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タイプJ  作者: 涼森巳王(東堂薫)
五章 メモリー

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五章1-1

 1



 古代遺跡へ通じる道は、ファーストシティーの最下層にあった。

 かつては宇宙船からファーストシティーへは、自由に行き来できたという。


 現在、そのころ使われていた通路は、すべて何重もの強化ガラスのドアで封鎖されている。


 ドアを開閉できるのは、宇宙船が生活拠点だったころ、そこに居住していたことのある、古い型式のIDを持つ者だけである。

 ドアじたいが、地上で暮らす者たちの目から隠すように、周囲と同じ合金板で目隠しされている。なかなかの厳重さだ。


「なんか、この真上で原子爆弾が爆発しても、ビクともしないほどの頑丈さだよな。このなかに、そんなに大事なものがあるってことか?」


 ジェイドはおどけて言ったのだが、隠し扉のロックを自分のIDで解除するEDはそっけない。


「早く入れ」


 指さきで指図する。


 EDが体内レーダーの感覚をとぎすませて、ピリピリしていることは、見ればわかった。


 そんなに心配しなくても、ファーストシティーの地下には無人の製造工場などがあるだけだ。住人は誰も来ない。誰かに隠し扉の位置が見つかる可能性は、まずない。


 だが、EDは隠し扉のなかへ自分たちが入るところを見られることを恐れていたわけではなかった。のちになって、それは痛いほど理解できた。


 ともかく、言われたとおり、ジェイドは隠し扉のなかへ入る。


 合金板のドアが閉まると、ファーストシティーからの照明がさえぎられ、あたりは闇になった。

 ここには熱を発するものもないから、赤外線スコープも、あまり役に立たない。ジェイドはエックスレイスコープに切りかえた。


「ここらへんのガラスのハッチは、自動ドアなんだな。てことは、少しは電力が生きてるのか?」


「ここはまだ、ファーストシティー建設時に増築された渡り廊下だよ。電力はファーストシティーから流れてきている」と、オニキスが説明してくれる。


 先頭はED。次にジェイド。一番うしろがオニキスだ。


 渡り廊下には、全部で三ヵ所の強化ガラスのドアがとりつけられている。厚さが十センチもある強化ガラスだ。いやがうえにも頑丈さが目立つ。


 どのドアも、EDが目の前に立つと、自動でひらいた。

 ジェイドたちはドアが閉まる前に、急いでかけこむ。


 EDが補足した。


「自動と言っても、ここもID登録している者にしか反応しない。その後、型式を変更した者ではひらかない。ここへ来ることができる者は、もう何人も残っていないだろう」


「そうだよ。今どき、あんた、貴重だよ。ガンコに生まれたときの型式を守ってるなんて。何千万年もだろ? いや、何億年か。何億年! もしかして、何十億年か?」


 EDがエックス線照射した青白く光る目でにらんでくる。


「型式は古くても、機能は最新だ。オールドタイプのおまえに言われる筋合いはない」

「あ、こいつ! チクショウ」


 オニキスがあいだに入る。


「まあ、まあ、まあ。二人とも、やめなさいって。ケンカしてる場合じゃない。まあ、このへんは、まだオールドセクションじゃないから、心配あるまいがね」


 ジェイドは気をとりなおした。

 たしかに、これから、どんなことが起こるかわからない場所へ侵入するのだ。慎重に行動しなければ。

 それに、最初のころにくらべれば、EDの態度も軟化してきたように思う。


(そうだよな。初めのころなんて、まったく口もきいてくれなかったもんな。たまに、なんか言えば、ことわる、なれあう気はないって、そればっかり)


 そのころのことを思いだして、ジェイドはクスクス笑った。


 なんで、こんなときに笑うんだというような目つきで、EDが気味悪そうにジェイドを見た。


 ジェイドは笑いながら尋ねる。


「この渡り廊下の向こうが、オールドセクション?」


「いや。このさきに反重力エレベーターがある。そのエレベーターを降りたところからさきが、オールドセクションだ。我々の生まれ故郷。始まりの地。宇宙船フューチャーの内部だ」


「ほんとに厳重なんだな」


「ファーストシティーを建設するにあたって、まず、上下左右から完全にフューチャーをかこむシェルターを造りあげた。その後、シェルターごとフューチャーを地下三十キロ地点にうずめた。同時に、地上部にファーストシティーを建設した」


「なんで、そこまでする必要があったんだ?」


 ジェイドでなくとも、そう感じるだろう。

 なんだか、それじゃ、宇宙船をこの地から葬り去ろうとしたかのようだ。

 まるで、宇宙船じたいが危険をはらんでいるかのように……。


 EDの答えはこうだ。


「おまえは、さっき言ったな。原子爆弾の爆発にも耐えるだろうと。要するに、そういうことだ。ただし、フューチャーを爆弾から守るための設備ではない。この星をフューチャーから守るための設備だ。フューチャーは爆弾をかかえたまま、この星に来た」


「爆弾って……まさか、ほんとに核爆弾か?」


「私が造られたのは、この星に来てからだ。だから、そのあたりの詳しいことは知らない。Eから聞かされたのは、こういうことだ。フューチャーには動力部が三ヵ所あった。そのうちのメインルームにある原子炉に事故が起こり、封鎖された。

 ここからさきは、その後、オニキスと調査したことなどからの推測になる。おそらく事故は宇宙航行中に起こった。Eが造られるより、さらに以前のことかもしれないな。船内の七割を封鎖した状態で、二つのサブルームの動力を使い、どうにか、この星までやってきた。そのときの生存者は、Eたち二十六人のオリジナルボディだけだっただろう」

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