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涼 と 探索 と 通常配信


「チキンのみなさん、こんスニ。

 ええっと……今日はダンジョン探索の通常配信です」


:こんスニ~!

:kon-suni!

:通常配信ときた

:ほんとにござるか~?


「信用されてないコメントがすっごい流れてくる……」


:それはそう

:先月の二回を思い返してもろて


「いやまぁそれを言われると……」


 実際問題、先月の探索配信が二回連続で、エンドリーパーとメイズクリーナーの遭遇というアクシデントに見舞われたのだ。


 チキンたちの不信に満ちたコメントも、仕方ないといえば仕方ないかもしれない。


「とりあえず、今日は武蔵国府史跡ダンジョンです。

 またか――と思われるかもしれませんが、行ってないエリアも結構あるし、さすがにドレイクみたいなのとはそうそう出くわさないだろう……みたいな部分込みでここです」


:フラグかな?

:いやまぁこれをフラグとか疑いだすとどこにも行けんけどもw

:ドレイク倒したばっかりだしはぐれフラグはないとは思うよ、うん

:だがエンドリーパーが許すかな?

:↑許すだろアイツ涼ちゃん推しだし

:だがメイズクリーナーが許すかな?

:↑許す許さん以前に仕事中のクリーナーさんたちとは基本会えんだろ


「二連続でレアなシチュエーションに遭遇した自分が言うのもなんですけど、あんなコトそう何度もあってたまるものか……とは思ってますよ?」


:それはそう

:ドレイク入れるとほぼ三連続だけどな

:Do you have any tips for encountering trouble?


「海外チキンさん。トラブルと遭遇するのにコツとかはありませんから。正気に戻ってください」


 自分が視聴者からどう認識されているかの確認を終えたところで、涼はエントランスから階段を下りて、町エリアへと向かう。


「このダンジョンの真のエントランスってこの町エリアかもしれませんよね」


:確かにいろんなダンジョンフロアに通じてるしな

:モンスターも出ないしその通りかも


「さて、今日は久々――いやガッカリ寝顔配信は先月もしてるんだけど……なんか久々に感じる寝顔配信です」


:ガッカリ寝顔配信は直後にそれを越えるインパクトがありすぎて

:エンドリーパーに全部もってかれたもんなー笑


「今回はレイク・コンソメのある東側の商屋から行く草原エリアではなく、その逆方面。

 町の西側にある貧乏長屋っぽい建物から行ける、海岸エリアに行こうと思います。

 そこにいるモンスターの寝顔をとりつつ、食材採取とかもできたらな――と思っています」


 涼は説明し、コメントを拾いながら、そこへと向かっていく。


「では転移門をくぐりますので転移酔いにご注意を」


 以前、前振り無しに転移門をくぐって視聴者を酔わせてしまったので、今回はちゃんと注意をする。


 転移門によって移動した先――そこはちょっとした崖の上だった。


 眼下は確かに海岸が広がっている。

 海と岩が点在する砂浜と松林。どこか荒涼としており、風は冷たく、波は荒々しい。


 砂浜と松林の境目は一段高くなっており先へ進むほどに段差が高くなっているようだ。その段差の縁には一抱えほどの岩が並んで境界線をつくっている。


 日本の海岸――特に、古い時代の日本海の海岸を思わせるような雰囲気の場所だ。


 涼はその崖から伸びる砂浜への坂道を降りながら、ドローンへと話しかける。


「さて、砂浜にはゲンペイクラブという大きなカニのモンスターいるのですが――堅くて倒すのが大変なモンスターです。

 カニなのでちょっと食べてみたくはありますが、今回はスルーします」


:堅い敵は涼ちゃんの天敵だもんなぁ

:スニークキルするにもカニみたいに全身堅いと大変か

:食べてみたいと出てくるあたり完全にディアちゃんに毒されてて草


「ここは砂浜を少し進んだところで、道が分岐します。

 そのまま砂浜を進んだ場合と、分岐点で松林方面へ進んだ場合でだいぶ雰囲気が変わるエリアなんですよね。今回は、松林方面へと進んでいきます。

 では、しばらくコメント欄は閉じますね」


 砂浜まで降りたところで、涼はスニークスキルを発動。

 ドローン共々、気配を希薄化させて進み出す。


 左の一番長い足の先端から右の一番長い足の先端までが、だいたい涼の身長と同じくらいの大きなカニ――武者の鎧を思わせる色合いと模様のゲンペイクラブに気づかれることなく、するすると進んでいく。


:OH! fantastic!!

:RYO was a ninjya after all!!!!!!!!

:そうか海外チキンたちは涼ちんのスニークみるの初めてか

:前回が死にかけダンジョンだったからスニークしなかったしな

:huuuuuu!!! ninjya!!!!!!

:忍者忍者うるせーなぁww

:《翻鶏》海外ニキたちのコメは翻訳必要なさそうだなw

:海外ニキたちは忍者やサムライ大好きだもんな笑


 そのまま戦闘が発生することなく、分岐点のような場所にたどり着いた。


「それじゃあここから松林エリアへと入っていきたいと思います」


:相変わらず鮮やかに目的地へ向かっていくな

:戦闘しない時のスピード感がクセになる


 涼はそこでスニークスキルを掛け直し、松林へと進んでいく。


:なんだあの大きいキノコ

:エリンギが……細長い槍を持ってる?

:エリギンフェンサーだな 和風の森系ダンジョンでよく見る

:えりぎん?

:そうだぞエリンギではなく「エリギン」だぞ間違えるな

:そもそもエリンギなのに和風なのか?

:あれ?エリンギって元々どこキノコだ?


 つぶらな瞳に、とぼけた口元から長い舌を伸ばした、槍を片手に松林を歩くキノコ型モンスターだ。


:単体だと強くはないんだが仲間同士の連携がうまいんだよな

:囲まれると逃げ出すのが難しい相手ではある

:囲まれなくても連中とグループ単位で遭遇するだけで厄介

:とぼけた顔の割には結構強いのか

:まぁこのダンジョンにいる時点で最低でもシャクダと同じ危険度だ


 ちなみに実際のエリンギは地中海性気候地域が原産地だ。

 日本ではマイナーなキノコだったのだが、とあるミュージシャンがテレビ番組にて、最近ハマってるとポケットからエリンギを取り出してトークして以降、出荷量が増えたそうである。


:焼けば食える?

:背面から見るならともかく、正面から見るとなぁ……w

:顔あるもんな笑


 涼はそれらエリギンフェンサーたちの隙間を縫って、進んでいく。


「…………!」


 ふと、涼の表情が変わって岩陰に滑り込むように隠れた。


:どうした?

:なにかいたのか?


 岩陰から真剣な表情で周囲の様子を探り――それから、小さく息を吐いてから、小声でドローンに話しかける


「……すみません。気のせいだったようです。

 エリギンフェンサーに似た……だけど、エリンギとは違うキノコっぽいのが、槍じゃなくて長巻(ながまき)を携えたような……そんなモンスターが見えた気がして……」


:えらく具体的な

:実際いたのかも?

:エリンギの希少種?

:気にはなるけど積極的に関わりたくもないな希少種は

:心の片隅くらいには留めておいた方がいいかも


 涼は深呼吸をすると、気持ちを切り替える。


「とりあえず、帰りにもここを通るので、余裕があったらその時に調べてみましょうか。今は、目的地へと向かうのを優先します」


:それがいいと思う

:希少種は珍しいけど手強いからな

:ドレイクみたいな変異種ほどではないにしろ強いもんな

:そっかだから隠れたのか

:珍しい食べたい以前に手強いんなら隠れもするか

:そもそも涼ちんがジャイアントキリングするには暗殺技能の使用が必須だから隠れて気配を消してから本番だし


 コメント欄の盛り上がりをよそに、涼は松林エリアを抜け、竹林エリアへと入り込む。


「この竹林エリア……サボタイガーに、サーベルキャット、ホワイトファングという虎系のモンスターだけでなく、ジャイアントベアキャットという大型で凶暴なモンスターも徘徊しているので、今まで以上に慎重に素早くすり抜けます」


:ジャイアントベアキャット……熊なのか猫なのか

:虎系の多いエリアだから猫なんじゃない?

:熊だろうと猫だろうと大きいのは間違いなさそう

:サボタイガーは獣系じゃなくて物質系じゃなかったっけ?

:ガッカリタイガーここにもいるのか


 松林から竹林へと植生が変わっても、涼のやることは変わらない。


「あ、モカP。

 そっちのボクの背丈と同じくらいで、かなり太めの竹にはドローンを近づかせないで。猛将ダケっていう、竹型のトレントが擬態しているコトが多いから」


:強そうな虎系が多いってだけでも面倒そうなのにトレントいるのか

:トレントってなに?

:樹木そのものが動くようなモンスター

:森や林の中で木々に擬態して待ちかまえてるんだよ


「ただ猛将ダケの足下にはタケノコが生えてるから、あれはあれで気になるんだよね……」


:気にするところそれww

:ほらぁワブでディアちゃんが荒ぶりだした

:ゲンペイクラブの時点で荒ぶってたから今更だろ

:エリギンフェンサーにも荒ぶってたしな

:とりあえず食べられそうなら荒ぶるんだよディアちゃん

:涼ちゃんねる配信中はだいたい常に荒ぶるじゃんディア


 そうして、涼が竹林エリアを抜けると、今度は梅林が広がっている。


:松竹梅ときたか

:前二つほど鬱蒼とはしてないな

:むしろ花が咲いてるから綺麗

:よく見ると、満開、五分咲き、葉っぱだけ、実、枯れ木と、いろんな状態の梅が色々生えてるんだな


「ここはここで絶景スポットではあります。

 カニとジャイアントベアキャット以外のモンスターが色々と出現するエリアなんですけど……。

 猛将ダケが周囲から浮いてるのに我が物顔で擬態してるエリアでもあります」


 涼が指を指すと、確かに満開の梅に挟まれた真ん中に、太くて背の低い青竹が生えている。

 足下にタケノコもいくつか顔を出しているのも含めて、エリアの雰囲気にそぐわず、違和感がすごい。


:それはそれでどうなんだw

:気づけよ猛将ダケ笑

:大熊猫はいないのは救いだな

:あれ?大熊猫って確かパンダのコトじゃ

:つまりジャイアントベアキャットって……


「ここにしかいないモンスターとしては、梅型トレントのバイオージュですね。漢字で書くと、梅、翁、樹らしいです。

 そんなワケで花の咲いてない梅の木があったら、モカPは気をつけて。ただ綺麗な実をつけているので、あれが食べれるかどうかは気になります」


:食べれるかどうか気にしすぎ問題

:ディアちゃんのせいで涼ちんだいぶダン材ご飯スキーに


「このエリアを抜けたところにある畑エリアを目指します」


:畑?

:ダンジョンに畑あるの??


 そうして、涼はモンスターを完璧にかわしながら梅林を抜け、その畑の前までやってくる。


 畑の向こう側には池が見えており――その池と畑の間に、視聴者にも見覚えのあるモンスターがうろついていた。


「あれが今回の寝顔ターゲットです」


:寝顔ターゲットとかいうフレーズ

:いやぁまさかコレでくるか


 ネギの形をしたフレイルを持った、二足歩行する鴨型の鳥系モンスター。


「寝顔ついでに食料としても確保していきたいと思います」


 以前に涼が、その変異種と戦ったことがあるモンスターの原種。

 ネギ魔導が今回のターゲットだった。



【Idle Talk】

 竹林~梅林エリアにいるサボタイガーは、ほかのダンジョンに出てくるそれよりも少し凶暴。

 なぜなら、熟睡して本になってると、ほかの虎系モンスターや、ジャイアントベアキャットに踏まれるし、トレントたちの根っこに絡みつかれたり、そうでなくてもエリア内の地面は湿度が高くてページが縦目にたわんでしまい安眠できないのが不満で常にイライラしているのである。

 時々、何で自分はこのエリアにいるのだろうかという哲学をすることもある。あるいは自分という存在とはなどと哲学的自問自答もする。

 彼らは哲学するライオンならぬ哲学する虎であり、哲学書でもあるようだ。


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[気になる点] 哲学書のサボり虎ってテイムできないかな? [一言] 孟宗竹の筍は普通だけど、猛将竹は猛々しいらしい猛将だけに。 妄想竹だど麻薬成分が取れるのかな?
[良い点] 鶏肉成分を補給しなきゃね!
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