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涼 と ゲスト と イレギュラー


「お説教みたくなっちゃってて申し訳ないですが――チキンの中で、これから探索者やろうって人は、事前の勉強と準備を怠るようなコトはしないでくださいね」


:これ見ちゃうとな

:気を付ける

:探索者じゃなくても気を付けたくなる光景だわ

:後先考えずにイキるってのは良いコトじゃねーわ


 ドローンに向けてそう告げてから、涼は打ちひしがれながらトボトボと追いかけてくる二人を一瞥する。


「ちょっと追いつめすぎましたかね?」

「いや、いい薬だよ。希望は別れる前に見せればいいしよ」

「しかし、このレベルの感覚で探索してる奴が他にいるのかと思うとゾッとしない話だよなぁ」


 釜瀬は気にするなと言い、守は困ったように肩を竦めた。


「ただまぁ、四国の保護者なんて二つ名を付けられたオレからすると、だ――それで死者が増えてダンジョンと探索者のイメージが悪化したりすると、涼みたいに啓蒙してくれているやつに悪い気がするんだよな」


 不勉強な初心者が死ぬことを想像して顔を顰める釜瀬だったが、それに対して、守が皮肉と真面目を半分ずつにしたような顔を向けて告げる。


「気にしすぎだぜ釜瀬さんよ。人間の腕は二本しかねぇし、届く範囲にだって限界がある。過去のせいですべての奴に手を伸ばしたくなってるんだろうが、そんなのはハナから無理なんだ。

 人間一人に出来ることなんざ、この身体一つで出来るところまでなんだよ。

 おたくは自己犠牲も気にしねぇタイプだろうが、おたくが死んだ結果、手を伸ばせる範囲にいる奴を救えなくなる可能性ってのもある。そのコトは頭の片隅にでも入れておけよ」

「耳が痛い忠告だよ。いや皮肉抜きでさ」


 陽気な笑顔でうなずく釜瀬だが、その表情には陰が濃く見えた。

 涼はそれを気のせいかな――と首を傾げる。


 とはいえ、守と釜瀬のやりとりに首も口も挟む気のない涼は、背後の二人を見た。


 だいぶ意気消沈はしているようだが、ちゃんとついてきているので、問題はないだろう。


 とりあえず、守と釜瀬が真面目なやりとりを初めてしまったし、後ろ二人は(だんま)りなので――間を持たせる為、涼はドローンへと話しかけようとした。


 その時だ。


「う、うわぁぁあああ……ッ!!」

「入り口とは逆へ逃げろ! とにかく距離を取れ!!」


 遠くから――だが、間違いなく入り口の方から大声が聞こえてきた。


「涼、釜瀬さん」

「はい」

「おうよ」


 そうして、守と釜瀬が走り出した。


:うお?悲鳴!?

:イレギュラーか?

:マジで涼ちゃんトラブルに愛されすぎでは?

:三人のスイッチが一瞬で切り替わる感じ良い・・・

:入り口で悲鳴……また新人のやらかしか?

:緊急なのは分かるんだけどグッとくるよな


 涼は少し遅れて走り出しつつ、ドローンへと声を掛ける。


「チキンのみなさん、すみません。

 緊急事態っぽいので配信よりも対応を優先します。

 モカP! 最悪の場合の情報収集をよろしく!」


 涼がそう告げて速度を上げ出すと、横にドローンが併走しつつコメント欄を表示した。


:《モカP》まかせとけ!

:行ってこい涼ちん!

:こういう時の涼ちゃんねるの心強さよ

:《モカP》入り口に近いようだからエントランスに香を待機させとく

:《モカP》戦闘で使うのは厳しいがそれ以外なら使えるだろ?

:涼モカ香の三人体制!


「ありがとう。カメラ通して状況確認したら、香とモカPの判断で立ち回りは任せる」


:《モカP》了解


「あ、あの! オレたちは……」


 ドローンとの簡単なやりとりの最中に、慌てて追いかけてきた二人が不安そうに訊ねてくる。


 それに対して、涼はいつも通りの冷静で淡々とした様子で告げた。


「お二人は他のモンスターに気をつけつつ緊急事態の範囲外で待機。

 それと緊急時までお守りは出来ないので、待機中のトラブルは自分たちで何とかしてください」


:悲壮なツラしちゃってまぁ…

:自分たちの一番のやらかしに気づいちゃったからな

:探索者で一旗揚げたいのに探索業が続けられるかわからなくなったもんなぁ・・・

:自業自得ではあるんだが気持ちは分かるんだよな

:あと実力が足りないと自覚したからモンスターが怖いんだろうな

:ムカデにダメージ通せなかったんだから余計にな


 コメント欄が好き勝手言っている感じだが、涼も(おおむ)ね似たような感想だ。


(トラブル解消後は、ちゃんとフォローしておいた方がよさそうだよね、これ……。唐揚げをプレゼントしたら立ち直れるかな? いやでもさすがに唐揚げをあげるには並々ならぬ覚悟がいるけど)


 自分が貰ったなら即座に立ち直れるプレゼントだが、他人はどうか分からない。

 ともあれ、今は彼らに構っている時間はない。


 涼が走る速度を上げて、前を行く二人に追いつくタイミングで、守が誰かに声を掛けた。


「よう。そこ行く若人(わこうど)たちよ。そんなに慌ててどうしちまったんでい」

「なんで変な口調で話しかけてんだ?」


 横でボソっと釜瀬がツッコミを入れているが、当の守は気にせず、そしてこちらへと逃げてくる四人パーティは気にしていないようだ。


「あ、あの! 入り口にドラゴンっぽいのがいて!」

「ドラゴンだぁ?」


 四人パーティの一人のその言葉に、守は目を(すが)めた。

 涼と釜瀬も即座にこのダンジョンに出てくるだろうドラゴンっぽいと言われるようなモンスターを脳内で検索する。


「このダンジョンのドラゴンっていやぁ、フロア3以降の夏の森に出てくるアレだよな。緑色のやつ。フォレストドラゴン。

 ドラゴンと呼ばれちゃいるが、実際は背中に木の生えたでっかい首長トカゲみたいなの」


 即座に心当たりにたどり着いた守がそう口にすると、四人パーティはうなずいた。


「それです! フォレストドラゴンは夏仕様って感じで緑ベースの色合いをしてますけど、入り口にいるのは春仕様って感じでピンクベースの色合いをしてるんです!」


 その言葉に涼たち三人は顔を見合わせた。


「フォレストの希少種か? あるいはドレイクみたいな変異種か」

「そもそも原種はフロア3以降のモンスターだろ? ここにいる時点で完全にイレギュラーだっての」


:最近上層フロアで下層フロアのモンスターと遭遇するイレギュラー多くね?

:涼ちゃんねるだからな

:まぁ涼ちんだしなぁ

:三人の共闘が見たいとは思ったけどこういう緊急戦闘はのーさんきゅー。。。

:でもこの三人が共闘するのってこういう状況じゃないとあり得ないよな

:視聴者的にはジレンマ


「どっちにしろ入り口に陣取られていては帰れません。サクっと倒して帰りましょうか」


 このメンツなら簡単に負けることはないでしょう――と涼が、暗に告げると、守と釜瀬は仕方がないという顔をして笑った。


「うちのパーティ連中も配信見てるだろうし、暇なら来てくれや。倒せなかった場合の保険がほしいしよ」

「ならその保険を無駄にするように勝ちたいもんだな」


:仕方ねぇなぁ

:最低でも俺たちが行くまでは持たせろよ守

:釜瀬さん涼ちゃんうちの守がお世話をかけます

:うわ本当に見てたっぽい

:シーカーズ・テイル出動案件なん?

:いや保険だって言ってるだろ


「た、戦うんですか……!? あれと……!?」

「そりゃあ入り口陣取られてんだ。戦わないと出られないし、何かあっても救援が入って来れないしよ」


 驚く四人組に対して守がうなずく。


「自分たちはフォレストドラゴンにも勝てないのですが……」

「それならそれで構いません。ちょっと離れててください」


 申し訳なさそうな彼らに、涼は気にするなと小さく笑う。


「ああ、そうだ。お前さんたち。

 この道をまっすぐ夏の森方面へ行ったところに、オレが面倒を見ている新人がいてな。

 正直ムカデも倒せないぺーぺーなんだ。悪いんだが、コトが終わるまで一緒に居てやってくれないか? 生意気で阿呆な連中だから、迷惑をかけるようなら見捨てても構わない」


 そして、そんな彼らに釜瀬が仕事を頼む。


「わかりました」


 それだけで多少は、彼ら四人組の戦えないという罪悪感や無力感が軽減されるだろう。


「それじゃあ行こうか、涼。鳴鐘さん」

「はい」

「四国の保護者、釜瀬の本当の実力ってやつを、オレは見てぇなぁ」

「見せなきゃ死ぬような相手ならイヤでも見せなきゃ、でしょ?」


:なんかすごい贅沢な共闘を見れる?

:フォレストドラゴンの変異ならこの三人で大丈夫くない?

:守を助けに行く理由ある?

:一応、行ってあげてください


「ボクだけ場違いでは?」

「まさか」

「それはない」


:涼ちゃん素で言ってそう

:ていうか二つ名持ちと肩を並べても意外と見劣りしないな涼

:ベテランの風格みたいのは二人にひけを取らないからなー


「あれですね」

「本当にピンク色だ……いや桜色か?」

「マジで入り口になってる鳥居の前を陣取ってんな」

「原種よりも一回り、二回り、大きいな」


 見た目はとぼけた雰囲気のトカゲと首長竜の中間のような姿。

 鱗のガサガサ感は薄く、つるりとしたボディのモンスターだ。光沢のある桜色したボディは美しく見える。


 そのサイズは、この中で一番身長の高い守すら一口でペロリとできそうなほど。


 なにより特徴的なのはその背中。

 原種であるフォレストドラゴンが鮮やかな緑葉の木を背負っているのと同様に、このイレギュラーは満開の大きな桜の木を背負っている。


 いや、背中から生やしている――が正しいか。


 背中の木のせいで、ただでさえ大きなトカゲがより大きく見える。


「ブロッサムドラゴンとでも呼ぶか、こいつ」

「希少種や変異種の類ならむしろ固有名詞の方がよくないか?」

「なら桜鱗樹王(おうりんじゅおう)、ブロシアとかですかね?」


:のんきだな

:これを目の前に余裕あるのすごいって

:ブロッサムドラゴン?

:おーりんじゅおーってどういう字だ?

:《モカP》桜鱗樹王ってところじゃないか 涼のセンスだと

:さすがモカP

:モカP有能

:誰かデータベース調べてきてー


「とりあえず暫定ブロシアで」

「了解」

「わかりました」


 やりとりをしながらも、三人はすでに臨戦態勢だ。

 ブロシアの方も、こちらを警戒しているのが見て取れる。


「ところで」

「どうした涼ちゃん? 何か気になるコトでも?」

「疑問や課題が見えたならすぐに言ってくれ。今ならまだ退けそうだしな」

「あ。戦況に関わるような大した内容じゃないんですけど」


 そう前置いてから、涼はそれを口にした。


「ドラゴンというかトカゲのお肉って美味しいんですかね? 具体的にはブロシアって美味しいのかな、みたいな?

 いや鶏肉よりは劣るのは間違いないんでしょうけど」


 涼のその言葉に、守と釜瀬は思わず吹き出す。

 そして、コメント欄も呆れと笑いの言葉が乱舞するのだった。



【Idle Talk】


「さっきの三人――鳴鐘さんに、涼ちゃん……って」

「シーカーズ・テイルと涼ちゃんねるの人かな?」

「もう一人も四国の方の有名な人じゃなかった?」

「もしかして私たちすごい人たちに助けられた??」

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