涼 と マハル と 優勝者
「アイエエエエエ!? ハルちゃん? ハルちゃん!? ナンデ!?」
サラサが奇声を上げて画面にかぶりつく。
「先週ハルちゃんとランチ一緒したくらい仲良しなのにッ!」
:うっそだろwwwww
:誰か知らないけど人狼だったんだ笑笑笑
:共演回数も多い月宮すら騙しきってたのか すごいなハル様
:決勝まで人狼が残ってて草
:しかも決勝も中盤まで正体明かさないの撮れ高分かりすぎててさすがすぎるw
「何となく知り合いな気がする感覚は間違いじゃなかったんだ……いやでも気づけなかったんだから、ボクの負けですね」
:共演経験どころか探索者として師匠に近いのに涼ちゃん
:涼すら最後まで逮捕に至れる確信がなかったのすごいよね
:この人って涼の弟子なの!?師匠にバレずにここまで来たの!?やっべぇww
:さすがマハル様 正体の明かしどころを弁えていらっしゃる!
「うわぁ……人狼を最後まで見抜けなかったのはちょっと悔しいぞ……」
「こんな本気で悔しそうなグレイは滅多に見えへんぞ。REVOの決勝や準決勝を僅差で負けた時とか、そういう時の顔や、これ」
:ディグにゃんが楽しそうだ
:ネタにできる負け方した人をからかう時のディグはイキイキしてるな
:ちなみにREVOってのはゲームの世界大会のこと。まぁ五輪みたいなのと思え。毎年やってるけど
:そのレベルの悔しがりなんだw
「皆さんが見抜けなかった要因、演技が上手かった以外にあります?」
頭を抱えているパネラー陣に津田が訊ねる。
「まず一つ。完全解禁して進んでるマハルさんを見て貰えば分かりますけど、メインウェポンがウォーハンマーなんですよ」
:あんな華奢なのにハンマー
:涼ちゃんから習ったペンペンペンをちゃんとやってるの偉い
:まぁ敵が弱すぎてペンでだいたい終わるしペンペンで確殺だから最後のペンほぼ無いけど
「つまり両手で構える重量武器なんですよね。だから片手剣の扱いに慣れてなかった。そこが素人っぽさに繋がっていたのが大きいかと。
ハンマーがメインなせいで、両手持ち武器へのスキル応用はできても、片手武器への応用はできなかったと思いますし」
「そうか。これが槍や大斧だったら、身体に染みついているハンマースキルのクセみたいなのが滲んでた可能性があったのか」
「はい。グレイさんの言う通りですね。だから片手剣にしたんだと思います」
:マハル様そこまで狙ってたのか
:クセをなくすために近い動きのできる武器を縛ったってコトか頭良いな
「それやとあれか。10フィート棒使っとったんも、同じような理由とちゃう?」
「ボクもそう思います。もう片方の手にフィート棒を持ってるせいで、咄嗟の両手持ちを封じつつ、持ち替えに手間取ったり何なりで素人っぽさを演出できるという発想があったのではないかと」
「それだったら、馴れないフィート棒を使うコトで意識をそっちに割きやすくして、カンを鈍らせようとしてた意味もあるかもですね」
「グレイさんの言うのも確かにありそうです」
:本当にスパイみたいに策士じゃん
:スパイ設定ただの死に設定じゃなかったんだな
「ハルちゃん、ど~~してよ~~! 先週月宮とランチ一緒したじゃん! そん時に出るよって教えてくれても良かったでしょ~~!! ハルちゃんってば~~!! 親友を騙すとか酷いよ~~!!」
「無茶苦茶言ってますねこの人」
「言わんやろふつう」
「言うワケがないんだよなぁ」
「友達なら余計言わないのでは?」
:月宮ステイ
:はちゃめちゃすぎる理論
:この暴走引き出す為に黙ってた説
:マハル様有能
:自分が人狼やるならサラサちゃんほど事前に明かしづらい相手はいないなw
:月宮無能
:落ち着け月宮
:すげぇ全方向からツッコミが飛んできてる笑
:パネラーからもコメントからもツッコミの嵐だww
「さてフィート棒ネキこと一千万本松マハルさんが人狼であるコトを明かしたコトで大盛り上がりですが、一方のすぎるネキの方はといいますと――」
流れを落ち着かせるような口調で津田がそう言うと、みんながすぎるネキが映るモニタへと意識を向ける。
「あ、最初の方に比べるとジェルラビにビックリしなくなってますね。ビッグスラッグやコウモリはダメみたいですが」
「ナメクジに関してはビジュアルが、コウモリに関しては急に上から来る動きにビビってるんやと思いますよ。そこばっかりはしゃーないんとちゃうかなぁ」
「武器を振る時に目を瞑らなくなってるのもいいですね。最初の頃は振り下ろす時に目を瞑ってましたし」
「うっぅ~~……ハルちゃ~~ん……」
:他はちゃんと見てコメントしてるのに月宮はさぁ
:なんで月宮だけこのテンションなん?
:一人だけ完全に失恋した日の夜なんよ
:未練ばかりが残る恋だよね
:知らん男と仲良く歩いていたのを目撃しちゃったかのようだ
:ドハマリしてた作品で推しが死んだ時もこのテンションじゃなかった?
:そんだけ好きだったのに見抜けなかったなんてあなたの恋心はそう程度だったのね!
:告白もしてないのに勝手に失恋してるタイプでは?
:ああ、ボクの方が先に好きだったのに的な?
:コメントで追撃するのやめてやれww
:非モテなよなよ男ムーブはやめてもろて
「……月宮は人狼だった親友を見抜けなかった女……」
「そういうゲームですしね」
「見抜かれちゃいけないんですってば」
「むしろ人狼上手な友人を褒めてもろて」
「なんか急に面倒な女ムーブはじまりましたね」
:涼ちゃん面倒な女扱いしてるwww
:いやまぁ実際面倒なコトにはなってない?
などとやっているうちに、マハルはゴールと書かれた扉の前にやってきている。
『ふっふっふっふ! 皆様ッ、この一千万本松マハル! ゴール前に辿り着きましてよ!』
:やっぱ速いかぁ
:馴れてる人の動きってすごいな
:改めて素人との差がハッキリを見えたのは良いかも
『そして、ここで私……こう宣言させて頂きますッ!』
:なんだ?
:どうした?
『私は私を逮捕致しますわッ! つまるところ、自首させて頂きます! そう、これはつまり、私はここでリタイア宣言でございますわ~!! お~ほっほっほっほっほっほ!』
口元に手の甲を当てて高笑いとともに、マハルははっきりと告げる。
『本来は素人ではない私がここにいるコト自体が大間違い。
正しく素人として奮闘し、ここまで勝ち上がって来られました初心者すぎる様に敬意を表すと共に、入賞そのモノも辞退させて頂きます!
あ、それと脱ぎ散らかした下着なんかは散らかし用に今日買ってきたやつなのでご心配なきよう!』
:姉御のカッコよすぎる宣言だ
:いいねぇ
:それでもいいから下着ください!
:さすが盛り上げ方を分かってる
『パネラーにいるラサちゃんや、涼様を騙し通せたコト自体が私にとっては大勲章の表彰状! とっておきたいとっておきを披露して、満足いく結果を得られました! な・の・で潔く去るコトで良い女を演出させて頂きます!』
:本当に潔くて草
:演出言うな笑
:自分で言っちゃうのは減点なんだよなぁw
:その潔さよし
『そんなワケで、潔くカッコよく明日からは誰もが振り向く女になれた私はクールに去りますわ~』
言い終えると、マハルは手をひらひらとさせながら、カメラの画面からフレームアウトしていった。
:ハンパねぇな
:マジでいなくなりやがった
「いやぁ、してやられましたね」
グレイの言葉に、涼もディグも津田もうなずいた。
「認めねぇ! 月宮の女が優勝じゃねーのは認めねぇぞ、こらー!」
:すごい
:ここに潔くもカッコ良くもない女がいる
:明日からは誰からも振り向かれない女になっちゃうじゃん
:ハル様はいつから月宮の女になったんよw
「暴走してる月宮さんは置いておくとして」
「置いてかないで涼ちゃん!?」
「なら早く戻ってきてください」
「……はい」
:よし落ち着いたな
:しわしわ電気ネズミみたいな顔でうなずいてる・・・
:涼ちゃんのクールダウンパワーすごいな
:冷静なツッコミモードの時の涼ちゃんのクールさすごい
:熱しやすい女を冷ます能力高い気がする
:料理が絡むと途端にその機能が停止するのが問題だけど
「涼ちゃんと月宮で漫才しとるうちに、そろそろすぎるちゃんゴールしそうやで?」
「漫才とかしてませんけど?」
:わりと不満げな顔してるな涼w
:漫才扱いしてほしくないのか笑
「涼ちゃんの不満はともかく、12番さんはゴール前のビッグスラッグたちを倒し終えましたね」
「途中で止まるコトなく無事に到着だね☆」
サラサの言葉通り12番は最後の扉を開き、ゴールの部屋へと入った。
「12番さんゴ~~~~ルッ!!
これにてッ、探索者初心者すぎる大会の優勝者が決定しましたッッッ!」
「おめでとうございます!」
:88888888
:おめでとう!
:すぎるネキおめー!!!
:パチパチパチパチ
ゴールと同時に、ファンファーレが鳴り響き、クラッカーが乱舞した。
完全に戸惑っているようだ。
「それでは、ヒーローインタビューと行きましょうか!」
津田がそう言うと、カメラがゴールに辿り着いた12番を移す。
スタジオを映すカメラがなくなったタイミングで、スタッフの偉い人とやりとりしていた香がパネラー席へと駆け寄ってきた。
「香?」
「津田さん、すみません。涼に緊急依頼が入りました」
「え?」
戸惑う津田に、グレイとサラサが即座に反応した。
「涼ちゃん、行って!」
「こっちは気にしないでいいから」
二人の言葉に涼はうなずき、椅子から飛び降りる。
「人手が必要やったら、控え室を覗いてくんもええんとちゃいます? まだ残っとる人狼もおるやろうし」
ディグの言葉に香は首を横に振る。
「そっちにもたぶん現場関係者がいるんで、依頼が行っているかと」
「どこで何があったか、あたしたちは聞いて平気?」
サラサに問われて、香は逡巡ののちにうなずいた。
「ルベライト・スタジオの事務所内に準はぐれモンスターが現れました」
「事務所内に現れたのにはぐれじゃなくて準……?」
「事務所の半分くらいがダンジョン領域に飲まれているようです」
「え?」
「は?」
さすがにサラサとグレイも変な声を出した。
「だから準はぐれか。エントランスから外には出てるけど、まだ領域の外には出てないんだ」
「そういうコトだな。涼、どこか寄ってくところはあるか?」
「大丈夫。でも、ここから電車だと結構距離ない?」
「そっちは大丈夫。さっきのプロ戦闘職ネキが車を回してくれる。乗り換えずに真っ直ぐ行けるなら車の方が速い」
「わかった」
涼がうなずいた時、サラサが待ったをかける。
「待って二人とも!」
「どうしました?」
「二人とも、あたしとグレイさんと、LinkerのID交換しとこう! なんかあったらすぐ連絡して! ここからだと時間かかるかもだけど、戦力が欲しいなら駆けつけるから!」
「確かに。必要な時に連絡とれた方がいいと思う」
一理ある――と涼と香はうなずくと、二人と連絡先を交換する。
「よし。それじゃあ津田さん、番組途中で申し訳ないんですけど」
「いや結構すごい状況っぽいから行ってください。そっち人命かかってそうだし、そっち優先で!」
「ありがとうございます」
涼と香は顔を見合わせてうなずき合うと、同時に走り出した。
「え? はや!? すご!? 知ってたはずなのに月宮の目玉飛び出そう!?」
「ダンジョン内かってレベルで走ってる……」
「椅子やケーブルみたいな障害物をすごいキレイに躱したり飛び越えたりしてるんやけど、あの二人あれで超人化してへんの……ッ!?」
「二人がそれくらいできるの知っててもリアルで見るとビビりますね……」
室内の障害物があるとは思えない速度だ。
そんな二人を見送っていると、番組ADがカンペを掲げる。
『マハルさんがフォローしてくれていますが、そろそろヒーローインタビュー延長限界のようです』
それを見、残った四人は力強くうなずきあった。
「カメラ戻してOKです」
津田の言葉に、スタジオスタッフたちは安堵したように、シミュレータにいるスタッフへと指示を飛ばすのだった。
【Idle Time】
優勝した12番ちゃんにはちょっと申し訳ないけれど、ここで案件編終了です。
もしかしたら後で12番ちゃんにはフォロー回を作ってあげるかもしれない。
最初からヒーローインタビューには乱入するつもりだったマハル様。
番組関係者の様子がおかしいのに気づきスタッフから事情を聞くなり、即座にフォローする為、脳内で配信者スイッチオン。
12番ちゃんのインタビューに乱入して場を盛り上げた上で彼女を賞賛し、スタッフにコメント欄を表示してもらい、コメントを拾いつつ、涼たちの話し合いが終わるまで、視聴者が退屈しないように、同時に12番ちゃんの優勝がかすまないようにトーク回しをしながらひたすら繋ぎ続けた。




