがある。マメーとゴラピーたちが喜んでいる横で、師匠の頭には『魔法は使える。ただし魔法はゴラピーから出る!』という言葉が浮かんでいた。
「ぬう……」
「ししょーだいじょーぶ?」
ダメかもしれん。師匠は思った。
まあ、想像がつかないわけではない。以前、マメーの前にミントの鉢植えを置いて〈繁茂〉の魔術を唱えさせた時、ミントではなくゴラピーの頭の葉っぱがもさぁっと茂ったのだった。
あれと同じように、マメーの魔力や魔術を吸うような性質がゴラピーたちにあるのであれば、マメーの魔術を青いゴラピーが吸収し、それが発動していると考えられなくもない。……本当か?
「ししょー、マメーのまじゅちゅ、これじゃあダメ?」
師匠が悩んでいると、マメーが心配そうな表情で師匠に尋ねた。ピューと青いのもどことなく不安げに師匠を見上げる。
「ダメじゃ……あない」
ついうっかり師匠は『ダメじゃね』と言いそうになった。
「まあ、あたしもそうだし他の魔女だって、使い魔を通じてものを見聞きすることはある」
師匠はカエルやフクロウ、オオカミといった動物たちを森に放ち、この庵や森を監視しているのだ。例えばこの森に生えている世界樹、あの結界の周りには師匠のオオカミが統率する群れがいて、近づく者がいないか警戒している。
「じゃあだいじょぶ?」
「本当はゴラピーがいなくても魔術が使える方が良い。そりゃ間違いないがね」
師匠は肩を竦めた。
「準特化五つ星の才能持ちが、どう魔術を覚えるかなんて分りゃしないのさ。とりあえずそういうもんだと思うしかない」
伝説にしか存在しない五つ星が魔術をどう使うかなんて誰も知らない。逆に師匠自身も全属性の三つ星という比類なき存在である。どの属性の魔術を覚えるのに苦労した、なんて経験はないのだ。
「あい」
「水の場所がわかるのは青いのだけなのかい?」
「ん、あおいからみずなんだとおもう」
また変なこと言い出したよ。師匠はそう思った。








