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涼 と 香 と 大事な約束


「た、食べていい……ッ!?」


 全員がテーブルに着くまで待つという理性はあった涼だったが、香と白凪が着いた時点でそれも吹き飛んだらしい。


 目を輝かせながら訊ねてくる涼に、湊は「どうぞ召し上がれ」と促した。

 香と白凪の二人も、「食べていいよ」と笑顔で促す。


「いただきます……ッ!」


 つまようじを手に、唐揚げの山の一つに突き刺す。そしてそれを口に運んだ。


 サク。ぷり。じゅわ。

 揚げたての衣の軽やかな歯触りと、ぷりっぷりの肉。噛みしめれば溢れてくる肉の味と脂の旨み。


 これまで涼が食べてきた中でもトップに入る味だ。

 溢れてくる肉の味は、幸せ同然のものであった。


「りょ、涼の顔が……さっき以上に輝いてやがる……ッ!」


 香が大げさに自分の顔を覆っている――と思いきや、湊や白凪も眩しそうにしているので、本当に輝いているのかもしれない。

 まぁその程度のことは、唐揚げの美味しさに比べたら些細なことなので、涼は二個目の唐揚げにつまようじを刺すのだった。




 涼の横で香も唐揚げを一つ口に運ぶ。

 軽く焼いたものの時点で相当だったが、この唐揚げも相当だ。

 もちろん、調理をした湊の腕も良いのだろう。


「普段食べてるのとは段違いだな……」


 ダンジョン産の肉や食材のすべてがこれほどとは思っていないが、それでも驚かずにはいられない。


「なぁ涼」

「なに?」


 声を掛けると、涼は顔を輝かせたままこちらに向く。


「マジで眩しいな。どうなってんだその顔」

「そうなの?」


 本人は自覚がないらしい。

 ともあれ、顔の輝きは本題には関係ない。


 香は、すごく気になる輝く顔のことはわきへとよけて訊ねた。


「ここに来る前にも聞いた時は、高級店のすごい肉とかに関して――興味はあるけどがっつくほどじゃないと言っていたな? 今はどうだ?」

「…………」


 香の問いに、涼の顔の輝きが落ち着き、口元に運び掛けていた唐揚げに目を落とす。


「お前はさ、高級店のすごい肉ってやつを知らなかったんだ。

 だから『すごい肉』と聞いても、自分の想像の範囲でのすごい美味しさしか想像できなかったワケだな。だからどうしても興味が薄かった。無理してまで食べようとは思えなかったワケだ。

 だが、実際に『すごい肉』を食ったら、少しは価値観変わったんじゃないのか?」

「…………」


 涼は香の言葉を聞きながら、つまようじに刺さっていた唐揚げを口に放り込み、真面目な顔を香へと向ける。顔を激しく輝かせながら。


「そうかもしれない。今は、高級なお肉がどんな味なのか、すごい気になってる」


 その言葉を聞いて、香は胸中でガッツポーズを取った。


「なら、俺から言えるのはいつものプロポーズだけだ。涼――一緒に、配信やらね?」

「言い方」


 一瞬にして顔の輝きを失うくらいイヤな言い方だったようだ。

 だが、かなり真面目な顔をして悩んでいる。


 難しい顔をして悩み出した涼を横目に、湊が香に訊ねた。


「二人ってさ、学校で一緒にいる時、女の子たちに騒がれない?」

「否定はしない。面倒だから無視してるコトが多いけどな~」

「気安いやりとりもそうですが、あなたの言葉選びも拍車を掛けているのでは? わざとやってます?」


 どこか意地悪そうな顔で可愛く訊ねてくる湊はともかく、白凪はどことなく前のめり感がある。

 もしかしたら、何か琴線に触れたのかもしれないが、香は気にしないことにした。


 そんなやりとりをしていると、涼はゆっくりと顔を上げる。


「香」

「ん?」

「ボク、喋るのは苦手だし、面白いコトも言えないよ?」

「お前が普段のダンジョン探索でやってるコトを配信用にアレンジすりゃあ、それなりに見て貰えるよ」

「それにダンジョン配信ってよく分かってないし」

「その辺は教えるよ。それに、教えたがってそうなのもいるしな」


 香が顎で示す先。

 湊が目を輝かせながら、ちょっと前のめりになっている。

 声には出してないが、「配信やろ! 一緒にやろ!」という顔だ。


「最後に、これはすごい大きい話なんだけど」

「おう。なんだ?」

「美味しい鶏肉、絶対に食べられるんだよね?」

「儲け次第だな。いや儲けなくても出来そうな手段はいくつかあるけど。

 何にせよ、絶対はない。ただ上手くいけば食えるのは間違いない」


 そこまで告げてから、香はニヤりと笑う。


「そして俺は可能な限り上手くやってやると約束しよう」

「香、よく約束やぶるじゃん」

「聞こえねぇなぁ」


 呆れたような涼の視線に、ニヤケた笑みを返す香。

 そんな香を見ながら、涼は小さく息を吐いた。


「まぁそれでも――大事な約束を破ったコトはないしね」


 涼は香へと手を差し出す。


「上手く配信活動やって美味しい鶏肉を食べさせてくれる――この約束は、大事な約束として扱ってくれるんでしょ? 信じるよ」

「おう。信じろ。大事な約束だ。食わせてやるよ」


 香はその手を握り返すと、力強くうなずいた。


 それを見ながらなにやら可愛くガッツポーズをしている湊。

 さらにその横にいた白凪は――なぜか手を合わせて二人を拝んでいた。


 香は敢えて白凪には触れず、涼に告げる。


「作戦会議や細かい説明は後日な」

「わかった」


 そんなワケで、この話はここで区切りだ。


「ほれ、真面目な話は終わりだ。食っていいぞ」

「うん!」


 涼は、顔を輝かせながら唐揚げを食べるのを再開する。

 そんな涼へ、湊が飛びつくように提案した。 


「涼くんがやる気なら、コラボしましょコラボ!」

「コラボ?」


 頬袋をパンパンにしているハムスターのような状態の涼が、首を傾げる。


「それはマネジャーストップですね」


 即座に香が待ったを掛けた。


「そもそもコイツは配信もよく分かってないんです。PV増えない内容でも構わないから、まずは慣れるところからやっていって貰いたいんですよ」

「ぶーぶー」

「ブーイングされてもなぁ……」


 ほっぺたを膨らましてわざとらしい仕草で文句を示す湊に、香は頭を掻く。


「そもそも事務所所属でそこそこ有名な大角ディアが、無名の駆け出し配信者とのコラボってのは時期尚早ですって。

 いずれはともかく、今はまだ無理ですよ。でしょう? 白凪さん」

「ええ、香さんの言う通りですね」

「むぅ……白凪さんにまで言われちゃうとダメだよねー……。

 モンスターのお肉でもためらわず食べてくれて素直にリアクションしてくれるのはすごい助かるんだけど」

「言いたいコトは分かりますが……」


 白凪も難色を示せば、さすがに湊も引き下がる。


「まぁ配信関係なく、試食とか付き合ってくれるとうれしいな。ね、涼くん?」

「え? なんか言った?」

「どんだけ唐揚げに夢中なんだよ」

「今後も機会があれば試食付き合って欲しいなって。鳥以外の時も」

「可能な限り鳥がいいけど、美味しいモノなら駆けつける」

「白凪さん的にはいいんですかこれ?」

「まぁ涼さんが良いのでしたら」


 とりあえず、(ディア)から涼への呼び方は『涼ちゃん』にするようにということと、それに付随するカバーストーリーを二人に伝えておこうと思う香と白凪だった。


 なお涼は教えてもらっても秒で忘れる模様。

 必要な時に思い出すので問題ないとは本人の談。

 信用できる言葉かどうかは、香をもってしても未知数である。



【Idle Talk】

 なんか感動的に美味しいと輝く様子。理由、原因、因果、由来など諸々の一切が不明。もうそういうものと割り切ろう。

 そして白凪さんは、香の顔は観賞用として割り切ろうと決めた。だからもっと涼さんと絡んで欲しいらしい。


 あと出番の無かったコカトリスの蛇尻尾は、毒抜きをしたモノを、蒲焼きにして、ディアの所属事務所ルベライト・スタジオの面々が美味しく頂きました。


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