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タイプJ  作者: 涼森巳王(東堂薫)
一章 マーダー
9/80

一章2-3



 その日は、そのままパールと別れて、ジェイドは自分のコンパートメントに帰った。


 帰ると、まっさきに、ジェイドは自室の端末に自分のケーブルをつないだ。マザーコンピューターにアクセスする。


 エヴァンが殺された時間、市民がどの場所にいたのか、マザーコンピューターなら把握している。

 すべての市民が体内に埋めこんでいるIDプレートの反応が、逐一ちくいち記録されているからだ。


 とはいえ、個人情報はプライバシーの侵害になる。市民には公開されていない。

 データは何重にも保護がかかっているし、ちょっと一般人には手が出せない。万一、ハッキングがバレると、市民権剥奪だ。シティから追いだされてしまう。


 なので、ジェイドは無難な情報だけ調べた。

 竜などの危険生物が侵入しないよう、シティのすべての出入りは厳重にマザーに管理されている。その情報だけは市民にも、安全のため公開されていた。

 エヴァンが殺された、あの時間の前後、シティを出入りした人間がいないかどうか、いたとしたら、それは誰なのか。


 だが、その時間、ゲートを使用した人間はいなかった。

 それ以前にシティに入った人間も、ここ数日ない。

 もっとも最近にゲートが使用されたのは半年前。そのとき、キューブシティーを出ていったその住人は、まだシティに帰っていない。事件とはなんの関係もない。


 ついでに調べると、現在、キューブシティーには、他のシティからの客は滞在していなかった。


(ということは、少なくとも外部の人間の犯行じゃない。犯人はこのキューブシティーの住人だ)


 アンバーが殺されたのは、オレンジシティーだ。

 ならば、犯人は二百年前、たまたまキューブシティーからオレンジシティーに来ていた旅行者だろうか?

 それとも、ジェイド同様、あのころはオレンジシティーに住んでいて、その後、キューブシティーに引っ越してきたのか。どちらかだ。


 だが、なんとなく気にいらない。なんだか偶然すぎる。

 世界中には、ほかにもたくさんのシティがあるのに、なぜ、犯人は的確にジェイドの……エヴァンのあとを追ってこられたのだろう。


 それに、エヴァン殺しの犯人の目的が、アンバー殺しを察知したエヴァンの口封じだとしたら、なぜ、今日まで、ほっといたのだろうか。


 エヴァンはあのとおり、アウトローとしてだが、キューブシティーでは目立つ存在だった。

 少なくとも半年より前に、犯人はキューブシティーに移住していた。それなら、今日までエヴァンを探しあてられなかったはずはない。


 一日の多くをぼんやりと過ごしていたエヴァンを殺すことは、わけなかっただろうに……。


 たとえば、自分が移住してきたあと、すぐにエヴァンが死ぬと誰かに怪しく思われるかもしれない——と、用心したとしてもだ。

 犯人としては、いつ、エヴァンの口から、秘密が暴露されるか心配ではなかったのだろうか。

 半年も期間を(あるいは、それ以上の長期にわたって)置いていたのは、不自然な気がする。


(なんか、すっきりしないな)


 まあ、悩んでもしかたがない。

 とりあえず、エヴァンのベースキャンプ探しだ。そこから何か新しいことがわかってくるだろう。


 ジェイドはマザーコンピューターに依頼して、マーブルに通話申しこみをした。

 マーブルがエヴァンと別れたあと、どこへ行ったのか、移住さきを知らなかったのだ。


 幸い、数分後、連絡がついた。

 マザーの回線にジェイドのケーブルをつないだままで待つ。


 まもなく、ジェイドの視界が二重にだぶって見えるようになった。

 ジェイドの見ているものと、マーブルの見ているもの、両方が見えているのだ。ジェイドの回路と、マーブルの回路が、マザーを介してつながっている。


「やあ、マーブル。ひさしぶり」

「ひさしぶりね。お元気?」


 マーブルはあれでよく勝気なアンバーの友人をやってられるな、と思うほど、おとなしい物静かな女性だ。

 アンバーとは、女王と侍女みたいなところがあって、ときどきジェイドは申しわけないような気分になったものだ。


「まあ、なんとかね」


 そう言ったあと、ジェイドは言葉が続かなくなった。


 マーブルは結果的には、一番パートナーの助けが必要なときに、エヴァンを残して去っていく形になったけど、エヴァンを心から愛していたのは事実だ。

 エヴァンの死を知れば、マーブルは、なげき悲しむだろう。

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