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タイプJ  作者: 涼森巳王(東堂薫)
二章 チェイサー

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22/80

二章3-1

 3



 青白い月を背景に、それは全身がまぶしく、きらめいていた。光のなかで揺れるシャンデリアのようだ。

 豪華なガラスの翼が、ジェイドの視界いっぱいに広がっている。


「ED——!」


 EDは空中を舞いながら、クリスタルの長槍ながやりを、ジェイドに向けてつきだしてきた。

 ころがって、ジェイドがよけると、すかさず、槍をよこになぎはらう。さっきまでジェイドがいた場所に着地した。


 ジェイドは左腕で槍をうけて、とびおきた。槍にふれた瞬間、左腕が二の腕までスパークし動かなくなった。外傷はどこにもないが、配線を絶たれたように、左肩からさきの感覚がない。


「ED! なんのつもりだ。やめてくれ!」


 EDは答えない。

 冷静な目をして、槍をかまえなおす。

 EDの冷たい目を見て、ジェイドは殺されると思った。


(まさか、これまでのことも全部、EDが?)


 でも、EDはキューブシティーの住人ではない。

 EDが出入りすれば、キューブシティーのマザーコンピューターに記録が残るはず。


 その点は謎だが、マーブル殺しとディスクの破壊に関しては不可能ではない。


 EDはマーブルの部屋に自由に出入りできた。マーブルの所持品から、エヴァンのキーを持ちだすことができた。

 水泳の得意なEDなら、エヴァンのキャンプで別れたあと、いちはやくマーブルの部屋にかけつけ、ジェイドたちがやってくる前に、マーブルを殺すこともできた。


 あの場でフリーズしていたことだって、意識的にシステム処理メモリの容量以上の働きをAIにさせたのかもしれない。システムメモリをパンクさせて作りだした状態だったのなら……。


 そう考えて、ジェイドは恐ろしくなった。

 だが、EDの口から出たのは、思いもよらない言葉だ。


「マーブルを殺したのは、おまえだな?」


 あまりに突飛な言葉だったので、ジェイドは返答につまった。


 EDの目がするどく光る。

 危険を感じて、ジェイドはとびすさった。


「待ってくれ! なんで、おれがマーブルを殺すんだ。第一、マーブルが殺されたのは、おれたちがまだ洞くつにいるときだったじゃないか」


「理由など、私が知るものか。洞くつにいた時間のことなら、おまえは私より、かなりあとになってから、あの場所に来た」


 EDは続ける。


「私がウォーターシティーをでたあと、マーブルの部屋に行き、彼女を殺したのかもしれない。おまえがシティをでたとき、マーブルが生きていたというのは、おまえの言いぶんにすぎない」


 そう言って、本気でジェイドをつき殺す勢いで突進してくる。


 EDの翼は、ただの飾りではなかった。

 羽の先端からとりいれた空気を、ジェット噴射のようにフレームの各所から吹きだすことによって、空中を飛行することができた。

 水中を泳げるのも、この機能のせいだろう。水中の場合は空気のかわりに、水を吸いこんで押しだしているのだ。羽の向きを変えることで、進行方向を自在に変更できるらしい。

 やはり、Eタイプは機械工学にかけては、他の追随ついずいをゆるさない。


 ジェイドは後方にとびすさったが、EDのほうが速かった。

 EDの槍がジェイドの胸をつくと、青い電光が発した。ジェイドは胸から下のボディの力が、ガクンとぬけるのを感じた。

 たおれたところを、EDがジェイドの胸に足をかけて押さえる。

 喉もとに槍がつきつけられた。


「待ってくれ! ほんとに、おれじゃない。マーブルを殺したのがおれなら、アンバーを殺したのも、おれってことになるじゃないか。なんで、おれが大切な伴侶を殺さなくちゃならないんだ。あんたの言うことは、むちゃくちゃだよ!」


「別れ話がもつれて暴力をふるったのかもしれないだろう? おまえは私をなぐった。他人に対して暴力をふるうことができる人間など、ほかにいるわけがない」


 ジェイドはショックだった。

 EDの言うことは当たっている。

 他人を傷つけることのできる人間は存在しない。そんなふうに、最初からプログラムされているのだから。

 それができるのは、ジェイドのような、きわめてまれなケースだけだ。


 社会に対して存在悪だとみなされれば廃棄処分されるのだから、完全に回路の狂った者のしわざではない。

 犯人は通常まったく正常に見える、ごくふつうの人間なのだ。

 そんな人間、もしかしたら、世界中さがしたって、ジェイドしかいないかもしれない。


「そんな……そんなはずない。だって、おれが帰ったときには、アンバーはもう……」

「あまりにツライ事実だから、記憶をデリートしたのかもしれない」

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