第1話:おししょーからまほーのなえをもらいました1
ξ˚⊿˚)ξ新連載です!
とりあえず10万字くらいを毎日更新したいといつだって思いながら書き始めています!
ここは深い深い森の中、そこにぽつんと建つ魔女の小屋。
小屋は外から見ると薄汚く今にも壊れそうに見えるが、その中はしっかりとした様子だ。その一室、壁には魔法の杖が立てかけられ、床の中央には魔女の大釜、天井からは薬草が吊るされて干されている。黒いローブを着た老婆が揺り椅子に座っていて、その向かいには少し緊張した様子で茶色いローブを着た女の子が立っていた。
珍しい緑色の髪をした可愛らしい少女で、歳はまだ十にも満たないだろう。
老婆が女の子に問いかける。
「さて、マメー。あんたの魔術の素質がなんだったかは覚えてるね?」
マメーと呼ばれた少女は元気よく手を挙げて、たどたどしく答える。
「あい、ししょー。じゅんとっかがた、しょくぶつけいまじゅちゅ、五つぼしです」
師匠と呼ばれた女性はうむ、と頷いた。
「そうさね、準特化型植物系魔術の素質五つ星だ。準特化型五つ星ってのはどういう意味だったかね?」
「えっと、しょくぶつのまほーのさいのうはちょーすごい。ほかのまほーもつかえるけどちょっとだけ」
完全特化型の魔術の才能は、例えば植物系であれば植物に関わる魔術しか使えない。マメーは準特化型なので他の系統、例えば火や水を扱うような魔術も多少は使用可能であるということだ。植物の魔術が得意で他はそうでもないと言い換えることもできよう。
「それでだいたい合ってるよ。ちなみにあたしは万能系三つ星な。あたしがあんたに魔術をなかなか教えなかったのは、植物系に関してはあんたの素質が高すぎて危険だったからだ。それでもあんたは言いつけ通り魔力も使わず、つまらん勉強や雑用を真面目にこなしてきたって訳だ」
「うん」
「まあ勉強も雑用も真面目にやっとるし、悪さもしない。まあ魔女見習いにしてよかろと魔女集会で許可を得てきた」
師匠はほいこれ、と雑に魔女見習いの証であるメダルを投げ渡した。マメーはそれを受け取るとぴょんと跳ねる。
「やったぁ!」
「落ち着きなさいよ。魔女の使う薬草は多岐にわたる。危険なものもそうでないものも、魔力を必要とするものもしないものもね。マメー、あんたには今まで危険でない植物の栽培なんかを任せてきたね?」
「うん」
「あんたの育てた植物は出来がいい。魔女集会でも他の魔女たちがこぞって欲しがるほどだ。こいつは自慢していいことだよ。だけどね、それは農家や花屋にだってできることだ。これからはそうじゃない。魔力が必要で、危険で、だが貴重なもの。魔女にしか扱えない植物を扱ってもらうよ」
「あい!」
「というわけでこいつだ。魔女にとって最も重要な植物、マンドラゴラだよ」
師匠は横にあった机の引き出しから植物の根っこを引っ張り出し、膝の上にどんと置いた。ごつごつとして灰色がかった茶色の根っこ。根は捻くれてわかれ、人の四肢を思わせる。根の上部には眼窩と開いた口を思わせる黒い穴が三つあき、老爺の顔のようにも見える。
「おかおこわい」
「ふん、そうだねえ。人型だし、あまり好かれる形はしてないねえ。呪われた叫びもあげるしね。嫌かい?」
マンドラゴラといえば有名なのは抜いた時にあげる叫び声である。それは強い魔力を帯び、時に抵抗力のない動物や子供を死に至らしめるのであった。
だがマメーは首を横に振る。
「ううん、だいじょぶ」
とはいえ、魔女の弟子であるマメーにとっては見慣れたものでもあった。
「そんならまあこいつに魔力を注いでみな」
師匠はマメーに小さな赤い鉢植えを渡した。マメーがくりっとした琥珀の瞳で覗き込むと、中には水で湿った土が入っている。
「マンドラゴラの種が植えられている。魔力を注げば芽が出るようになっているさね」
「これにまりょくをこめればいいの?」
「ああ、ゆっくりだよ」
「やってみるね!」
うんうんと唸りながら鉢植えに魔力を注ぐ。ぽん、と双葉の芽が出た。
「……早いね。さすが五つ星ってことかい?」
師匠は内心驚愕し、感心していた。普通そんなに早く芽が出るようなものではない。植物を操る才能のない魔女では発芽させるのに数ヶ月かかったり、見習いが逆に魔力を吸われすぎて倒れるような事故もあるものであった。
マメーの手の中でにょき、と芽が大きくなり、葉となる。二枚の葉っぱは緑に色づき、根本の方が赤く染まった。
「魔力を注ぐのをやめな、なんか変だねえ」
育成が早すぎるのもあるが、マンドラゴラの茎は赤くはならない。師匠は魔力を止めるようマメーに伝えた。
「ん」
しかしその言葉は遅かったのである。
鉢植えの土がぷるぷると揺れた。そして葉がぶるりと揺れたかと思うと、地中から何かが飛び出してきた!
それは体長10cmほどの人型だった。ただ表面のでこぼこしているマンドラゴラと違い、妙につるりとした真っ赤な表面の二頭身の人形のような形状で、短く細い手足がついている。
根の上部、マンドラゴラでいえば眼窩のような黒い穴が顔のように見える部分には、まるで人間のような白い部分と黒い瞳がある目があった。
そして頭のてっぺんからはにょきりと茎が伸び、葉っぱが二枚生えていた。
それは細い足で器用に立ち上がると、くりっとした目をマメーに向けて叫んだ。
「ピキー!」
それは妙に高い鳴き声を上げて、右手を腰に当て左手をぶんぶんと振る。
マメーは叫んだ。
「かわいい!」
師匠は叫んだ。
「なんじゃそりゃぁ!」