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タイプJ  作者: 涼森巳王(東堂薫)
五章 メモリー
56/80

五章3-1

 3



 ジェイドはあわてた。


「熔鉱炉に爆発物だって? なんでそんなものが——」


 EDは冷静だ。


「今はなぜかなんていい。オニキス、熔鉱炉を停止させろ」

「ダメだ。操作が手動に切りかえられたまま動かん。どうする?」


 ジェイドは迷わず答えた。

「決まってる。早く逃げだそう」


 だが、EDは難しい顔をして、その場を離れない。


「エド——」


 呼びかけると、静かな声で言う。


「おまえはそれでいいのか? 後悔しないのか?」

「後悔?」


「私はきっと後悔する。たった今、目の前に、我々のここに収まるものの設計図がある」と、EDは自分の頭を人差し指で示した。

「なぜ、我々は何億年も変わらぬ思いをいだき、生き続けるのだ。なぜ、生まれる前から定められたとおりにしか人を愛せず、決められたとおりの行動をとり続けるのだ。

 我々に心はないからだ。ここに入っているものが、全部、作り物だからだ。ここを書きかえないかぎり、思いは変わらない。愛する者が去っていく悲しみを、何度も味わわなければならない。その思いさえ、作られたものなのに」


 EDの言葉に、ジェイドは沈黙した。

 その気持ちは、ジェイドも同じだったから。

 自分自身がロボットだと知ったときに感じたのと、同じ……。


 EDは訴える。

「このデータだけは、なんとしても持ち帰らなければならない。そのためには多少の危険もかえりみるべきではない。わかるな? ジェイド」


 ジェイドはうなずいた。

「わかるよ。けど、それならどうするんだ?」


 EDは答えない。かわりにマザーコンピューターに問いかけた。

「マザー。爆発物は今すぐ爆発しそうか?」


 マザーは爆発物を監視カメラから解析した。


「タイマーが作動中です。爆発まであと二十分です」

「二十分か。急げば、まにあう。私はこれから爆発物を撤去しに行く。ジェイド、おまえは往復の援護をしてくれ。オニキス、そのあいだに、君はこのファイルのコピーをとるんだ。どれくらいかかる?」


 オニキスはわりと平静だ。最初からそのつもりだったのかもしれない。


「量が多いしな。まあ、三十分ってところだな」

「わかった。私たちが帰ってくるまでに終わらせてくれ。もし十五分……いや、十七分たっても、爆発物を除去できない場合は、即刻原子炉を停止し、申しわけないが君だけで、どうにか外まで逃げだしてくれ」

「任せたまえ」


 オニキスの返答を聞いて、EDは廊下へとびだしていく。しかたなく、ジェイドも追いかけた。


「おれの返事は聞かないのかよ」

「そんな時間はない」

「ああ、もう……」


 来たときと違い、船内はどこもかしこも明るい。視野が広いので、かなりのスピードで移動できる。白っぽい廊下を、ジェイドは時速六十キロで、EDのあとについていった。


「熔鉱炉って、どこにあるんだ?」

「地下十五階だ。第一セクションの中心にある資材製造室のなかだ」

「つくのに何分かかるんだ?」

「障害がなければ、この速度で二分たらず。しかし、そうもいかないようだな。来たぞ」


 もちろん、ジェイドだって気づいていた。光スコープでの視界なら、ズーム機能を使って、五十キロさきにいる人間の顔だって区別がつく。


 廊下のまがりかどから、複数の影が現れた。


 あの化け物だ。

 オリジナルヒューマンを絶滅させた、クリーチャーども。


 体長は二メートルから三メートル。

 長い年月、地下に順応して生きていたせいで、色素はすっかりぬけている。血管や内臓、骨まですけてみえる。


 背中から腰まで大きくつきだした長細いコブのなかに、黒く液体が流動している。EDの言っていた、二酸化炭素を分解する器官なのだろう。

 そのせいで、背骨が大きく歪曲し、上半身が下半身に対して、九十度近くまがっている。


 ひしゃげて小さな頭部。その頭に、脂肪をためておくらしいコブみたいなツノが、三つ隆起していた。

 口から胸まで達する長い牙があり、爪もするどい。

 体全体にくらべて不釣り合いに大きく太い両足は、その化け物の脚力の強さを表していた。


 明るい光のもとで見る姿のおぞましさに、一瞬、ジェイドはひるんだ。が、その前に戦闘モードに入る。


 ターゲットは四体。

 射程距離内だ。

 エアガンの一発で瞬殺する。


 走るスピードは落とさず、EDがつぶやく。


「ふん。まあ、戦闘にだけは使えるな。いくらオールドタイプのおまえでも」


「まあね。断っとくけど、おれの弾をよけようとだけはしないでくれよ。ちゃんと、あんたにあたらないように軌道計算してるんだから。変によけようとすると、よけい、あたっちまう。守ってやるからさ」


 ふりかえったEDが険しい顔をしていたのは、はたして時間にせいていたせいか。それとも、ジェイドの言葉がかんにさわったのか。


 しかし、言い争っているヒマもない。

 次々にクリーチャーが現れるので、ジェイドは忙しい。階層が下になるにつれて、クリーチャーの数も増える。

 それらをエアガンの連射で片づけながら、ジェイドはEDにたずねた。今じゃないと聞けないような気がした。


「なあ、エド。あんた、まだ、おれがマーブルを殺したと思ってる?」


 EDはジェイドの半歩さきを飛んでいた。走るより速いのだろう。空気を押しだす方式だから、鳥のようには羽ばたかない。カーブのときや減速するときに、少し翼のむきを変えるだけだ。


 かっこいい背中を見せたまま、EDは答えない。

 やはり、まだ、ジェイドを疑っているのか。

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