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タイプJ  作者: 涼森巳王(東堂薫)
五章 メモリー
48/80

五章1-2


 エレベーターの入口が見えた。

 造りはドクの研究所にあったエレベーターと、まったく同じだ。


 ただ、壁面の材質は合金だ。

 多くのロボットがボディの装甲板に使っているハイメタルである。


 合金のなかでは最上級の耐久性と強度を持ち、火にも水にも酸にも強い。

 これより優れた素材は、特殊強化ガラスと、原料が希少で生成の難しいレアハイメタルだけだ。

 ドームシティの材質も、多くはハイメタルである。


 このエレベーターも、ドアの開閉にEDの型式証明が必要だった。


 ジェイドたち三人が乗りこむと、反重力ボードが長く暗い縦穴のなかを降下し始める。地獄の底まで続いているように黒い穴だ。


「じゃあ、宇宙船の封鎖区内は、放射能で汚染されているのか。放射能が外部にもれないように、厳重に隔離かくりしたんだな?」


 ジェイドが言うと、EDとオニキスは、わけ知り顔で目を見かわした。


「なんだよ? 違うのか?」


 EDは説明を続ける。


「いや。私も当時は、そう考えていた。当時はまだ、この星に生物らしい生物はいなかったが。それだけに、単純な遺伝子しか持たない単細胞生物が放射能をあびれば、その後の進化にどれほど甚大な影響をおよぼすかわからない。それを懸念して、フューチャーを埋めたのだろうと。

 DやVも同意見だった。私が言うのは、オリジナルのDやVだ。EがDやVのためにガーデンシティーを築いたのは、初期のドームシティのなかでは、一番あとだった。二人は長いあいだ、ファーストシティーの住人だったからな。私もよく話した。今は交流はないが」


 話がそれたがと弁解してから、EDは続ける。


「そのように、放射能汚染をEが考慮したのだと思った。だが、オニキスとこの船を調査したとき、その考えがまちがっていることが判明した。

 問題の事故のあった原子炉は、はるか昔に緊急停止し、もれでた放射能も、とうに浄化されていた。もちろん、事故当初は、そうとう汚染されたようだがな。原子炉の破損状態から概算すると、事故当時の汚染数値は、基準値の五百万倍以上。

 しかし、放射能除去装置の働きで、事故後千年ほどで浄化されていた。とっくに船内はクリーンな状態だったのだ。Eが封じておきたかったのは、別のものだ」


「ちょっと待ってくれよ。さっきから聞いてると、原子炉の破損状態とかって……あんたら、封鎖区内に入ったのか?」


 そこでまた、EDとオニキスは顔を見あわせる。

 今度はオニキスが口をひらいた。


「僕たちが勝手に封鎖をといたわけじゃないんだ。僕らが来たときには、もう封鎖用の非常シャッターが破壊されていた」

「破壊って、誰が? あんたたちより前に、誰かが船内に来たってことか?」


 ところが、ジェイドの考えは、ことごとくハズレた。


「非常シャッターは内部から破壊されていた。一メートルの厚みの鋼鉄製シャッターが五枚。三十センチのチタンシャッターが五枚。交互にならんでいたんだがね。長い年月をかけて、少しずつ穴を広げていたらしい。ここは地下水は浸食してないから、しぜんに酸化腐食したわけじゃないんだ」


 ジェイドは服のなかにミミズが入りこんだような違和感をおぼえた。


「内部からって、誰がだよ? だって、オリジナル二十六体以外の生存者はいなかったんだろ?」


 反重力ボードは、どこまでも下降していく。


 またEDがあとをとった。


「正式な乗組員のなかにはな」

「じゃあ……正式じゃない乗船者はいたってことか?」


 EDは地底の闇を見透かしながら、静かな口調で続ける。


「Eは知っていた。そこに何があるのかを。そして、理解していた。当時の我々の力では、あれらを根絶することができないことを。だから、宇宙船ごと地下シェルターにうずめ、封印してしまった。

 そうしておけば、いかにしぶといヤツらでも、いずれは自然消滅すると考えたのだ。宇宙船の機能を停止し、酸素の供給をたてば、数百年……長くとも数千年のうちには絶滅してしまうと。だが、誤算が生じた。ヤツらは生きながらえていた。この数億年という年月を」


「ヤツら……って?」


 EDは首をふる。


「ヤツらが、どこから、どのようにして発生したのかはわからない。断言できるのは、オリジナルヒューマンが、Eたち二十六人を残して滅びたのは、ヤツらのせいだということだ」


 地下に、何かがいる。

 今のジェイドにわかるのは、それだけだ。


 長い長い地下へのトンネルを、下降し続けていた反重力ボードが、床面に接して止まった。


 エレベーターのドアがひらく。

 そのさきに、もう一枚、強化ガラス製のドアがある。


「ここからさきはヤツらの住処だ。気をぬくな」


 EDは片手をセンサーにかざし、強化ガラスのドアロックを解除した。

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