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タイプJ  作者: 涼森巳王(東堂薫)
五章 メモリー
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五章4-2


 オニキスはコンピューターを起動させる。見ためは小型だが、ファーストシティーのマザーコンピューターにつながっているため、処理は速い。


 オニキスがたずねてくる。

「何が気になるんだい?」


「スクロールして、下のほうを出してみてくれ。そう。そこ。ストップ。やっぱり、そうだ。船のなかでチラッとだけど、見たような気がしたんだ。ほら、ここ、エヴァンの型式だ。やっぱり、エヴァンもあの船に行ったことがあるんだ。オリジナルヒューマンの研究をしてたんだから、あたりまえか」


「殺された君の友人か」


「ドクの研究所の実験体は、たぶん、あそこのクリーチャーをもとに造られてる。きっと、エヴァンがクリーチャーの体組織を持ちだして、実験用にしたんだよ。エヴァンがそのつもりでドクに渡したのか、分析をたのまれたドクが勝手に実験に借用したのかはわからないけど。

 もしかしたら、そのことで、ドクとエヴァンは、もめたのかも? ドクがどんどん暴走して、ひきとめようとしたエヴァンは殺された……そう考えると、ドクが人殺しなんか始めたことも説明できる。

 アンバーは明言できないが、マーブルを介して、おれよりさきにエヴァンとのつきあいがあったから、研究のことで何かを聞いてしまったのかもしれない」


 ふうむ、とオニキスは腕をくむ。


「つまり、みんな口封じだな。しかし、そうなると、さっき船を爆破しようとしたのも、そのドクか? どうやって船内に入ったんだろう?」

「DIAMONDで型式が登録されてないかな?」


 オニキスが検索してみたが、該当者はなかった。

 ジェイドはうなる。


「変だな。なんで……いや、そうか。ドクはエヴァンのベースキャンプに入るためのキーカードを持ってる。それを使ったんだ」

「なるほどね。そうかもしれない。僕らに、あの船の秘密を知られたくなかったので、船ごと爆破しようとしたのか」


 ジェイドは悲しい気持ちでうなずいた。


「ドクがそんなヤツだとは思いたくないが、そうとしか考えられない。それだけ、あの研究に対する執念がすごいってことか。ドクの研究は初めのうち、バイオボディを造ることが目的だったはず。だけど、エヴァンからオリジナルヒューマンの話を聞いたときに変化したんだな。オリジナルヒューマンを自分の手で造るってことに」


「オリジナルヒューマンか。たしかに、わかる。その気持ちに取り憑かれる気持ちは。できることなら蘇らせてみたい。エンジェルを見てると、とくにそう思うよ。あの子には僕らにない何かがある。オリジナリティってやつかな。あの子の行動は、とにかく、こっちの気を惹きつけるよ」


「あんたもそう思う? オニキス」


「もちろんだとも。しかし、この件はサファイアにはナイショにしてくれたまえ」


 サファイアは博物館に行っているのに、目をキョロキョロ泳がせるオニキスがおかしい。

 ジェイドは大笑いした。


 そのあと、オニキスは急に真顔になった。


「でも、ドクのやりかたはまちがってる。ああ、まちがってるとも。あんなクリーチャーからオリジナルヒューマンを復活させたって、そんなこと、神が喜ぶわけがない」


 オニキスが思案しだすと、双眸のレンズの奥の人工知能が活発にきらめく。

 オニキスの体は強化プラスチックのスケルトンボディだから、そのようすが外からでもよく見える。


 強化プラスチックは強化ガラスより材料が集めやすいし、高温圧縮などの特殊な技術がいらないので、誰にでもあつかいやすい素材だ。


 強化ガラスは専門的な工学の知識がなければ加工できない。EDみたいに、こまかいパーツにカットするのは、きわめて難しいのだ。もちろん、強度には雲泥の差があるが。


 そんなことを考えていると、オニキスが言いだした。


「神か。神ね。けっきょく、ジェイド。君がドクから聞いた話が真実なら、我々を造った神は、最後に残ったオリジナルヒューマンのなかの誰か、ということになるね。あるいは、そのうちの数人が共同でしたのかもしれない。彼らが我々を造ったことには、きっと、何かしらの意味があるはずだ。EDの話に出てくる、Eオリジナルの使命ってのは、そのへんに関連してるんじゃないか。とにかく、設計図を見てみよう」


 ジェイドがうなずくと、オニキスはモニターに設計図を映した。オニキスが最初に呼びだしたのは、Aタイプの人工知能部分の図面だ。


「君たちが爆弾処理してるあいだに、ダウンロードしながらサブコンピューターで内容を見ていた。AIの部分をね。まだ僕も全部を見てはいないが、基本的な造りは、AからZまで同じのようだ。見てくれ」


 と言って、オニキスはいくつかのタイプのAIをモニターに分割させてならべた。


「我々の人工知能は大きくわけて、三つのセクションにわかれている。左右に二つのセクションと、その下に一時記憶用のハードディスクがある。この造りが、エックス線透視で見たときの、エンジェルの脳の構造に似ていると、すぐに気づいたよ。わざと似せて造ったんだろうね」


 図面を見て、ジェイドはうなずいた。

 たしかに似ている。


 オニキスは続ける。


「ハードディスクの説明はいらんだろう。いつでも、かんたんにデータを抹消できる、一時的な記憶を残しておくための装置だ。我々に個性をもたらしているのは他の部分だ。

 左の部分は各タイプ共通の禁止事項などがプログラムされている。禁止事項のほか、共通の知識、演算装置、論理装置、ボディを動かすための命令系統、セットアップファイルや、機器類を制御する処理システムなど。

 つまり、早い話、我々がサポーターと呼んでいるロボットのAIと、まったく同じ機能をするセクションだ。これじたいは固有の嗜好しこうや個性を持たない。地道な計算処理や、情報分析などの作業を単調に続けている」


 オニキスがモニターをコンコンと手の甲でたたく。


 ジェイドも何体も造ったことのあるサポーターだ。設計図はサポーターより、もっと精密だが同じ働きをするものだということはわかった。

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