涼 と すぎる と 決勝戦
「れでぃぃぃぃす! え~んど! へんたいじぇんとるめん!!」
「変態余計やろ!」
「でも月宮、男子はみんな変態という名の紳士だって聞いてるからあってると思う」
「ツッコミ入れてると進まないからちょっと落ち着こう二人とも」
「それなら津田さんがボケなければ良かったんじゃないです?」
:それはそう
:決勝だろうとぐだぐだスタート
:涼ちゃんが正しい
:常識人気取ってるグレイは大変だなぁ
「ツッコミの嵐に負けずッ、初心者過ぎる大会! 決勝戦! 始めたいと思いま~~す!!」
:キターーーーーーーー
:8888888
:待ってた
「赤コーナー! ゼッケン7番! 10フィート棒を操るクラシックスタイルで堅実に駒を進めてきた、通称フィート棒ネキ!」
津田のアナウンスと共に、カメラの前にやってきて丁寧に一礼してから、疑似ダンジョンの中へと入っていく。
:お嬢様感あるお辞儀!
:やっぱ清楚系では?
:でもカメラ馴れしてる感もある
:本職はモデルとか女優だったりする?
「青コーナー! ゼッケン12番! キミのおかげで企画倒れにならずに済んだ! 理想通りの初心者すぎる探索者! 本当に初心者すぎる故に勝ち上がってきた期待の星!」
7番同様に、カメラの前にやってきて一礼してから、疑似ダンジョンの中へと向かう。
:フィートネキと比べるとぎこちないな
:カメラに対しても初心者かもしれない
:はわはわ系ドジっ子と見た
:ここでは暫定すぎるネキとでも呼ぼうか
「奇しくも女性同士! 華やかな決勝戦となりました。
そんな決勝に相応しいステージとなっております!」
画面に表示されるのは、水晶洞窟とでもいうようなダンジョンだ。
キラキラと様々な光が乱反射して幻想的な光景を作り出している。
:お?綺麗なダンジョンだ
:実際にあるなら涼ちゃん好きそう
:でもちょっとキラキラしすぎてね?
「決勝戦は洞窟ベースのダンジョンとなっていますが、光沢のある壁や天井に、宝石や水晶などが装飾され、ゴージャスで美麗なダンジョンとなっております。ちょっと光の乱反射で画面が見づらいのは今後の課題というコトで!」
:だよねw
:それな笑
:確かに見辛いwww
:ダンジョンの見た目はともかく配信映えは意識してなかったからなぁ
:でも遊べる商業施設として考えたら映え感も大事かぁ
:コメント欄に関係者が増えてて草
:っていうかダンジョンとしてもふつうに視界がチラついて難しいやつじゃない?
「両者がスタート地点に着きました。いつもの合図でスタートとなりますが、その前に一つ!
決勝戦は逮捕、卒業認定はナシとなります! お二人が人狼であるのならばッ、持てるチカラを存分に振るって頂いてかまいませんッ! 人狼であるならば是非とも、見逃した我々を嘲笑って頂きたく思いますッ!」
「これで両方人狼だったら、月宮は爆笑する自信しかない☆」
「いやまぁそれは自分もですけど。でも可能性ゼロじゃないの怖いんだよなぁ」
サラサとグレイの笑いながらの言葉に、涼とディグも笑う。
「そうなったらそうなったで楽しいから良いじゃないですか」
「どのパターンでも撮れ高がありそうなん、マジすごい企画じゃないですかこれ」
:これで両方人狼だったら神回になるよなw
:さすがに両方はないと思う思いたい笑
:両方すぎるでも企画成功だし両方人狼でも神回なの何気にすごい
:どっちか人狼でもそれだけで盛り上がるしな
「それでは! 長々とお待たせ致しました! これより決勝戦スタートです! 二人とも準備はいいですか? さぁ、決勝のシグナルをお願いします!」
津田の言葉が終わり、ワンテンポ置いてから――シグナルに赤いランプが点灯し、ポンという音が鳴る。
続けてもう一度、ポンと鳴る。
三度目のポンでシグナルが黄色に。
そして、四度目のポンでシグナルが青になると同時に、GOという文字が表示された。
すでに何度も経験しているからだろう。
二人はGOの表示と共に、一歩前に踏み出していく。
それからの動きは、これまで通りだ。
フィート棒ネキは相変わらず地面を棒で擦りながら慎重に進むし、暫定すぎるネキは恐る恐る動きすぎていて、フィート棒ネキよりも歩みが遅い。
:フィート棒ネキは相変わらずのスタイルか
:まぁそれ言っちゃうとすぎるネキも
:すげぇ!決勝なのにずっと地味だ!www
:二人のスタイル的にこうなるんだけどさ笑
:両方すぎるだったかーw
「フィート棒のお姉さん、だいぶ動きが良くなってるよね☆」
「そうですね。月宮さんの言う通り、だいぶ馴れを感じます」
サラサの感想に涼も同意する。
「戦闘だけは馴れてない感じやけど、まぁ日常的にやらへん行為やし、その辺はしゃーないんかなぁ」
「うん。それはあると思う。ディグだって、今なら格ゲーみたいな動きができるようになってるので、モンスターと戦ってください――って言われて、急にできないでしょ?」
「せやな。いくら戦える、身体が勝手に動きます言うてもモンスター前にしたら、やっぱビビってまうやろうし」
:超人化って初体験は浮かれるんだけどモンスターと向かいあうと現実を突きつけられるんだよな
:画面越しだとザコ扱いしちゃうゴブリンも対面すると怖い
:独特の獣臭さとか殺気とか飢餓感とか向けられただけでマジでビビる
:ちゃんと理解できてるディグさんは超人化適性さえあれば良い探索者になれる気がする
「しかしすごいな。試合内容は大きく盛り上がってないのに、試合そのもの番組そのものはめっちゃ盛り上がってるとかこの番組でしか体験できない気がする」
:試合の積み重ねの妙だよなぁ笑
:最後まで残った初心者すぎる人たちだからゴールまで応援したくなる
:決勝戦の二人が一生懸命なの伝わってくるしな
「……あれ? フィート棒ネキが消えた?」
「ほんとだッ!? え? 涼ちゃん、ちゃんと見てた?」
「見てたつもりだったんですけど、光が乱反射している関係上、どうしても死角があって」
「追跡用ドローンも止まってますね? バグかな?」
「これ放送事故になります? もうちょっと様子みましょうか?」
:え?フィート棒ネキ大丈夫?
:実は本物のモンスターが紛れ込んでて水晶の影には血塗れのネキがとか止めてよ?
パネラーもスタッフもコメント欄もざわつく中、フィート棒ネキを追跡しているドローンカメラがゆっくりと動き出す。
「対象がいないのに動き出した?」
「どういうコトだ?」
:こんな時なのにグレイと涼ちゃんのマジ顔がよすぎて
:月宮も完全におふざけ消えてる
:ガチモードの探索者がカッコよすぎる
:でもマジでそれだけの緊急事態の可能性があるのが
「……なんやあれ?」
ディグが画面を見ながら目を眇める。
「フィート棒ネキが着てた……上着、かな? ゼッケン付きのカーディガンっぽいのも落ちてるし……」
「なんで服が落ちてるんだ……?」
ざわつきが大きくなっていく。
さすがにコメント欄も、顔がいいだなんだのというコメントすら無くなって、心配するコメントばかりになっていく。
「ちょっとネキ!? ブラ落としてますけど!? 月宮が回収しに行った方がいい? っていうかブラ落ちる事態ってなに!?」
慌てるサラサの横で、涼がさらに難しい顔をして眉を顰める。
「レベルの高い変態でも混ざってたのか?」
「涼ちゃん真顔で何言っとるんよ?」
さすがにディグはツッコミを入れた。
「ズボンに、え? パンツ……まで?」
:ちょっとそれください!ってボケようと思ったんだけどボケて良い場面か分からず困る
:いやこれはどういう状況だ・・・
脱ぎ散らかしているかのように、あるいはヘンゼルとグレーテルのパン屑ではないが、痕跡や道筋を残すかのように、衣服が順番に散らされているようにも見える。
それを追跡するように、ドローンはそれらをカメラに納めつつ進んでいく。
「あ、フィート棒も転がってる」
「ちょっとマジでシミュレータに変なの混ざったりしてる?」
「これ自分たちが動いた方が良い事態ですか?」
:なんだこれ
:こんなコトするモンスターなんているのか?
:いやいやいる存在するにしてもそんなモンスターやトラップをシミュレータに登録した覚えは無いんだけど
そして、ドローンのカメラがひときわ大きな赤い水晶を映す。
その物陰から、何かが飛び出してきた。
乾いた音を立てて転がるそれは、いわゆるドミノマスクと言われるそれだ。
「ちょっとちょっとッ!? フィート棒ネキの付けてたマスクじゃん!?
完全に全裸で、素顔も出ちゃってる状態じゃん!? そんな状態のネキ映しちゃっていいのッ!? いや言ってる場合じゃないかもだけど!?」
大慌てのサラサ。
それに乗せられるように、パネラーやスタッフ、コメント欄も慌ただしくなっていく。
そんな中――一人だけ冷静な者もいた。
「月宮さん落ち着いて。これまでドローンが映してきた光景に、モンスターも人の気配もなかったですし、トラップが起動した様子もなかった」
「涼ちゃん?」
「カメラの前でのパフォーマンスからして、こういう配信番組やテレビ番組になれている様子はありました」
:みんなが慌てだしてる場面で一人だけクールなの心強い
:料理が絡むとボケボケだけど探索が絡む時はひたすらクールよね涼ちん
:こういう時は喋り方含めてすごい落ち着くコトを意識してるっぽいのすごい
「可能性として、彼女が女優などの芸能人の可能性は常にあったんです。
そういう意味では、決勝戦を盛り上げる為のネタを用意していても不思議ではありません」
「だけど、シミュレータの異常で奇妙な行動をするモンスターが出現していたり、あるいはどこか本物のダンジョンと接続していてそこのモンスターがあの水晶のウラ辺りに潜んでる可能性もあるよね」
「もちろん。グレイさんの言う可能性もゼロじゃないです。
だから、不要な情報にアテられて慌てる前に、見える情報から掴める範囲で情報を掴み、対応を冷静に考える必要があるんです」
「あー……うん。涼ちゃんの言う通りだ。月宮、だいぶテンパってた。ありがと!」
「いえいえ。ボクも月宮さんとグレイさんが最悪を想定してくれていたからこそ、別パターンの予測を立てる余裕があっただけですから。こちらも助かってます」
「涼ちゃんのそのクールさ、すごい頼りになるな。喋ってるうちに落ち着いてきた」
:月宮のダンジョン配信では見られないパターンだ
:だいたい一人でテンパってるもんなサラサちゃん
:上級探索者二人、中級探索者一人の組み合わせだったのは本当に助かるな
:誰が中級?
:月宮だよ言わせんな
:まぁグレイや涼より一歩劣るとは自分の配信でも言ってたし
:一歩ですむのか?
コメント欄もだいぶ落ち着きを取り戻して、これまで通りのノリに戻ってきている。
だからといって、緊迫感そのものは完全には消えていない。
「カメラ、動かへんようになったな」
「ええ。でも水晶越しのモザイクみたいな感じですけど向こう側で何かが動いてる感じはありますね」
涼たちの探索者的やりとりを邪魔しないように、ディグと津田も画面に注視。さすがに二人もかなり真剣な顔になっている。
そして誰もが固唾を呑んで状況を見守っている中――水晶越しに見える影の様子が変わった。
ピリリ……と、スタジオに緊張感が走る。
そして――
『おーっほっほっほっほっほっほっほっほ!!』
――水晶の裏から、涼とサラサにはとても聞き覚えのある高笑いが響き始める。
「あー」
「え?」
高笑いと共に、水晶の影から人が出てくる。
口元に手を当て高らかに笑い続けるその人物は、金髪縦ロールに薄紫色の瞳に、赤いフレームのメガネに探索者用にカスタムされた見た目豪華ドレスを着たかけたハデなコスプレ姿の女性。
:おいおいおいおいおい
:うそだろマジかよ
:ウィッグもなしメガネもなしとはいえ気づけなかった
:ハンパねぇ
:ここへ来てかよ
:完全に騙された
『フィート棒ネキこと一千万本松マハル! 人狼として皆様をここまで騙しきってやりましたわ~~!!』
決勝戦も中盤ともいえるこの瞬間――最後まで残った人狼は、誇らしく胸を張って、高らかな声で、してやったりとばかりに名乗り上げるのだった。
【Idle Talk】
ひたすら我慢して我慢してフィート棒ネキを演じてたものの、先に我慢の限界が来て爆発したピストル大名様を羨ましいと思ったりもしておりました。
ですが、スパイ設定を活かすにはここでがんばらなければなりません。そう頑なに自己暗示をかけ続け、ここまでやってきたのですにゃ~~!!
配信内容に一切使われない設定だけスパイとはもう誰にも言わせませんわ~~!!




