第102話:もりのおうちにかえってきました!
ぱちり、とマメーは目を開いた。薄暗い部屋の中見えるのは、白塗りの天井や色鮮やかな布のカーテンではなく、見覚えのある木の天井である。横を向けば窓の板の隙間がぼうっと白く光っていた。
「……あさ」
むくりと起き上がったマメーはくしくしと片手で顔の目のあたりをこする。ちょっとぼぅっとした頭でいつも通り起きあがろうとしてはっと気づいた。
「もりのおうちだ!」
昨日までの白塗りの天井でもなければ、窓に綺麗な布のカーテンもかかっていない。
お城の部屋ではない、見慣れた森の庵にあるマメーの部屋だった。
「……あれー?」
マメーは昨日、森の庵に帰ってきた記憶がない。夜にお空を飛んでいて……どうなったんだろう? マメーは思い起こそうとするが、布団のはだけた自分の姿が見えて納得した。
「ねちゃったんだ」
マメーは寝巻きを着ておらず、チュニックを着ていた。ローブの下に着ている服である。師匠はマメーがどこかで寝てしまうと、ローブだけ脱がせてベッドの中に放り込むのだった。
ベッドから降りると、暗い部屋の中を慣れた様子でぺたぺたと歩き、窓の方へ。
「よいしょ」
跳ね上げ式の、窓の木板をがたんと上げる。部屋に朝の爽やかな陽射しと空気が入ってきた。
つっかえ棒で窓の木板を固定して、いつも通りに明るくなった部屋を見ると、部屋の逆側にもう一つのベッドがあり、布団が小さく盛り上がっていた。
「ウニーちゃんだ」
マメーの部屋にベッドを持ち込んで泊まるのはウニーしかいない。
マメーはにんまりと笑いながら部屋を見渡す。そういえばゴラピーたちはどうしただろうと部屋を見渡せば、いつもの場所に赤青黄色の植木鉢が並んでいた。順番が普段と違うのは師匠が置いたからかもしれない。
とてて、とマメーはそちらにかけよって思わず笑みを浮かべた。
「ピキー…………」
「ピ…………」
「ピュ…………」
いつもは植木鉢の土の中に埋まって寝ているゴラピーたちが、それぞれの植木鉢の土の上に転がるように倒れていて、寝息を立てているのだ。
「ゴラピーたちも、おふとんはいるまえにねちゃったのかな?」
よく見ればゴラピーたちの足の方だけ土の柔らかい部分に刺さっている。上半身が土の上に垂れているような形だ。ゴラピーたちが土に埋まって寝ているという話はもちろん師匠には伝えてあるので、とりあえず先っぽだけ突っ込んでおいたのだろう。
「うんしょ」
マメーは鉢植えを窓際に持っていくと、倒れている葉っぱにおひさまが当たるように気をつけて置いた。
「よし」
マメーはチュニックを脱いで肌着を新しいものにかえると、皺っぽくなったチュニックをぴっぴっと引っ張って伸ばしてから着直す。
そして机の上に畳まれて置かれていた茶色いローブを羽織った。
着替えを終えた頃には窓際に置かれた葉っぱがぷるぷると震え出し、赤、黄色、青の上半身がむくりと起き上がった。
「ピキー」
「ピー」
「ピュー」
彼らは、うーんとちっちゃい両手を上げて伸びをする。
「おはよ、ゴラピー」
「ピキー!」
「ピー!」
「ピュー!」
「つちのなかにはいってなかったけど、だいじょぶ? よーぶんとか?」
土から養分が吸収できてないのではとマメーは尋ねた。
彼らは三匹で互いを見渡し、うんうんと頷いた。そして代表してか赤いのがしゅっと片手をあげてマメーに報告するようにピキっと鳴いた。
魔力ももらってるし毎日土に入らなくても大丈夫ということらしい。
「もんだいないのね」
ゴラピーたちが頷くのを見て、マメーは彼らを抱え上げた。
「さてー」
マメーは振り返る。
視線の先は布団の盛り上がっているもう一つのベッドである。ウニーが寝ていることを示すように紫がかった黒髪が枕の側にのぞいていた。
「ウニーちゃんおはよー!」
そう挨拶するが返事はない。
マメーはゴラピーをベッドの上に置いて頷きあった。布団をゆすったり叩いたりして起こすのである。
「おはよー!」
「ピキー!」
「ピー!」
「ピュー!」
マメーたちが布団に飛びかかろうとしたその時だった。
「かかったわね!」
ウニーの声と共にばさりとマメーたちに影が落ちた。
それは布団である。横になっているウニーが布団をばさりとかちあげたのだ。
飛びつこうとした布団がなくなってマメーはつんのめるようにバランスを崩し、ゴラピーたちはベッドの上でころんと転がった。ピキピーピューと驚いたような鳴き声が上がる。
「ええっ!」
ウニーは布団を上げているのとは逆の手でマメーを布団の中に引っ張り込んだ。布団が落ちてマメーたちの視界が闇に包まれる。
「ウニーちゃんおきてたの!?」
「ええ! マメーちゃんが起きた時に目が覚めたのよ!」
ウニーも昨日の夜は早い時間に箒の上で寝てしまったために、すでに目が覚めていたのである。
「きゃー!」
マメーはウニーにくすぐられて嬉しそうな悲鳴をあげた。ゴラピーたちの楽しそうな鳴き声も森に響く。
彼らはたっぷりと布団の中でじゃれあってからウニーが着替えるのを待って、二人と三匹がマメーの部屋を出て居間へと向かえば、椅子に座っている眠たげな顔をしたブリギットが出迎えた。
「朝から元気ねえ、あなたたち」
「あい! ブリギットししょーおはよー!」
こうして森での生活が再開されたのだった。








