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【書籍化】マメーとちっこいの 〜 魔女見習いの少女は鉢植えを手にとことこ歩く【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第一章:角の生えたお姫さま

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第10話:ししょーのおちゃはだいすきです!

 製薬に魔術を使っていたのか彼女の手には長い杖が握られたままである。それで床をこつこつと叩きながら卓に近づいてくる。


「あ、ししょー」


 マメーが振り返ってそう言えば、ルイスは席から立ち上がって挨拶をした。


「初めまして、グラニッピナ師。私はサポロニアン王国は銀翼獅子騎士団所属のルイス・ナイアントと申します」


 胸に手を当て、腰を折るぴしりとした礼に対し、師匠はひらひらと片手を振って鼻を鳴らすことで答えた。


「ふん、かたっ苦しいのは嫌いだよ。マメーが招いたってことは客なんだろう?」

「はい、師の薬を求めて参りました」


 マメーが気を許して中に入れているのだ。それも初対面の者と同卓しているのだから、この騎士の性質は悪く無いのだろうと師匠は判断する。


「座んな」


 ルイスに着席を促し、彼女自身もどっこらしょと椅子に腰掛ける。そして卓の上を見て笑った。


「茶も飲まず、ずいぶんと話が弾んでいたようじゃないか」


 卓の上には手がつけられずに冷めた紅茶が置かれている。

 マメーは肩を落とし、しょんもりした。


「おちゃいれるのしっぱいしちゃった……」


 そう言えばゴラピーたちはマメーにかけより、卓の上に置かれていたマメーの手を撫でるような仕草を見せる。


「ピキー……」

「ピー……」


 どうやら彼らなりに慰めているようだ。


「ふん、飲む前に気づくんだね。どうみても色が濃すぎるだろうが」


 ふう、とため息をついて師匠は杖で床をこん、とひとつ打った。


「〈騒霊〉」


 そして呪言を一つ唱えれば彼女の杖から魔力が放出される。マメーの顔がぱあっと明るくなった。マメーは師匠のこの術式が楽しげで大好きなのだ。

 卓上の二つのティーカップが浮かび上がったかと思うとそれは空中でひっくり返される。しかしそれはぶちまけられることなく、空中で澄んだ紅茶色の球を作って浮いた。


「わあ」

「ピキー!」

「ピー!」


 マメーが喜びの声をあげる。ゴラピーたちも目を見開いて水球を見つめた。

 かまどの方からはミルク瓶が飛んできて、中身が水球に注がれる。球が大きくなり、マーブルのように色が濁って灰色がかっていく。

 卓上の砂糖壺も浮き上がり、中にあった純白の砂糖をきらきらと何杯も振りかけた。

 製薬をしていた奥の部屋の扉が開き、いくつかの粉が振り掛けられていった。鼻をくすぐるのはジンジャーやシナモン、香辛料の香りだ。

 水球の表面がぶるぶると揺れる。火にかけてもいないのに水球が沸騰しているのだ。ぽこぽこと水球から泡がでていく。


「なんと……」


 思わず感嘆の声がルイスの口から漏れた。

 濾し網がかまどから飛んでくる。宙にとどまった網に、水球は火の輪くぐりのようにそれに飛び込んだ。

 網には香辛料や茶葉のくずが引っかかっていた。

 いつの間にか卓上のカップは3つに増えていて、水球はそれぞれにおさまると、ぽかぽかと湯気をあげた。

 冷めた紅茶があたたかいチャイに変わっていた。


「お飲み」

「わぁい」


 師匠が杖を壁に立てかければ、マメーは喜びの声をあげてカップに口をつけた。


「あまーい」


 師匠もまたカップを手にする。


「本当は茶葉の段階から煮出すんだけどね。こいつで我慢しておくれ」


 師匠はルイスにそう言って茶を飲み始めた。


「いただきます」


 ルイスもカップを手に取った。香辛料の複雑な香りが鼻腔を刺激する。そして一口飲んでほっと息をついた。


「美味しいです」

「そうかい」


 それにしても何という魔法の腕前か、とルイスは思う。

 彼も王国の騎士であるから、宮廷魔術師や戦場魔術師に知己がいたり行動を共にしたこともある。だから〈騒霊〉という呪文くらいは知っている。いわゆるポルターガイストといわれるもので、〈念動〉、つまりは念じるだけで物を動かす術式の一種であると。

 しかしああも自在に物を動かすことができるとは見たことも聞いたこともない。それに水球を加熱する術式なども同時に発動していたようだが、ルイスにはそれを知覚することもできなかった。

 つまり、これはもし戦いになれば彼女はルイスに気づかれることすらなく、彼を倒せる可能性があるということである。


「すごいものですね、魔女というものは。いえ、その中でも大達人という方は」


 ルイスは魔女の使う魔法と、そうでない魔術師のそれでは格が違うと話には聞いていた。しかし、その一端をこうも容易く見せられることになるとは思っていなかったのだ。

 師匠はじろりとルイスの碧眼を見つめた。どうやらそれはおべっかではなく本心からの感心であるようだ。


「ふん、多少は魔術の知識があるらしい」

「私は魔術を使えませんが、宮廷には魔術師もおりますので」


 ふん、と師匠は鼻を鳴らした。マメーはお茶のカップから顔を上げて問う。


「ししょーはおしろのまほうつかいよりもすごいの?」

「ええ、ずっと」


 ルイスは肯定する。


「むふー」

「ピキー」

「ピー」


 マメーとゴラピーたちは自慢げに胸を張った。

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― 新着の感想 ―
[一言] チャイすこすこのすこ( ˘ω˘ )
[良い点] おお! 〈騒霊〉! ミセス・ロビンソンと同じ魔法! なまどり世界なんだな~と実感
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