涼 と 唐揚げ と 準決勝開始
「ここからは準決勝となります……が!」
三回戦の試合を終え、全員が一息ついたところで、司会の津田が盛り上げるように口を開く。
「準決勝は二試合同時進行はせず、一試合ずつやらせて頂きます」
:お、それはじっくり見れていいな
:解説も濃くなりそう
「そしてもう一つ! 解説の皆さんの逮捕権限は、準決勝までです。つまり、決勝戦では逮捕は発生しません出来ませんッ!」
:なん・・・だと・・・
:実質最終判定場
:生き残っている人狼はここで潰すしかないのか
:人狼がいたとしてこの四人から暴くの無理だろw
「まぁ、なんや。なるようにしかならんやろ。ここまできたら」
:ディグにゃんが投げやりすぎて草
:でも実際ここまで来たらそうだろw
「そだねー☆ もうなるようにな~れ☆」
:月宮も乗っかったw
:まぁ乗るよな月宮なら笑
「実際、人狼がいるならどういう行動が初心者っぽく見えるかを把握している人というコトになりますからね。あとあと、少し参考にお話聞きたいところです」
:グレイまじめ
:今日のグレイは基本まじめモードだね
:もっとふざけていいのよカレーの話はじめたりとか
:ディグにゃんとのめくるめく過去の話とか
「いやしないし。あとディグとめくるめく過去って格ゲー遠征で海外行った時に、同じホテルに宿泊したメンバー何人かと一緒に突然はじまった坊主めくり枕投げの話でしょ。誤解を招く言い方やめて!」
:坊主めくり枕投げ とは
:すごいパワーワード出てきたぞw
:坊主めくりして坊主ドローしても対戦相手に枕なげれば無効にできるってやつだったかな
:ただし山札とか手札とか吹っ飛ばして盤面ぐちゃらせたら負け確っていう
:それより格ゲー遠征に百人一首持ってったの誰だよwww
「ちょっとしたエピソードが濃いなぁ」
突然出てきた謎のエピソードに、津田が感心したように笑う。
サラサに至ってはツボったのかゲラゲラ笑っていた。
「ところで、涼ちゃん。大人しいけど、大丈夫?」
話題を変えるようにグレイが涼へと話しかける。
:確かに
:長丁場で疲れてきたか
:いや涼ちゃんの場合疲れたというより欠乏かもしれない
:欠乏?なんか病気?
「あー……いえ、そろそろ鶏肉摂取したくて……。
ギャラ用の冷凍黒鶏。冷凍のままでいいんで、持ってきて貰いたいくらいです」
:冷凍のままでいい?
:この子は何を言っているの?
「ん? どうしたのスタッフ?」
会場もコメント欄も困惑している中、何やらスタッフが涼の元へと何かを持ってくる。
「モカPからの差入れです。そろそろ禁断症状ではじめる頃だろう、と」
:さすがはモカP
:ちゃんと把握しておったw
:え?なんで唐揚げ??
:唐揚げピラミッド……!?
さらなる困惑が会場を支配する中、月宮サラサが高らかに声をあげた。
「説明しよう! 涼ちゃんは鶏肉――特に揚げ物をエネルギーに活動している鶏肉ジャンキーなのである! 定期的に摂取しないと今のようになんだか元気がなくなってしまうのだ!」
:なんだか元気がなくなる草
:身体が鶏肉を求めてたのねw
:まぁでも長丁場だもんな
:鶏肉欠乏症は笑ってしまうww
「それはそれとして、月宮も唐揚げ食べたいのでコーラと一緒にください!」
「それやったら自分も欲しいんやけどなぁ~、なーなー、スタッフ~?」
「すたっふ~☆」
:おねだり月宮におねだりディグにゃん
:字面だけだとディグの方が可愛く見えるのむかつく
「あ、ほんとに出来てきた」
「言うて見るもんですね」
:なんで出てくるんだ・・・
「え? モカPの采配なの? うわー! ありがとうございます!」
「先読みしてはったんです? そら、すごい。いや、ほんまありがとうございます。ありがたく頂きますよ」
「あ、自分の分もあるんですね。ありがとうございます。ありがたく頂きます。あ、飲み物はコーラよりもウーロン茶でお願いします」
:ちゃんとグレイ用にウーロン茶もでてくるしwww
:モカPなる人有能すぎない?
:涼ちゃんねるのバックアップメンバーの一人で影の超優秀フィクサー
「あ。あのー……私、津田マテリアルの分はございますでしょーか-? え? ないの? マジで? 司会者いじめ?? ちょっとモカP! モカP様!!」
:マジでモカP優秀じゃんwwww
:笑いを分かってて草
津田はモカPの名前を呼びながらテーブルの前に出てくる。
そして、そのままモカP連呼しながら、仰向けに床に転がり、両足を丸めながら背中を軸に横回転を始めた。
「モカP~!! 揺れるバスの中で名前を連呼するのでモカP~!! 俺にだけ何故か唐揚げが足りないよ、モカP~~!!」
:持ちネタの揺れるバスだw
:揺れるバスより揺れる津田マテ草
:そら津田マテはこういうリアクションするよなw
:くるくるするなwwww
さらにはそこから頭を下にして、ブレイクダンスのヘッドスパイラル的に回りだした。
「も~か~P~!!」
:はやく司会しろ笑
:テンション高すぎて草
「あ、スタッフさん。唐揚げおかわりってあります?」
「ありますよー」
「ありがとうございます」
:涼ちゃんおかわりしてるw
:え?あのピラミッドもう完食!?
:同量のおかわりでてきたすげぇ
「ちょっとッ!? おかわりあるのに僕の分ないんですかぁぁぁぁぁ~~!!」
:回転激しくなった
:気持ちは分かる
:確かにおかわりあるのに津田マテの分ないのは理不尽かもww
「津田さん。回転楽しめたのでモカPが唐揚げくれましたよ」
「モカPさんきゅ~↑↑ やっふ~!!」
持ち前の身体能力の高さで、回転しながら立ち上がり、ポーズを決める津田マテリアル。
しかし、カッコいいポーズをしたあとで、動きを止めた。
「……いつもより回りすぎたのか気持ち悪い……」
:www
:アホかな?
:まぁ貰えたからヨシとしろ
「ともあれ、頂きます」
:どうぞどうぞ
:疲れてるなぁw
「どーして、俺の分だけ、レモン掛かってるの~~↑↑」
:沈黙の唐揚げレモンはギルティ
:面白すぎるw
「あ。レモンOKなので要らないなら下さい」
:こら涼ちゃんw
:ここぞとばかりに笑笑笑
「やだー! あげなーい! っていうかふつうに美味しいぞこれー!」
:賑やかだなぁ
:津田マテ水をがぶ飲みしてるし
:モカPもしかせんでもレモン掛けたのわざとか?
:そういや他の面々と違って津田マテのテーブルのドリンク全然減ってなかったもんな
「あー……さて、無事に唐揚げも貰えましたので、改めて準決勝に行きたいと思います。皆さん――特に涼ちゃん、進めていいですか?」
「あ、はい。もちろんです。食べながらがんばります」
:食べながら笑
:涼ちゃんねるの雑談枠じゃないんだからw
:ハムスターみたいなほっぺたになってて草
:他三人が黙々と食べてる笑
:もしかせんでもお腹空いてるんじゃない?長丁場だし休憩短かったし
「では、準決勝第一試合のお二方、ダンジョンへお願いします」
津田のその言葉と共に、メインモニタや、各卓上モニターに試合に挑む二人の様子が表示される。
「準決勝第一試合のカードは!
ゼッケン7番。視聴者による通称は10フィートネキ! 少し怪しまれる場面はあるものの、順調にここまで勝ち上がってきた、優勝すぎる候補!」
10フィート棒を握りながら、10フィートネキは丁寧にお辞儀をする。
その仕草を見、涼は口いっぱいに唐揚げを頬張りながら眉を顰めた。
「対するはゼッケン32番。視聴者による通称は格闘家ニキ!
格闘家というコトで戦闘面ではその能力を存分に見せつけてくれはしているものの、それ以外の立ち回りは完全に初心者というコトで、ここまで見過ごされてきた漢です!」
片腕を挙げながらカメラにフレームインしてくるその様子は、テレビカメラの回る前で格闘試合をした経験の持ち主を思わせる。
そんな彼に対して、グレイは口の中の唐揚げをウーロン茶で流し込みながら首を傾げた。
「準決勝のダンジョン形状は、これまでの洞窟型から一転して森型となります。
とはいえ、環境が違う以外は第三試合の分岐形状の発展系でしかありません。
これまでの経験を元に、どれだけの試合を見せてもらえるか、楽しみですね」
そうして、両者がそれぞれのスタート地点に立ったところで、津田へと合図が送られる。
「それでは! 準決勝第一試合! スタートしてくださいッ!」
こうしてパネラー陣が唐揚げを頬張る中、準決勝が始まった。
【Idle Talk】
出てきた唐揚げは、会場近くにある町中華の店の唐揚げ。
このパターンは想定していたので、モカPは事前にスタッフと相談の上で、中華店に予約をしておいた。
津田マテの分を出し渋るのはスタッフと共有していたものの、津田マテにはナイショにしていたので、回転リアクションは完全に彼のお笑い芸人としての対応力によるアドリブ。
なお、気持ち悪くなってしまったのはガチ。
司会として喋るコトを優先した為、水分補給も少なめだったことから、いつもと同程度に回転したところで気分を悪くした。
津田の分だけレモンを絞ってあったのは、水分含む体力補給を狙ったモノ。レモンの酸味に刺激されて水分を補給してくれれば万々歳という作戦であり、上手く行って良かったとモカPやスタッフは安堵した。