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タイプJ  作者: 涼森巳王(東堂薫)
四章 フューチャー

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四章1-1

 1



 長いことフリーズしていたらしかった。


 ジェイドが気づいたとき、その場にドクはいなかった。

 EDとパールは、目を見ひらいたまま静止している。その姿は残酷なほど、真実をさらしていた。我々は人ではない。ロボットであると……。


 人間なら——エンジェルなら、こんなふうに目をあけたまま、驚愕の表情を覆いかくそうと手をあげたままの姿勢で、何時間も立ちつくしていることなんてできない。


 人間なら、お手伝いロボットを組みたてるのと同じ方法で、自分を増やすことなんてできない。


 サポーターと自分たちの違いは、頭のなかに性格づけするプログラムがあるかないか、それだけの違いだ。


 そんな単純なことに、ジェイドは今さらながら気づいた。


(ウソだ……おれたちが、あんな鉄のかたまりと同じだなんて。おれがアンバーを愛したことも、エンジェルに惹かれることも、たったいま、こうして涙を流すことも、全部……全部、そう作動するように造られているだけだなんて。この心がみんな、作り物……だなんて)


 涙が止まらない。

 こんなに涙を流したら、オイルが不足して、関節の動きが固くなってしまう。

 事故のあとの、こわれかけたエヴァンみたいに——


 そう考えて、むしょうにおかしくなった。笑いたくもないのに、笑いが抑えられない。感情パラメータの数値が、メチャクチャだ。

 ジェイドは笑いながら泣いて、泣きながら笑った。



 ——君には、ほんとに、すまなく思う。ゆるしてくれ。ジェイド。



 あのエヴァンのメッセージの意味は、こういうことだったのかもしれない。


(エヴァン。君はスゴイやつだったよ。自分がロボットだと知って、それでもヘコタレなかったんだもんな。いったい、君はいつ、この事実を知ったんだろう? 七十年より前なことは、たしかだが、もっと前から知ってたんだろうか? 何百年……何千年も前から? 誰にも相談できず、この過酷な事実を自分一人の胸にしまいこんでいたんだろうか?)


 そう考え、ジェイドはゾッとした。

 もし自分が同じ立場だったら、とっくに自分自身を永久停止してしまっていただろう。

 秘密の重みに耐えかねて……。


(そうだ。おれだって落ちこんでる場合じゃない。アンバーを殺した犯人を見つけるっていう目的が、おれにはある。この思いが作りもの? それだっていい。おれがそうしたいんだから。したいようにするだけだ)


 決心がつくと、雨だれがとびはねるように乱れていた感情パラメータの数値がもどった。


 まわりにドクとエンジェルの姿がない。

 ジェイド、パール、EDだけが廊下のまんなかにつったっている。

 ジェイドはEDとパールを交互にゆすった。


「おい、エド? しっかりしろよ。パール? おれはドクを探しにいくよ」


 EDはジェイドにゆすられるまま、頭をガクガクさせている。なかなか機能を回復させない。


 パールはすぐに動きだした。

 が、その顔に気持ち悪いほど晴れやかな笑みを浮かべた。

 ジェイドは一瞬、パールのAIが破綻してしまったのかと思った。


「ジェイド。わたし、飲みすぎたみたいね。フリーズしてたでしょ? イヤだ。調整機に入らなくちゃ」


「パール?」


「へえ、EDも酔っぱらっちゃったの? 研究所のなかを調べるって言ってたくせに。だらしないのね——って、人のこと言えないわね。ごめんね。ジェイド。計画が台なしね」


 パールは昨夜のパーティーのあと、自分たちが酔いつぶれてしまったと思っているようだ。

 そのあとの記憶をデリートしたのだ。

 それを記憶していることが、自分のAIの正常な働きをそこなう有害な事実であると認識して。


 ジェイドはパールが消した記憶を、あえて、つきつけるようなマネはできなかった。


「……そうだね。調整ルームに行ったらいいよ」

「じゃあ、さきに行くわ。ごめんなさい」


 パールが調整ルームのなかへ入っていくのを見送る。そして、ふたたびEDをゆすった。


「ED。あんたも忘れたのか? なあ? エド」


 パチリと、EDがまばたきして動きだす。


「い……や。忘れてはいない。ただ、少し……いや、かなり、痛手が深かったので……」


 気どり屋のEDが、あげかけたままだった両手で頭をかかえ、ふらふらとよろめく。


 ジェイドはEDを支えた。


「誰だってそうだよ。でも、あんたは強いんだ。この打撃を乗りこえられる。エヴァンやドクだって耐えたことなんだから」


「そう……だな。しかし……」


「わかるよ。おれだってショックだ。だけど、あんたは知りたくないか? おれたちが“人”の手によって作られたロボットだって言うなら、なんのために人間はおれたちを作ったのか? おれたちを作った人間は、どこに消えたのか? おれたちだけを残して、この星から出ていったのか? どうして? なんの目的で? 気になるだろ?」


 この説得は、EDにはひじょうに効果があった。へたななぐさめより、EDの知的探究心をそそったのだ。EDのAIが急速に、その関心に向けて回転するのがわかる。


「たしかに、そうだな。我々を作った神とはバイオボディの人間だった。だが、現在、この惑星にいる神はエンジェルだけだと、ドクは言った。ほかの神たちは、どこかへ雲隠れしたことになる。それも、何億年も前にだ。生命エネルギーから概算すると、エンジェルの寿命は百年かそこらだろう。エンジェルは我々を作った神ではない。エンジェルは神の遺伝子を継ぐ者だと、ドクも言った。よかろう。ドクに詳細を聞きに行こう」


「もしかしたら、トリッキーがぬけきらなくて、また調整機に入ったのかもしれないな」


 だが、調整ルームにドクはいなかった。


 ならんだ数台の一つに、パールが入っていただけだ。パールの調整は二時間後に終了するようにセットされていた。パールをそのままにして、ほかの部屋を探してみる。

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