涼 と 雑談 と スキルあれこれ
「えー……決勝専用のフィールド設定に手間取っているようなので、少し雑談で間を待たせて欲しいとカンペでましたね」
「それ、言っちゃっていいんですね」
:まぁ今回疑似ダンジョンシミュレータのお披露目会の意味もあるからな
:スタッフも開発者も使い馴れてないんだろうなw
「とりあえず、何かあります?」
「津田さん話題の投げかた雑ちゃいます?」
:本当にな笑
:涼ちゃんたち困ってて草
「あ、そーだ☆ じゃああれだ! 月宮の気になってるコト、聞いていい?」
「はいはい。なんでしょ?」
元気よく挙手した月宮に、津田が先を促す。
「この疑似ダンジョンってさ、超人レベルがあがったり、スキル覚えたりできるの?」
:確かに
:言われてみると気になるわそれ
「それは……どうなんでしょう? 誰か分かる人いないかな」
津田としても想定外の質問だったのだろう。
少し戸惑っていると、スタッフがカンペを見せた。
「お? 控え室にいるプロ戦闘ネキが解説してくれるみたいですね。
中継は繋げられるっぽいので、そっち行きましょう」
:プロ戦闘ネキ関係者だったのか
:面白いコトになってきた
『もう喋っていいのか? うむ。では失礼して――』
モニタにプロ戦闘ネキが映る。
相変わらず仮面を付けたままだが、それは敢えてなのだろう。
『まずは、このような催しに参加させてくれたコト。そして大なり小なり私を応援してくれたり、褒めたりしてくれた方がいるコト、感謝させて頂く
開発に携わっていながら、実際に体験していなかったのもあって、良い機会を得られた』
:ネキの声いいな
:カッコいい声のネキだ
『そしてこの場では皆が付けてくれた呼び名、プロ戦闘ネキを名乗り解説させてもらう』
:もしかしてうちの社長の秘書さんでは?
:今気づいたけど先輩くさいぞこれ……
:一部に身バレしはじめてるの草
:しない理由がないよなぁww
:これだけ情報揃えばさすがに身内は気づくだろ笑笑笑
『さて、先ほど月宮サラサ女史より頂いた質問、このシミュレータでレベルアップできるかどうか――に関してだが、単刀直入に答えを口にすれば――出来ない、が答えだ』
:できないのか
:まぁシミュレータだしな
『ダンジョン内に満ちる、マナやルーンマナと呼ばれるチカラを擬似的に再現し、擬似的に超人化ができるようにし、マナの動きによって生じる特殊現象――つまりはスキルもまた、それに応じて擬似的に起こしているのが、このシミュレータだ。
モンスターを倒したり、特殊な行動をすると、ルーンマナを得たような気分にはなるかもしれないが、それらも全て擬似的に再現されたモノ――錯覚に過ぎない。
例えるならば、味も匂いも完全再現されてるけれど、栄養は一切存在しないし腹も膨れない料理のようなモノ……と、思って欲しい』
:なるほど
:あれ?でもそうなると槍フィートニキは?
「あ、プロ戦闘ネキさん。ちょっと補足させてもらっていいですか」
『うむ。涼くんだったね。構わないぞ』
:すかさず補足できる涼ちん
:今の話に開発に関わってない涼ちゃんが補足する要件とかあったの?
「コメントでも気にしてる方がいましたが、槍フィートニキの件ですね」
:やっぱそこ触れるか
:シミュレータの中では成長しないはずなのにスキル覚醒してたしな
「これはまだちゃんとした理論が確立しているモノではないんですけど、体感としてスキル習得には二種類のパターンがあると考えられます」
「それって、レベルアップで覚えるスキルと、アイテム使って覚えるスキルってコト?」
グレイの質問に、涼は首を横に振る。
「いえ、それはどちらも超人化した肉体に――ダンジョンからスキルをインストールされるという意味では同じです」
「せやったら、ダンジョンから与えられるスキルと、そもそも人間が最初から持っていた潜在能力のスキル化みたいなコトやったりします?」
「そうですね。ディグさんのそのニュアンスが近いです」
:わかるようなわからないような
「槍フィートニキもそうですけど、格闘家ニキもですね。
元々持っていた素養、技能、潜在能力。そういうモノが超人化したコトによって、倍化したり成長したりして、それがスキル――ゲームとか漫画とかに習うならユニークスキルと称した方がいいかもしれないですね――になるワケです」
「超人化しても、結局はこの身は月宮本人のモノであるのは変わりないもんね。
……って、あ! じゃあもしかして、ダンスレッスンやボイトレやってる月宮は、ダンジョン内でそれ使い込むと、なんか変なユニークスキル化したりするコトもある?」
「可能性はゼロじゃないです。超人化の恩恵って偏りは生じるものの、領域外と比べると全ての能力は間違いなく上がってますからね」
:またそういう話を雑談ではじめるんだから
:涼ちゃんサラっとやばい情報を流すのやめてよー
「話は逸れましたが、この元々備わっていた能力が超人化の影響で強化され、その強化された能力がその身に馴染んで使いこなせるようになったり、なんらかのコツを掴んだりすると一気に覚醒するコトはゼロじゃあないんです。
通常のスキル習得と違って、これの場合はマナやルーンマナよするに経験値やスキルポイント的なのは必要ないコトがある――というのは、ボクの経験上、感じているコトです」
:つまり条件さえ満たし終えているならシミュレータ体験中に覚醒するコトもあるのか
:こーれは大変な情報では?
「――そんな感じで補足終わりです。プロ戦闘ネキさん、話の腰を折ってしまってすみません」
『……いや。なんというか、キミはすごいな。補足のようで、ヘタな研究成果よりもよっぽど重要なネタをサラっと……』
「え? そうです?」
:おれ何かしちゃいました顔だ
:リアルで見ることができるとは
やや引き気味のネキの言葉に、涼はコテンと小動物のように首を傾げる。
『コホン。ともあれ、私もまだ把握していなかった情報の補足ありがとう。涼くん』
:涼ちゃん無自覚なのやばいんだよな
:涼がメディア露出してるから目立ってるだけで意外と知ってる人もいるのかな
:まぁ研究所閉じこもってるダンジョン研究者よりも前線に出てる探索者の方がよっぽどダンジョンに詳しいはあるかもだけど
『説明の通り、このシミュレータはダンジョンを構成する要素でもっとも重要なマナとルーンマナの疑似再現技術がある程度確立したからこそ完成した施設だ。
だが、そのどれもが疑似再現でしかないという点に注意していただきたい。涼くんの言う通り、一部のスキルの覚醒はありえるが、通常のレベルアップ習得のようなモノは発生しないのは間違いない。
また、先ほど涼くんが言った通り、疑似ダンジョンは本物のダンジョンとは繋がっていない。その為、シミュレータによる疑似ダンジョン内でのスキルマテリアルの使用は無意味だ。間違ってもシミュレータ内で握り砕くようなコトはしないように』
:握り砕く?
:スキルマテリアルってのはようするにスキル取得用アイテムだ
:水晶みたいなアイテムを握り砕いて使うんだよ
:なおお値段
:シミュレータ内でマテリアル使ってもスキル覚えないから気をつけろって話だな
:クッソ高価なんだよなぁ
:大金ドブに捨てるみたいなモンだよなぁ
『――とまぁこんなところだが、涼くん。他に何かありそうかな?』
「え? ボクに聞きます?」
涼が不思議そうに首を傾げると、パネラーも視聴者たちも、そりゃ聞くだろうよ――という顔をする。
「えーっとそれじゃあ……」
涼は少し考えてから、小さくうなずく。
「確かにシミュレータ内での超人レベルの成長は見込めないようです。
ですが――話を聞いてる限りですが、シミュレータ内で鍛錬を繰り返した場合、一部のスキルは成長する可能性はあると思います」
:おっと?
:またそういうやばそうな補足をw
:有用な切り抜きポイントが多すぎる
「格闘家ニキの時にも言った、元々格闘技やってる人の格闘系の必殺技はキレが増す――みたいな話に通じるやつですね。
シーカーズテイルの鳴鐘さんもそれです。ひたすら居合いスキルを練習したコトで、リアルでも使えるくらいになりました。それによって技のキレが増してるし、その果てにダンジョンで新たな派生スキル覚醒に繋がったりしています。
経験値やスキルポイントにならないからシミュレータでの特訓は無駄――というコトにはならないと思います。ようは使い方ですね」
『なるほど。そういう使い方ができるように、施設の一部の設定や配置を変更も一考の余地がありそうだ。ありがとう涼くん。自分自身の体験だけでなく、キミのような人物に補足してもらえたのはとても有益であった』
:スポンサー大満足で草
:これは第二回もありえる?
:次があったら今度こそ参加者全員人狼確定だろ
『視聴者の皆様におかれても、無関係な女が横からしゃしゃりでるように語って申し訳なかった』
:いえいえ全然OKです
:むしろ有用な情報ありがとう
:近所にあったら行きたかったなこの施設
そうして、中継の画面は消え、メインカメラがスタジオへともどってくる。
すると、画面の真ん中でサラサが腕を組んでウンウンと唸っていた。
「月宮、どしたん?」
「いやー、今の話を聞いてさ? ダンスから何か面白技が生まれないかなぁって思ったんだけど、実際ダンジョン探索にダンスって役立つ?」
「なるほど。それを言われると難しい話やな」
一緒になってディグも唸るが、むしろ涼は即座に答えが出せる。
「あると思いますよ。そもそも、ダンジョンで取得するスキルの多くは異世界や並行世界から流出したスキルの記憶らしいですから」
「つまり、なんかダンス的必殺技が?」
目を輝かせるサラサに、ディグはそれはもう良い笑顔で告げた。
「それこそ自分の命を犠牲に、パーティメンバー全員へ蘇生+HP完全回復みたいなスキルとかとちゃうん?」
「いらないよ!? 基本ぼっち探索の月宮には不要なスキルだよ!? 月宮が取得して使っても無駄死にだよ!?」
:ハイテンションコミュ障やしな月宮
:ダンジョン内で完全初見の人と出くわした時の様子は語り草
:切り抜きだけ知ってるけど笑ったわあれww
:こういう案件やコラボの時はちゃんとトークできるのにね
「ディグの話は冗談にしてもさ、ほら。現実にもカポエラがあるじゃない?
ダンスのフリして鍛えられていったっていう、足技主体の格闘技。格ゲーでも使い手がちょいちょいいるあれ。
それを思えば、ダンジョンでダンスを使ってみる――というのは、悪い手じゃないかもね」
ディグのフォローに、サラサがそれだー! と安堵する。
「ゲームにも日本舞踊的な動きで攻撃する扇使いとか、ポールダンスのように槍を使うランサーとか、アラビアンな踊りをしながら剣を振るうソードダンサーとかあるじゃないですか。
異世界なんてところからスキルが流出しているのであれば、そういうのも案外あるかもしれませんよ」
涼もフォローすると、サラサは目を輝かせる。
「いやこれは大真面目に実験してみるべきか?」
「スキル取得上限には気をつけなよ?」
「そこがネックなんだよね~☆」
個人ごとに差はあれど、ダンジョン内で取得できるスキルの数には天井がある。
取得スキルの数がそこへと到達すると、あとはどんな方法でもスキルが取得できなくなってしまうのだ。
ただその上限を知る方法がないので、おっかなびっくりスキルを増やしていくしかない現状なのだが。
「さて、有意義な雑談に盛り上がっているところ恐縮ですが――決勝戦用のフィールド準備が完了したようです」
:お、きたか
:もうちょっと雑談でもいいけどw
「みなさん、雑談切り上げても大丈夫でしょうか?」
「おっけだよー☆」
「問題ありません」
「ええですよ」
「いきましょう」
津田の言葉に、四人がうなずく。
「それでは、決勝戦を始めたいと思います。両選手は、フィールドへ移動をお願いします!」
【Idle Talk】
現状、涼たち現役の探索者たちが知りようのない話なのだが――
実は槍フィートニキのような、自前の能力がスキル化したようなユニークスキルは、スキル取得上限対象に含まれない。
また鳴鐘のように、スキルをひたすら使い込んで自前スキル化した場合、取得上限対象から外れる。
さらに、湊や白凪の魔法剣のように、スキルを介さず自前で行っている特殊行動なども、当然ながら上限対象に含まれない。
スキル上限とはようするに、脳や魂の容量限界。
専用の保存領域にアプリとしてスキルをインストールしていると、いずれ容量の限界がくる。
けれど、元々本体メモリに保存してある情報はもちろん、インストールされたスキルを使い込みによって本体メモリへのコピーすれば、専用領域から削除しても問題なく使用できる。そんなイメージ。
そんなワケで、涼、鳴鐘、ピストル大名などは、自分はスキル天井高い方かも……と思っているのだが――確かに人より天井が高い面はあれど――実際の所はコピー完了しているスキルが自動削除されたり、ある程度本体メモリへコピーされたスキルの一部容量削減が発生してたりで、容量確保がされてるだけだったりする。




